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Case 3 ~アマチュアデート商法男子②~

「えっと……、それはマニュアルですか?」


 米原からの依頼を受けて、俺は豊橋さんに連絡をする。

 どうやら、豊橋さんの合コン参加は、三島たっての希望らしい。

 事情が許せば、『お前如きにウチの娘はやれん』とばかりに、合コンの誘い自体を一蹴したいところだが、そうは問屋が卸さないのが悲しいところである。


 というのも、米原は三島に()()借りがあるらしい。

 何でも、前回の合コンの幹事は、本来は米原だったようだ。

 しかし、当時仕事が立て込んでいた米原は、三島に幹事の交代を要請する。

 元々、米原が言い出しっぺという負い目もあり、三島の頼みを聞かざるを得なかったようだ。

 何というか……、こういうところは律儀な男なんだと、改めて実感する。


 そして、斯くいう俺自身も米原には多大な借りがある。

 無論、カフェ代2310円などではない。

 いや、それも含まれるが、特にここ数ヶ月はコイツに世話になりっぱなしだ。というより、負い目があると言った方が正しいかもしれない。

 実際にキャバクラを奢る約束もしたが、それだけで事足りるとも思っていない。

 だからこそ、気は進まないながらも、こうして豊橋さんにアポイントを取っているのだが……。

 そして、当の豊橋さんは当然とばかりに、この一件も例のマニュアル作りだと思っているようだ。


「いーや。これはただの合コンだ。純度100%のな」

「そ、そうですか。ご、合コンかぁ……」


 おっと。この返答は恐らくそういうことですね。


「なぁ。一応聞いておくが、合コンは」

「初めてです」

「了解、了解。オールOKだ。むしろ、豊橋さんが百戦錬磨だったら、ショックで3日寝込みそうだったわ」

「ば、馬鹿にしないで下さい! わ、私だって、その……」

「私だってその?」

「……い、いえっ!! で、今回私はどうすればいいのでしょうか?」

「どうしろって言われてもなぁ……。豊橋さんを指名したのは、その三島ってヤツだしな。どういう意図があんのか知らんけど」


 俺がそう言うと、豊橋さんは黙り込んでしまった。

 当然と言えば、当然か。

 彼女はまだ三島と面識がない。見知らぬ男からのご指名とあらば、嫌でも警戒する。

 ましてや、相手は豊橋さんだ。

 このイベント、豊橋さんにとってある意味マニュアル作りよりもハードルが高いかもしれない。


「あ、あのもし良かったらなんですけど、今回は自分でイロイロやってみたいなぁ、なんて……」


 そんな思考に耽りながら彼女の返事を待っていると、思わぬ言葉が返ってきた。


「はぁ? イロイロって……、すまん。どういうことだ?」

「で、ですから、今回は羽島さんの作った台本じゃなくて、自分なりに考えてやってみようかなって……」

「いやいや! 考えるも何もタダの合コンって言っただろ?」

「そ、そうなんですけど、私的にはやっぱり目標というか、そんなのがあった方がやりやすいかなって思って……」


 まぁ豊橋さんの言いたいことも分からんでもない。

 経験のない合コンで、どう立ち振る舞ったらいいか分からず右往左往するよりも、デート商法の一貫として、役に成りきった方が心持ちとしては楽かも知れない。


「そ、それで、なんですけど、相手はその三島さん? って方で良いですかね?」


 彼女にそう言われた時、心がざわついた。

 豊橋さんと三島が、か。

 確かに他のメンバーとは面識がない。

 そう思えば、米原とも交流のある三島をターゲットにするのは理に適っているかもしれない。

 だが、本当に豊橋さんと三島を近づけて良いものだろうか。

 そもそも、三島の狙いは何なんだ?

 単純に豊橋さんのことを狙っているだけか?


「……まぁそれでいいけど、あんま無理すんなよ? 露骨にやると他の女子から反感食らうかもしれんぞ。三島モテるっていうからよ」


「は、はい! 気を付けます!」


「それに俺が台本を作らない以上、何かあってもフォローし切れるか分からん」


「もちろんっ! 承知の上です!」


「……まぁそうだな。一つだけ言えることは、あんま張り切るなってことだ。自然体でいけ」


「し、自然体……」


 言ったそばから後悔する。

 こういう抽象的な表現では余計に悩ませてしまう。


「……兎に角だな。その場をストレスなくやり過ごすことを最優先に考えろ! 自然体でポロッと出た時の嘘の方がバレにくいってモンだよ」


 必死にソレらしいことを述べて、取り繕うが、自分で言っていてよく分かっていない。

 やはり、三島と豊橋さんが近づくことに少し動揺しているのか。

 ()()とは何と厄介なものだろうか。


「はぁ……、何となく分かりました! い、いよいよ、独り立ちと思うと武者震いしますっ!」


「いや、だから気張んなっての!」


「そ、そうですけど! それに……」


「……それに?」


「い、いえ、何でも! ではまた明日! 宜しくお願いしますっ!」


「落ち着け……。合コンは金曜日だ……」


 別に確たるものなんてない。

 野生の勘というか、お得意の被害妄想というか。

 ただの思い過ごしと言えばそれまでだが、今回ばかりは不安で堪らない。

 そして、大変遺憾ながら、俺はその不安の正体に気付きつつある。

 それは他ならぬ、俺自身が前に進む上で必要なプロセスなのかもしれない。

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