真夏の夜空の夢幻
胡桃ちゃんは元気な女の子。妹の暦ちゃんとともに親戚のうちにお泊りにきています。
叔父さんが、姉妹を何か素敵なところに案内してくれるとか?
既出の小説の人物が登場しますが、独立したお話です。
「ええもんみせてやるで、こっちや」
そう言って叔父さんは歩いていく。
あたし達は懐中電灯で地面を照らしながらついていった。
周囲には畑が広がっている。
空には満天の星。
街灯のほとんどないこのあたりは、数えきれないほどの星々がまたたいている。
「お姉ちゃん、あそこで縦に四つ並んだ星がサソリ座だよ。サソリの頭のところ」
妹の暦が右の方の空を指さして言った。
この子は、星座に詳しい。っていうか、いろいろな雑学を知っている。
従兄の偉文くんに教わったのだろうか。
「サソリのシッポは雲に隠れて……あ、見えたんだよ」
雲が移動して星の並びが見えてきた。
「ほんとだ。星が釣り針みたいな形で並んでいるね。初めて見た」
頭の部分と合わせると、たしかにサソリのような形に見えてきた。
「お姉ちゃん。サソリのシッポのところから、白っぽいオビが真上まで伸びているのはわかる?」
「うん。雲でしょ?」
「ブブー。あれが天の川なんだよ。さっき風で雲が動いたけど、天の川は動いてないんだよ」
「えー。あ、ほんとだ。初めて見た。あれが天の川なんだ」
ぼやっとした帯が、上の方まで伸びている。
暦は真上の天の川を指さした。
「あそこ。天の川を挟んで明るい星が二つあるんだよ。あれが織姫と彦星なんだよ。その横の明るい星が白鳥座のデネブ。三つ合わせて夏の大三角なんだよ」
「へぇー……。暦ちゃんって、ほんまに星に詳しいんやね」
先頭を歩く叔父さんも感心したように言った。
暦が叔父さんの方を見て声をかける。
「叔父さん、ホタルが群生しているところって、村のずっと南って言ってたっけ?」
「そうやで。この道をまっすぐいったところにあるんや。ほんまにホタルがぎょーさんおるからな。すごいもん見したる。もうしばらくかかるけんど、二人ともだいじょうぶやろ」
「うん。大丈夫だよ。・・・・・・・・」
?? 暦が何か変なことをつぶやいたような? 方角?
叔父さんが言うには、あたし達は南に向かっているらしい。
あれ? でも、サソリ座って南の星座じゃなかったっけ?
サソリ座は右にあるけど。
あたしは小さい声で暦にきいてみる。
「ねぇ、もしかしてあたし達、東に歩いてない?」
「やっと気づいたね。まっすぐ東に歩いているんだよ」
そう言いながら、暦は左の後方の空を指さした。
「あそこの七つ並んだ星が北斗七星なんだよ」
そっちを見ると、授業で習ったことのある柄杓の形で並んだ星が見えた。
「で、あそこのWの形の五つの星がカシオペア座なんだよ」
ふむふむ。たしかにW型に並んだ星がある。あれも習ったような……。
「北斗七星とカシオペア座の間にある、あの星が北極星なんだよ。あれが北の方角なんだよ」
なるほど。あの星がそうか。
「ねぇねぇ、叔父さんに教えてあげた方がいいんじゃないかな。あたし達は東に向かってるって。迷子になったらヤだよ」
道が合っているならいいけど、違ってたら一回戻った方がいいかも。
「大丈夫なんだよ。どっちが南かわかってないだけで、たぶん道はあってるんだよ」
暦の言う通り、あたし達は叔父さんに案内された川べりに無事に着くことができた。
たくさんの小さな光がふわふわと舞っている。
葉っぱにとまって光っているのもいる。
「うわぁ……。きれい……」
あたしはその不思議な光景に目を奪われた。
しばらく幻想的な光のステージを見ていると、遠くの方で一筋の光が流れた。
「え? あれはひょっとして……」
「お姉ちゃん。今、流れ星見えた? ペルセウス座の流星群なんだよ。あ、また流れた」
すごい。流れ星とホタルの光が同時に見えるなんて。
ふわふわと空を泳ぎ続けるホタルの光の後ろでときおり、星が流れる。
こんなの初めて見た。
「ギリシャ神話でカシオペアの娘がアンドロメダっていうんだよ。カシオペア座の横のあの星がアンドロメダ座なんだよ。くじらの化け物に襲われそうになったアンドロメダを助けたのがペルセウス。でも今はペルセウス座は山に隠れて見えないんだよ」
暦の説明を聞きながら、あたしは星とホタルを順に眺める。
あ、また流れ星だ。
帰ったら、みんなに自慢できそうだ。
あたしと暦はずっとその光景を見ていた。
タイトルに『夢』と書いてますが、夢落ちではなく夢のような風景という意味です。