第1章 [13]
同時魔法を展開し始めた私の背後にもの凄い気配を感じ振り返ると、地面に人影が写り、見上げると叔父上が降ってきた。
ふわりと風を纏って優雅に着地すると、毒双蛇の方へ歩き出しながら手袋を脱ぎ捨てた。叔父上の魔力が禍々しい程の覇気を放っている様な気がした。
それを見たお師匠様とアベルさんが即座に撤退しながら叫んだ。
「総隊長から離れろ!!」「みんな早く下がれ!!」
え?なんで下がるの?
と思っていると、お師匠様が私の側に飛び込んできて、
「もう少し後ろだ!」
と私とデニスさんを引きずった。
向こうではアベルさんが他の隊員さんを安全圏まで引っぱって退避していた。
見ると叔父上の左の掌が光っていた。
「あの光は直視するなよ!目をやられるぞ!」
そう言ったお師匠様の顔は少し狂気じみていた。見たことの無い表情だった。
叔父上は毒双蛇の真ん前に立ち、右手を自分の顔前にかざし、左掌を敵に向けた。
「閃光!!」
その言葉によって掌から放射線状に無数の光線がほとばしり、それらは毒双蛇を一瞬で貫いた!
光線が消えると、毒双蛇の体は脱力し、そのまま大きな音を上げ地面に倒れ落ちた。
「……死んだんですか?」
とお師匠様に訊ねると、
「ああ、終わったんだ。あの異能力はそういうモノだ。」
お師匠様は少し憎たらしそうに答えると、叔父上の方に駆け寄って行った。やっぱりあれはビッグスターの為せる業だったんだなと私は納得した。それにしても、叔父上が登場してからのお師匠様は見たことの無い表情ばかりで、私は内心驚いたのだった。お師匠様って実は叔父上が嫌いなのかな?とか思ってしまった。
お師匠様とアベルさんが叔父上に駆け寄ると、叔父上はどっこいしょ、と地面に胡座をかいて座ったのだった。
先ほどまでとは打って変わって、覇気は消え疲れた顔をしていた。
私とデニスさんも叔父上の元へ駆けつけた。
「叔父上、ありがとうございました!…なんだか疲れた様なお顔ですが…」
「ああ、アレを使うとこうなる。サティにもそのうち分かるさ。」
「ビッグスターの異能力ですか?」
「そうだ。ビッグスターの異能力はとてつもない。お嬢だって今、有り得ないようなモノを見ただろう?あの技は、ビッグスターの体力や魔力、霊力なんかを大幅に使うらしい。バケモノ級の総隊長がコレなんだからな。」
とお師匠様が叔父上の代わりに説明してくれた。叔父上はお疲れなので、代わってくれたのだろう。
「しかし初めて拝見しましたが、夢の中なのか現実の出来事なのか、未だに疑わしいですね!」
デニスさんが興奮した様子で叔父上に向かって感想を述べていた。
お師匠様とアベルさん以外、ここにいる者たちは初めて見たビッグスターの異能力。
今日見た内容は絶対口外しないように!とお師匠様が我々に言った。
ビッグスターの技は国家機密。絶対秘匿情報なのだ。
「もし口外した場合は…?」
「口外したことが判明した者は、王命において首が飛ばされる。その家族も同様だ。なお、今日の出来事の詳細は辺境伯様から王宮へ報告される。当然、ここに居合わせた者の名前もな。」
「「「「「まじスか…?」」」」」
マジだ。と叔父上が苦笑いでおっしゃった。
これは、絶対に口外出来ない案件だ。
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その後、叔父上は回復剤を服用し、援軍の本体が到着するまでの間、私が地魔法で作った簡易的芝生寝台に横になりお休みになった。
私たちは討伐した毒双蛇の傷口の様子を見て、叔父上の技について小声で話し合ってみたり、お師匠様から毒双蛇の特徴を実地で解説してもらったりした。
援軍本体が到着すると、皆で毒双蛇を切り分け、戦利品を荷車に積み、不要部分は風魔法と火魔法で灰にした。
私達は西門で荷車から降り、それぞれ馬に騎乗し館に帰った。
館に着いた時はもう日が暮れていて、詰所まで両親が迎えに来ていた。
今日の巡回仲間が揃った所で父上からお言葉があった。
「皆、今日はご苦労だったな。娘が本当に世話になった。感謝するぞ。明日、粗末な夕食で申し訳ないが、ささやかながら今日の労いをしたく思っているので、皆、仕事が終わったら屋敷の大広間に来てくれ。待っているぞ。」
一行からは小さな歓声が上がり、その日は解散となった。
その夜、私は今まで見たことのない前世の夢を見たのだった。
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トージさんの執務室。
シンさんを側に控えさせ、二人で仕事中のトージさん。つまり私だ。
机の上には膨大な量の書類が積まれている。
書類は本当にたくさんあって、ひとつひとつ目を通し、署名して処理済みの箱に入れたり、差し戻す箱に入れたりしている。
書類の内容も様々で、先の戦いで被った被害状況の報告書とか、修繕の申請書とか、辺境伯爵になったことによって提出する王宮への書類とか。騎士団設立に関する書類もある。
署名も、トージじゃなくてアルフォンスになっている。
おそらく、辺境伯爵を賜った直後の頃らしかった。
「旦那様、そろそろひと息入れましょう。」
シンさんがお茶の用意をしてくれた。
眼精疲労に効く薬草を使ったお茶らしい。
小さな砂糖菓子も添えられ、二人分用意されていた。
部屋の窓際にある小さめの円卓に二人は移動し、しばしの休憩をする。
午後の日差しは少し柔らかめで、服装から推察すると秋なのかもしれなかった。
明日と明後日の予定を確認したりしながら、お茶を飲む。
確認が終わったところで、シンさんが質問してきた。
「旦那様、僭越ながら辺境伯勲爵のお祝いを贈らせてもらいたいのですが、何か希望はございますか?特に無ければ、短刀を贈らせてもらいたいと思っています。」
「うん。お前がくれるものなら何でも良いが、そうだな、短刀は嬉しいな。先の戦いであの短刀は駄目になってしまったからな。」
と私は微笑み返答した。
「了解しました。ではそうさせてもらいます。お茶のおかわりはいたしますか?」
いや、仕事に戻る。と私は言ってシンさんの前に立ち、シンさんの頬に手を添え素早く口付けし、ありがとう、と書類の山麓に戻ったのだった。
良し、やるか!と腕まくりした私はとても御機嫌だった。
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目が覚めた私もなんだか御機嫌で、とても良い朝を迎えたのだった。




