第1章 [14]
魔物狩り初体験の次の日、夢から覚めて御機嫌だった私は朝食を終えると、皆さんへのお礼に露天風呂を早速作ろうと叔父上に会いに行った。
コンコンと扉を叩き、入室を許可された私は
「おはようございます叔父上。昨日はありがとうございました!」
と元気よく挨拶をした。
叔父上はまだ少し疲れたお顔をされていた。叔父上と一緒にお師匠様が部屋にいた。
「お仕事中申し訳ありません。今、少しお時間いただけますか?無理そうなら出直して参りますが。」
「ああ、今ならちょうど良かったぞ。どうしたんだ?」
「ええとですね、昨日のお礼に、簡易的なのですが地魔法で露天風呂を作って皆さんに入っていただくことになったので、詰所の練習場の一角をお借りできないかなと思いまして、相談に来たのです。」
「地魔法で露天風呂〜?サティはそんなことが出来るのか?すごいな!いいぞいいぞっ!私も入りたい!疲れが取れそうだ。」
「え、そんなにあっさり許可をいただいてしまって大丈夫ですか?なんかもう少し……」
「あー、ふむ……そうだな、兄上には話を通しておかねばならないか?」
「あ、それなら今朝、父上には了解をいだだきました!詳しくは叔父上の指示に従うようにと。」
「なら何の問題もない。兄上と私が良いと言っているのだからな!で、いつ作るのだ?今日か?明日か?」
「で、出来れば今日が良いかと。あはは。叔父上、本当に入りたいのですね?昨日の疲れがお残りですか?」
「そうなのだ。もう私も若くないからなぁ。アレを使うとしばらく体が使い物にならん。」
「ビッグスターにしか分からない辛さですね。今なら総隊長に挑んでも勝てそうだ。」
とお師匠様が話に入ってきた。
昨日の表情とは全然違う、今朝はなんだかいつもより穏やかな顔をしている気がした。
「何言ってんだ。お前は俺が調子良い時だって互角に戦うじゃないか!まったく、俺をいじめるのも大概にしろ!」
なんだ、叔父上とお師匠様、超仲良いんじゃん。叔父上が俺なんて一人称を使う所を初めて聞いた私は安心したのだった。
「では用意が出来次第、作業にかかろうと思います。」
「誰か手伝いは必要か?脱衣場なんかはどうするのだ?」
「そうですね、お風呂自体は魔法で全て出来てしまうと思うのですが、脱衣場というか、皆さんの裸体が外から見えない様に陣幕か何か設置出来ますか?」
「ああ、陣幕ならたくさんあるから、若い奴らに持って行かせよう。昨日の奴ら以外にも隊員達が入っても良いのか?」
「はい!叔父上とお師匠様と、昨日お世話になった人達が入り終わったら誰でもお好きにどうぞ!ただ、簡易的な露天風呂なので明日明後日くらいには消えてしまうと思います。あと、女性用の湯の希望が出ましたら言ってください。後日、屋敷の裏庭の方に作ろうかと。」
「わかった。それも伝えとこう。それから、風呂の排水はどうするんだ?」
「排水はすぐそばの館の下水川に流れるようにするので大丈夫です。地下から排水するつもりです。」
「おお、そんなことも出来るのか。地魔法はいろんな使い方があるのだな。トレランス先生に教わったのか?」
「先生には水場の作り方を教わりました。お風呂はそれの進化形という感じでヨハンの知恵を借りながら遊びでやっていった感じですかね。野営ごっことかして裏庭で遊んでいたんです。」
「ほぅ、サティには本当に感心するな。12才とは思えない研究熱心さだ。王都に行く頃がますます楽しみになるな。これからも励めよ?」
ありがとうございます。では後ほど、と執務室を出て自室に戻り、汚れても良い、泥遊び用の服に着替えた。
――――――――――
詰所の練習場に着くと、誰も居なかった。今は魔物が多い時期だから隊員さん達も外回りが多いので、こちらには居付かないみたいだな。
「良かった!気兼ねなく自由にできるね!」
と独り言を言い、さっそく始めることにした。
まずは露天風呂を作る。土魔法でざっくりと、大体の形を作る。
その後、お風呂にお湯を引いてもドロドロにならないように湯船を石で覆っていい感じの露天風呂にする。
それを二つ作った。
それと、汗を流す小さな水場も二つ作った。お風呂に入る前に体の汚れや汗を流してもらう場所だ。
お風呂の周りは芝生にしてみた。
脱衣場も芝生。そこから水場、お風呂まで歩いて来れるように。
全体的に見るとけっこう広くなってしまったので、陣幕が足りるか少し不安だが、足りなかったら通路側だけ設置してもらえばなんとかなりそうだった。
女性が歩きそうな場所に目隠しが出来ればね。
そこまでやって空腹を感じたので遅めのお昼ごはんを食べに屋敷に帰った。
露天風呂を作っていると言ったら、母上が後で見学に行くとおっしゃっていた。
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お腹も満たされ魔力も回復してきたので午後も引き続き露天風呂作りに励む。
まず、露天風呂周辺の水脈を探る。
露天風呂に水と湯を引き入れるためだ。あと水場にもね。
今日は急ぐこともないし、ちゃんと詠唱した方が良いだろう。水脈と湯脈を一気に引きたいし、その方が余計な魔力を消費しないで済むし。まあまあ大量の魔力を使うのだから。
「大いなる大地よ 吾に示したまえ この眼に宿したまえ しばし吾の思うまま 其を貸し与えたまえ ――――引脈!」
地面に四つん這いになり、目を閉じ感覚を研ぎ澄まして詠唱した。
魔法が発動し、体を起こして目を開くと、大地の水脈が自分の視界に映される。
地面を見つめると、キラキラとたくさんの光る筋が見え始めた。地下水脈だ。
チョロチョロしたものからゴーゴーしたものまで様々。
あまり太い水脈をいじると後が怖いので、手頃な水脈を拝借する。
水の道は白っぽくキラキラ光っている。少し黄色がかったキラキラはお湯の道。
選択した湯の道を手繰り寄せる感覚で集中力を切らさないように露天風呂まで引き入れる。
今もし母上が私の姿をみたら、きっと私は一人で見えない綱引きをやっているように見えるのだろう。滑稽な姿だよね。
露天風呂まで上手に湯脈を引き入れることが出来たようだ。
あらかじめ作っていた引き入れ口からお湯が勢いよく飛び出してきた。少し溜めて、お湯を手で触ってみる。
まぁまぁ熱い。これでは湯船でゆっくりできないな。
次に水の道を引き入れ口まで引いてきて、お湯と混ぜ合わせる。
露天風呂としてちょうどいい温度に調整するのだ。
少し苦戦してしまい、ぬるめの温度になったのだった。
ある程度お湯が溜まったら、今度は排水用の水路を作って行く。
引き込んだ量よりも少しだけ少ない量が排水されるように調整する。これが一番難しく、なかなか上手くは行かない。
結局引き込むお湯の量を少し増やした所で合格点になったが、お湯の温度までは修正出来なかった。
そうだな、じゃあもう一つの湯船は先に排水用の水路を作っておこう。それから少しずつ引き込む湯量と水量を調整して先ほどよりも熱めの湯船にしてみようか。
さっきの感覚を修正しつつ、先に排水路を作り、それから湯脈と水脈を引っ張って混ぜ合わせ、排水の具合を確かめる。
焦ることはない。時間をかけて丁寧にやればきっと大丈夫だと自分に言い聞かせながら、慎重に作っていった。
うん!うん!我ながら良いかも!満足のいく露天風呂が完成したのだった。




