序章
序章
男は急ぐ。自分の後ろを追いかけて来る従者を気遣う余裕はない。
身に纏う簡易型の防具がガチャガチャと音を立てる。
ある一室の扉の前に控えた彼の執事が、こちらです、と礼をした。
「二人にしてくれ」
そう言って、男は部屋に入った―――――
―――――
落ち着いていながらも高級感漂うその部屋の奥、大きめのベッドに向かって歩きながら、俺は上半身の防具を外す。
歩きながら視ているのは、ベッドに横になっている綺麗な横顔。弱々しいがまだオーラは消えていない。
目を閉じてじっと、多分、俺を待っているのだ。
涙が出そうになるのを耐えて、その人の枕元までたどり着くと、防具を脱ぎ捨てて備えてある椅子に腰掛けた。
そして、静かに横たわっている手を取り、彼の名を呼ぶ。
「シン」
彼が目を開け、旦那様、と、ゆっくりこちらを向いた。
灰色の澄んだ瞳で俺を見つめる。
その瞳をじっと見つめ返す。
俺は悲しい顔をしてしまっているだろうか。
「従いていてやれなくて、すまなかったな」
「いいえ、、街は、、大丈夫でしたか?」
「ああ、生きてる魔物はもういない。安心しろ」
「さすがは、、我が主様です、、、」
ゆっくりと小さく話す姿から、彼がもうあと僅かであることを悟った。
「もう、逝ってしまうのか」
「はい、、旦那様にお目にかかれるのも、、これで最期かと、、存じます」
我慢していたはずの涙が一気に溢れた。
彼の手を自分の両手で包み、顔を近づける。
そのまま彼の額に口づけた。
「シン、こんな俺についてきてくれて、感謝している。お前と一緒になることは叶わなかったが、次の世では、必ずやお前と添い遂げる。必ずお前を見つけてみせる。それまで待っていてくれるか」
俺の言葉にシンは涙を流し、頷いた。
「もったいない、、お言葉にございます、、旦那様。」
「シン、俺の名前を呼んでくれ。お前の声で聞きたいんだ」
「……トージさん、、」
「シン」
懐かしい呼び方だ。
「トージさんに、、お願いが、、あります、、」
「なんだ、何でも言ってみろ」
「どうか、、貴方様には、、お世継ぎを、、成していただきたく思います、、」
「…何?」
「貴方様のビッグスター、、その両手のお力を、、ぜひとも、、継いでいただきたく、、思うのです、、私も、、貴方様を、、お待ちする間に、、己を磨き抜き、、次にお逢い出来ますとき、、貴方様に相応しい、、己であろうと、、いたしました故、、その目処に、、させていただきたく、、お願い、、申し上げます、、」
「……ふむ、シン。俺が断れないと解っていて、お前はそうやって……さすがは俺の…愛す…る…男…だな……うぅ……」
とめどなく流れそうな涙をやっと我慢して、笑顔で答える。
「いいだろう!俺とお前の次の世の為にも、父上母上や爺やの為にも、俺は代継を成すぞ。このビッグスターで、お前を導こう。約束だ。」
シンは泣きながら笑顔で深く何度も頷いた。
ああ、その笑顔が大好きなんだ。。
しばし微笑み見つめ合い、最後に一度だけキスを交わした。
「シン、待っていてくれ。必ずお前にたどり着くからな。」
「はい、、お待ち申し上げます。。トージ様、、お世話に、、なりました、、私は、、貴方様と、、出会えて、、貴方様を、、お慕いして、、果報者です。」
もう一度笑顔で見つめ合い、彼の涙に口づけた。
「…妹は、、おりますか」
「…今、呼んでくる」
いよいよなのだと覚悟し、席を立った。
俺がアイツと話せる機会は終わったのだと。
部屋の扉に向かう。
彼にとってただ一人の肉親である、最愛の妹を呼びに。
―――――――
扉を開けると、何人か居り、彼の妹、リンを見つけた。
「リン、シンが呼んでいる」
「はい!」
返事するなり小走りで部屋の中へ入って行った。
俺は爺やに、
「リンに看取らせてやってくれ。俺は執務室にいる」
と頼み、執務室に向かった。
あの指輪を、彼に贈ってやらねば―――――
初めまして、ユウセと申します。
妄想が爆発して、初めて小説のようなものを書いてみることにしました。
自分の頭の中を文字にするのは初めてなので、ゆっくりやっていこうと思います。
よろしくお願いします。