相棒 ―僕の恋の歌のバディ―
秋月 忍様の『男女バディ祭』企画参加作品です!
「ありがとー♪」
「今日もファンのみんなのおかげだよー♡」
僕と相棒の皆方天人が最後の曲を歌い終わると、黄色い歓声が「きゃー!」とあちらこちらからあがる。
画面が真っ暗になると、僕と天人は同時にふーっ、と大きく息を吐く。
そして二人の視線が合うと、僕は大きくガッツポーズをして、ソーシャルディスタンスのハイタッチをお互いにし合った。
僕たちは⦅二銃士⦆というネットアイドルだ。
切ないバラードから、ポップな歌まで何でも歌える事をウリにしている。
「いやー、今日も盛り上がった!」
「そうだね☆」
天人がペットボトルの水の残りを一気飲みすると、それこそ満開の笑顔で言って笑った。
僕も、ウィンクをして瞳から星を飛ばした。
天人が急にふと真顔になった。
「おい、また心の中で"僕も"とか思ったんじゃあないよな」
「え……」
実際に見つめられたわけではないのに、ドキッとする。
急に二人の間に気まずい沈黙が訪れた。
「だ、だって、今は僕だろ?」
一生懸命、低い声音で言ってやる。
「ばーか。無理すんなって。いいか、お前は正体を偽っている、女だろーが」
「う!」
僕、いや、私は苦しい悲鳴を上げる。
そう、皆方天人の相棒、そして、ネットアイドル⦅二銃士⦆の一人は実は女性というのはトップシークレットだ。
……ここで自己紹介をいい加減にしよう。
僕、いや、私は名字は伏せて下の名前は愛央だ。
⦅二銃士⦆では愛央として活動している。
そもそもの発端は、漢字の読み方を載せていなかっただけ。
そして、初めてファンになってくれた子が私たちを一目見て。
『わー! 二人とも超美男ですね!』
そう言ったのが、きっかけなのだ。
私が、超が付く程男顔だったのもある。
そのファンの子に、つい自分が女性だとは言えなくて、
「はい、僕の名前は愛央です!」
なーんて嘘を付いてしまったのが全ての始まり……。
慌てて訂正しようとする天人を画面から追い出し、一人カラオケをしていたら次の日にネットで、
『超カッコイイ! ボーイソプラノ声の愛央くん登場!』
なーんて騒がれてしまったからもう後戻りが出来ない状態に。
そしてなんやかんやで今に至る。
皆、今の説明でOK?
「はー、お前はそれで本当にいいのかよ」
「な、何で? 天人だって今日はノリノリだったじゃん」
「だって」
「だって?」
私は首を傾げる。
すると、天人が明後日の方を向く。
あ、これは。
「天人、何で顔赤くなってるの?」
「なってねーよ!」
俺は、皆方天人。
何で、顔が赤くなっていたかなんて、言える訳が無い。
今の首を傾けた愛央が、とても可愛らしかったなんて、言える訳が無い!
コイツが自分の性別を偽ってネットアイドルとして活動することを俺は強く反対した。
が、コイツは初めてファンになってくれた子を裏切れないと言って押し通した。
だから、俺はそんな愛央に付き合っている。
本当は、可愛い愛央に惚れているのだが……。
「言える訳が無い!」
「何が、だから?」
「ハッ、俺のは独り言だ! 気にするな!」
「えー。天人って変」
私は内心焦っていた。
赤くなっている、天人、何だか、大人っぽい……。
ドキドキする胸の音が聞こえそうで、慌ててそっぽを向く。
結局二人して、別々の方向を見ている訳である。
それからも、毎日ネットアイドルとして活躍している僕等。
いや、正確には私たち。
喧嘩もするし、歌への情熱を競ったりもする。
良い相棒と、お互いに勝手に認識しようとしているが、お互いがお互いに惚れたなんて、絶対に言えない。
そんなじれったい二人。
一体、これからどうなるやら。
そんなある日。
私は、女性特有の理由で、その日は調子が悪かった。
歌声も、イマイチ伸びない。
人気曲のバラードのハモリを歌う天人が気にしているのが分かる。
今日のお客さんの歓声も、どこか遠くで聞こえる。
「ありがとう~♡」
「僕も嬉しかったよー☆」
どうにかこうにか、歌い終えて、画面が真っ暗になると。
「はー、しんどい」
私は、その場に大の字になってお腹を押さえた。
これさえなければな、なんて思ってしまう。
そんな私を、天人は黙って見ている。
「愛央」
「なーに?」
「もう、辞めよう」
「え?」
「最近の俺らの人気も落ちているだろう」
「そんな事無いじゃん! 人気絶好調じゃん!」
私は一生懸命言いつのる。
本当は気付いていた。
他のネットアイドルが頭角を現していて、私たちの人気が下がってきているのは……。
そして、
「俺は辞める」
「は?」
「俺、ネットアイドルをやっている理由は、愛央と一緒に居たかったからなんだ」
私は絶句した。
まるで、これって……。
「告白じゃん……」
「告白だよ」
情熱的な場面のはずなのに、天人の顔は泣きそうである。
まるで、この事を言ってしまったら、もういつもの二人には戻れない。
そんな、顔だ……。
嫌だ、もっと天人の隣に居たい!
あれ、でもこれって……。
私の思い、それとも僕としての思い?
「どっちなの……?」
私の頬を涙が流れる。
「愛央?」
「わ、わたしだって!」
突然泣き出した私に、天人が寄って来る。
ガバッ!
私は天人に思わず抱き付いた。
「私だって、天人と一緒に居たかったら、ずっと一緒だと思っていたから!」
そこまで言うと、声を上げて泣いてしまった。
天人は始めびっくりしていたが、私の背中を優しく撫でてくれる。
「はは、俺らの願いは一緒だったんだな」
「うん……」
「ってことは、両想いか」
「……そう、だね」
私と天人は向き合う。
自然と二人は笑顔になっていた。
顔が、近づく……。
と。
「「「「おめでとう~‼」」」」
突如、真っ暗になっていた画面に明かりが付く。
ファンの興奮した声に、私たちは呆然となった。
「愛央……、お前、配信の画面切ったか?」
「記憶にございません……」
その後、ネット界は騒然となった。
が、これはこれでハッピーエンドだろう。
めでたしめでたし!
もう最後は無茶苦茶ですが、この企画を立ち上げてくださった秋月 忍様に深く感謝をこの場ですが言いたいです。ありがとうございました!
そして、この作品を見つけて下さり、お読み下さり、本当にありがとうございました!