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2 小話〜冬の乙女・異説〜

 もうみんな集まってるかー?おう、チビどもは偉いな。

 あいつらは来てない、と──まぁそうだろうな。

 おっさん、今日来ねぇよ。二日酔いで寝込んでるぜ。頭がガンガンするから歌うのは無理だってさ。

 覚えときな。あのおっさん、2日目は毎年サボるんだ。大人達に歓迎会でしこたま飲まされるからな。来てない奴らはみんなそれ知ってるって事。

 はい、解散──って言いたいとこだけど、村長の奥さんが、マフィン焼いてやるから持ってけってさ。出来上がるまでまだちょっと時間かかる。

 その間、俺が話でもして引き留めとけって言われたんだけどさ、何で俺が。おまえらも聞きたかないだろ?

 えー、嫌だよ、歌わねぇよ。何も面白い話なんか思い付かないし。大体、どうせこの先おまえらも飽きる程聞かされるって──魔女の話は俺も知らねぇよ、だから聞きたかったのに。年嵩でここに居る奴はみんなそれ目当てだろ?

 間を持たせるなんて出来っこないって。みんな昼寝でもしてりゃ良いじゃん。

 あん?──ちょ、真面目にやってるよー!マフィン2個、絶対だかんなー!──何だよ、わざわざおっさんが来ないのとマフィンを知らせに来てやっただろ?駄賃だよ、それくらい構わないだろ?


 はぁー、んじゃ、おっさんよりもつまんねぇ話しか出来ないけど……期待すんなよ、あのおっさんから聞いた話なんだからな?

 何か聞きたい事ある?──って言っても、チビどもは昨日冬の乙女のなんちゃらを聞いただけだもんなぁ。

 どーするよ……そうだなぁ──じゃあ、こんなのはどうだ?

 冬の乙女はさ、死の神様に振られちまったんだけどさ──いや、振られてるだろ、あれは。あーもー、ごちゃごちゃ言うなら、じゃあおまえが代わりにやれよ。はぁ?やらねぇのかよ、ちぇっ。

 ふーらーれーたー、振られまーしーたー!!わかったな?

 そんで、冬の乙女が何で振られたかっていうと、実は超ブサイクのババアだったからでしたー、ってオチ。

 はぁ?浪漫がないだと?だから知らねえよ、そんなもん。そういうのは二日酔いのおっさんを叩き起こして言ってやれ。

 もちろん根拠はあるぜ。冬の乙女が婆さんの話があんだよ。知ってる奴も居るだろ?

 雪山で遭難して、遠くに見えた焚き火まで行ったらチンクシャの婆さんがいて、何故か突然クイズ大会が始まる話だ。え、違ったっけ?知恵比べ?一緒じゃん。まぁ詳しい話はおっさんに聞け。

 死の神様って奴は、冬が一目惚れするくらい超格好良いイケメンなのさ。なのに、シワシワの婆さんに言い寄られたら、そりゃケツ捲って逃げるわな。だろ?

 あと、死が実は女だったってバージョンもある。

 神様って元々は男とか女とか決まってないんだって。おっさんが言ってた。見た事ないのに姿が分かるわけないって、確かにな。

 世の中には、女が好きになる女もいりゃあ、男好きな男もいんのさ。百合族とか薔薇族とか、なんか気障ったらしい言い方するらしいぜ。

 んで、冬が百合族って奴で、女の死を好きになったけど、死の方はただの友達としか思ってなかったってんで、グイグイくる冬が怖くなって、死は自分の世界に引き篭もったって話だ。

 逆に、死が薔薇族の話もあるぜ。冬は女だけど好きになって貰おうとして頑張ったけど、死は女と結婚したいとは思えなくて、やっぱ上手くいかなかった。

 結局はさ、冬が振られて死とは二度と会えなくなるけど、死と冬はその後も友達以上恋人未満でした、って筋書きはみーんな同じなんだよな。好きだけど一緒には居られない、とか何とか。大人になったらそういうのも分かるらしいけど俺はなぁ、サッパリだわ。

 おっさん曰く、死は決して誰のものにもならないが、それは冬に心を預けているからなんだと。何とも恐ろしい話じゃねぇか。自分を好きにならないなら、他の誰も好きになるなって──何てったっけ?束縛?おっかねー。

 冬の乙女って肉食系だよな。あぁ肉食系ってのは、女の方から気に入った男にグイグイ話しかけて来るタイプの事。押し掛け女房?とかそういうの。ナイトニアは女が強いからみんな肉食系だって、おっさんが言ってたぜ。ここ以外はそうでもないらしいぞ。俺らが知る訳ないじゃん。なー?


 あ、ほら良い匂いして来たぜ、もうこんなもんで良いだろ?

 ええ?熊女?そんな事言ってたっけ?それが気になって昨日の話覚えてないっておまえ……って、居眠りしてた俺が言えた事じゃないか。

 それはきっと、冬の乙女が熊の毛皮を着てるから言ったんだろな。まさに熊女だよ。

 そう、おっかない冬の乙女は熊なんかへっちゃらなんだ。熊を土手っ腹に一撃かましただけでぶっ倒して、真っ赤に染まる雪も気にせず腹を掻っ捌いて、一気に生皮をベリッと剥がすと……血も滴るまだ湯気の立つそれをぉ、頭から被るんだぁぁぁ!──ガバァッと!!!!

