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Case 1 ~軽薄男子⑤~

「えぇっ!? もうそんなことになってるんですか!?」

「あぁ。そうだ。エラく気に入られたモンだな」

「呑気なこと言わないで下さいっ! そ、それで、この先どうするんですか……?」


 あの一件の後、俺と米原の間で特段関係が冷え込むようなことはなかった。

 やはり、サバサバしているというか、これはこれ、それはそれ、というか。

 いや。米原に限らず、それはある意味で社会人として当然のことかもしれない。

 仕事に私情を持ち込むことは、何人たりとも許されない。

 社会における冷酷なまでの暗黙の了解が、俺や米原の中にも染み付いてしまったと思うと、何とも言えない複雑な気分になる。


 そんな中、俺と豊橋さんの最高のマニュアル作り第一章は、今まさに佳境を迎えようとしている。

 俺たちにとって大事な局面だからこそ、わざわざ会社の2つ隣の駅のファミレスにまで繰り出し、綿密な打ち合わせを行っている。


「恐らくだが、次のデートで米原は豊橋さんに思いの丈をぶつけて来るだろう。ちなみに次のデートの予定は何か具体的に決まってるのか?」

「えーっと、そうですね。一応は……」


 そう言うと、豊橋さんの顔は赤く染まる。

 あれ?

 ひょっとして、この娘ちょっと楽しんでる?

 ……まぁ何事もやる気があるに越したことはない。


「……まぁそれなら話は早い。場所は?」

「た、確か隣の県の遊園地だった、ような……」

「ベッタベタだな……。まぁここまで来たら、その方がやりやすい」

「えっと、具体的にはどうするんですか?」


 豊橋さんのその質問に思わず、口元を緩ませる。


「は、羽島さん? 最近悪い顔すること多いですよ?」

 

 そんな俺の表情を、豊橋さんは見逃さない。

 彼女なりの忠告をしてみせる。

 少なからず罪悪感はあれど、俺自身も何だかんだ楽しんでいるのだろうか。

 またもや心の内を見透かされ、落ち着かなくなる。


「……余計なことは気にしなくていい。それで具体的には、だな」


 俺が人差し指で合図すると、彼女は向かいのソファー席から顔を近づけてくる。




 すると、不意にバニラ系のフレグランスの香りがフワリと鼻腔を擽り、思考が停止する。




「あの、羽島さん? どうされましたか?」


 俺の様子を察した豊橋さんは、心配そうに問いかけてくる。


「あっ……、いや、すまん。何でもない。豊橋さん、香水つけてたんだな」


「は、はい……。仕事上、動き回ることが多いので、ニオイ対策としてつけていたんですが……。あっ! ごめんなさいっ! 臭かったですかっ!? つけすぎですよね!?」


「いやいや! 今気付いたくらいだから、つけすぎってことはないと思うぞ。  悪いな。ちょっとビックリしただけだから気にしないでくれ!」


「そ、そうですか……。分かりました」


「……で、まずはだな」


 ただの同情心、先輩風、親心。

 仮初の言葉でパッケージングし、本質から目を逸しながら豊橋さんと接してきた。

 だが彼女がそれを許してくれない。

 もちろん、本人にそのつもりがないことくらいは分かる。

 彼女は無意識的に俺を()()()に引き戻そうとしてくる。

 天然というのも罪な人種だと改めて実感しながら、俺は彼女に当日の具体案を提示した。

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