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八話

ダニエルは狩り用の服を着ると、馬の上から日傘をさして応援席にいるシルビアンヌに手を振った。


 シルビアンヌは手を振替しながらアリアに言った。


「いい?アリア。もしもギデオン様がお姉様方に何かを言われそうになったなら、すぐに貴方が褒め返して、ギデオン様を回復させるのよ!」


 時々シルビアンヌはおかしなことを言うなとアリアはため息をつきながらも頷いた。


「はい。かしこまりました。シルビアンヌ様、お茶が入りましたよ。どうぞ。」


「ありがとう。まぁ、良い香りねぇ。」


「今日はオレル領で採れる茶葉を使用しました。甘みのある香りが特徴ですよ。」


「素敵ね。まるでお花の香りみたい。」


 嬉しそうにお茶を飲むシルビアンヌから、アリアは視線を狩りをする男性陣へと向けた。


 びしっと狩り用の服に身を包んだ男達は勇ましく、それでいて馬に乗る姿は凛々しい。


 思わず自分の格好を見下ろしてため息を漏らしてしまいそうになる。


「アリア。楽しみね。」


 にこにことシルビアンヌにそう言われ、アリアは微笑を返した。


 ここにいるのが不満なのではない。


 ただ、少しはああいった格好もしてみたいと思うのは男なので仕方がないとアリアは内心思うのであった。


「あら?あちらは。」


「どうなさいましたか?」


「ほら、あちらの二人のご令嬢。ギデオン様の姉君達よ。」


 アリアがシルビアンヌの視線を追っていくと、ピンクと黄色の見た目鮮やかな色合いの、華やかなドレスに身を包んだ二人の女性がいた。


 年は15・6歳ほどに見え、頬を赤らめながら男性陣に手を振っている。


「・・すごいですね。気合の入りようが。」


 どこかの舞踏会にでも出かけるのではないかという出で立ちに、厚化粧。アリアは若干引き気味であり、近くの令嬢や手を振られている男性陣も同じような雰囲気であった。


「どうやら、婚約者をこの大会で見つける気満々のようよ。でも、もったいないわね。」


「え?」


「だって、おそらくはギデオン様と血がつながっているのだから、整った顔立ちの方々のはずなのに、あれでは台無しよ。」


「た・・たしかに。」


 シルビアンヌは少し考えると、席を立ちあがり二人へと歩み寄って行った。


「おはようございます。本日はお招きありがとうございます。公爵家のシルビアンヌでございます。」


 にこやかに二人に声をかけると、二人は目を丸くした後に慌てた様子で笑顔を作った。


「おはようございます。シルビアンヌ様。今日は来て下さってありがとうございます。アイビスでございます。」


「おはようございます。お会いできて光栄です。タリーでございます。」


 シルビアンヌは二人と一緒にしばらく会話をした後に、それとなく話の方向性をお化粧とドレスの方へと誘導していく。


「シルビアンヌ様はどこの化粧品を使用していますの?」


 アイビスの言葉に、シルビアンヌは笑みを浮かべると言った。


「エリア商会の品を使っております。とても使い勝手がいいのですよ。」


「まぁ!エリア商会の化粧品と言えば、最近とても評判がいいのですよね?私はまだ使ったことがありませんの。」


 アイビスとタリーはとても素直なご令嬢であり、シルビアンヌは好印象を抱きながら言った。


「なら、そうだわ。私化粧品一式持ってきておりますの。試してみます?」


「いいいのですか!?」


「ぜひ!」


「私の侍女は腕がいいのです。男性陣は狩りに夢中ですし、ぜひ。あぁ、でもその美しいドレスですと化粧がついてしまっては大変ですから、何か、もう少し軽めのワンピースなどに着替えていただいても大丈夫ですか?」


 シルビアンヌがそう言うと、二人は嬉しそうに頷いた。


「まぁ、楽しそうですわね!私も観客に混ぜていただけないかしら?」


「よろしければ私も。」


 近くにいた他のご令嬢方も興味を示し、オレル侯爵家の奥方であるティアナ様も賛成し、女性全員を巻き込んで、シルビアンヌ主催のお化粧大会が女性の間で開催される事となったのである。


 元々男性が狩りしている間は手が空いている女性達。


 別室へと移動すると、アイビスとタリーは先ほどよりも簡素ではあるが可愛らしいワンピースを着てその場に戻ってきた。


 アリアはその間に、シルビアンヌの化粧品全てを並べた。


 シルビアンヌは女性達にエリア商会の品々を紹介し、そしてアリアはアイビスとタリーの化粧を一度落とすと丁寧に下地から化粧品を塗り始めた。


「しっとりしてますわ!」


「なんだか、もちもちもしていますわ!」


 アイビスとタリーは興奮し、そしてシルビアンヌはアイビスとタリーの使った化粧品を他の令嬢方にも試すように勧めていった。


 そして、途中でシルビアンヌは二人の姿が見えないように背を向けさせた。


 その間にアリアが二人の化粧を仕上げていく。


「さぁ、仕上がったようですわ。皆様、拍手でお出迎え下さいませ。アイビス様とタリー様です。」


 二人は立ち上がり、くるりと振り返ると可愛らしく微笑みながら女性達に一礼した。


 その姿を見たオレル侯爵の奥方であるティアナは目を丸くし、そして他の令嬢方からは拍手喝さいが巻き起こった。


 アイビスとタリーは恥ずかしげに頬を赤らめている。


「先ほどもお美しかったですが、アイビス様のすっきりとした顔立ちにとても似合っているお化粧ですわ!」


「タリー様も!何とお可愛らしいのでしょうか!」


 女性達は興奮気味であり、そして一番興奮しているティアナはシルビアンヌの両手を包み込むと言った。


「是非!私もしてくださいませ!」


 アイビスとタリーに負けず劣らずの厚化粧を施していたティアナの言葉に、シルビアンヌはもちろんだというように頷き、アリアに視線を向けた。


 アリアは頷き返すとティアナの化粧へと今度は取りかかっていくのであった。


 

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