 うへー、キモいな。嘘だよ、ベソかくなよ。

 でも熊の毛皮を被ってるのはマジ。そんな感じの像が多いらしいぜ。何だろな、強いからじゃね?やっぱ。熊倒せるって事だろ?

 冬の熊とか見たら終わってるわ。睡眠不足で腹ペコの苛々してる奴だぞ?そんな暢気に熊か乙女か確認なんてしてらんねぇよ。人間が気付いた時にはもう、熊は先に気付いてるって事だからな?

 だから見たが最後、絶対に村に帰って来るんじゃねえぞ。出来る限り一歩でも逃げて、村から少しでも離れたとこで死ね。

 昔、熊に見つかった奴が違う村に逃げ込んだせいでヤバい事に──あー……かなりグロいから、もうちょっと大きくなってから話してやるよ──なっちまって、村同士が大揉めして仲裁に領主様が出てきたって話だ。チビどもも、そのうち春先に山菜摘みに行く歳になったら、改めて聞かされるだろうが、覚悟はしとけよ。

 辛気臭い暗い顔すんなよ。俺の話が悪いって?──そりゃあ……その、悪かったよ。まだ先の事だし今はとりあえず気にすんなって。冬の乙女に好かれてりゃ大丈夫さ。冬の乙女は子供には優しいんだ、それに熊より強いし、な?

 ほら……そう裸、冬の乙女は裸に熊被ってるんだぜ!可笑しいだろ?寒いのに裸でさらに熊の毛皮だぜ?

 良い子ぶった奴を猫被りなんて言うけど、じゃあ熊被りは何なんだろうな。痩せ我慢してる奴か?

 何で裸なのかっつーと、冬の乙女は遭難した奴に自分の着てた服を次々に分けてやってさ、とうとうスッポンポンになっちゃって、仕方なく熊の毛皮だけ着てるらしいんだよ。

 それ、服貰った奴さ、熊の毛皮の方をくれよって思うじゃん!絶対そっちの方が暖かいし!

 冬の乙女なら熊くらい簡単にボコれるんだから、服じゃなくて毛皮くれれば良いのにな。

 そんで、熊の毛皮がなくなった乙女がさ、また毛皮を剥ぐ為に吹雪の中で拳を握り締めて、カッと目を光らせたと思った刹那、必殺の熊殺しの一撃を見舞うのよ!そっちの方が格好良いと思うんだよなぁ。こう──ズドンッだよ、ズドン。腹に打ちかますんだ、氷雪拳奥義・熊胆潰し!

 別れた男に未練引き摺るより、熊殺しの乙女になった方が絶対良いぜ。

 でなー?これだと冬の乙女が優しいだけの話なんだけどさぁ──偶に……雪で迷って死んだ奴がさ、身包み剥がれたみたいに裸で見つかる事があるらしいんだ。

 まあ……それこそ熊に突き倒されて服が脱げるってな事もあるだろうけどさ、獣に襲われた跡もないのに裸になって死んでるんだって。そりゃ死ぬよ、雪山でマッパじゃ。

 物盗りの仕業とも違う。荷物も防寒着もちゃんとあるのに、何故か服を脱いで死んでるんだ。

 寒いのに意味わかんねぇだろ?

 そいつらは──冬の乙女に服を脱がされたんだ。

 多分……毛皮しか持ってないから、お洒落な服が羨ましくなったんじゃね?みんなも冬はダサい服着とけよ。

 そうやって剥ぎ取った服を着て、また配ってるんだと思うとゾッとするよな。

 裸で出てきて他人の服を毟るなんて、真性の変態にしか出来ねぇよ。冬の乙女ってぶっ飛んだ話多い過ぎ。メンヘラで変態なんだぜ?ちょっと死に同情するわ。


 あ、マフィンだ!やった!出来たみたいだぜ!

 はあ?教訓?ねーよ、そんなもん。あ、いやいや、ある、ちゃんとあるから、マフィンは2個だろ頼むよ。

 教訓ね、教訓……腹にズドン!だ。冗談だ。

 熊は、腹を殴っても倒せない。せめて鼻殴るか目潰しの方が勝算がある──らしいぜ。俺、熊に出くわした事ねぇから効くかは分かんねーし、今後も知りたかないね。猟師でも死ぬ事あるのに俺らガキが勝てっこないだろ。

 あとは、変わった趣味してても良い奴ならさ、友達にくらいはなってやろーぜ。

 それから誰も見てなくても丸出しでウロウロすんのは止せ、美女でもババアでもただの変態だ。そんなのに会ったら全力で逃げろよ、熊でも冬でもな。

 じゃ、これで終わり、マフィン食うぞ。

チンクシャ……狆(ちん・犬種)がくしゃみした様な不細工。

熊胆……ゆうたん。熊の胆嚢(たんのう・内臓の一種)で漢方薬の原料。実は胆嚢は無くても死なない。

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