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三十話

風が静かに吹き抜けていく。


 これまで幾人もの魔女が命を失った城のその場所は、魔女の審判の場と呼ばれ、五つの岩と、その中央に紫色の水晶が立っている。


 それはシルビアンヌが最初に魔女の力を得た森の中とよく似た場所であった。


 そこに、セインは立ち、そして硝子玉を紫色の水晶へと掲げようとした。


「やっとだ。やっと・・・この国の最後が来る。」


 狂気に満ちたその瞳に映るのは破滅の道。


 だが、その時であった。


 セインの掲げようとした右手に弓矢が刺さり、セインは悲鳴を上げた。


「うわぁぁぁぁ!」


 ギデオンが弓矢を構え、セインの手を射たのだ。


 右手を押さえながらも水晶の方へと体を寄せると、セインは硝子玉を水晶へとこすり付けながらどうにか呪文を紡いでいく。


 薄い紫色の何かがセインを守るように広がっていく。


 ギデオンに続いてラルフが追いつき、セインを止めようとしたが、結界のような紫色の何かが審判の場を取り囲み、剣をぶつけても弾き返されてしまう。


「私は・・・私の・・勝ちだ。」


 セインがにやりと血の気のひいた笑みを浮かべた時であった。


 アリーに抱きかかえられたシルビアンヌと、その後ろからジルが追いついたが、次の瞬間、竜巻が巻き起こり、まるで紫色の柱のようにして空へと伸びる。


 セインの笑い声が響きわたった。


「この国は終わりだ!私が長年かけて作り上げてきた、魔女の魔力を使った魔術を展開した!ははははは!これでこの国は終わる!」


 セインの手に持っていた硝子玉の中には、シルビアンヌから抜き取られた魔力が込められていた。


 シルビアンヌの魔力が魔女の審判の場を利用されて増幅させられ、国を亡ぼす竜巻を引き起こしたのである。


 ラルフは声を荒げた。


「セイン!何のつもりだ!止めろ!」


 その声に、セインは楽しげに言った。


「止めるわけがないだろう。私を迫害したこの国を、私は許しはしない!」


 その光景を見つめながら、シルビアンヌは手をぎゅっと握りしめた。


 自分のせいだ。


 自分が操られたせいで、こうなったのだ。


 シルビアンヌは全てを覚えていた。そして、それと同時に思った。


 幼い日、あのお茶会の庭で自分がセインに声をかけていたら、こんな未来はこなかった。


 自分の周りの事だけしか考えていなかった、愚かな自分のせいで、セインは苦しみ、そして国は終わろうとしている。


 雷鳴が轟き、そして雨が降り始めた。


 風が全てを拒絶するようにセインから皆を遠ざけようとする。


「アリー。お願い。私をセイン様の所へと連れて行って。」


 涙なのか、雨なのか、シルビアンヌの頬は濡れていた。


「・・・貴方を、危険の中央へと連れて行けと?」


「あら、一緒に行ってはくれないの?」


 あえて楽しそうに笑みを浮かべてシルビアンヌがそう言うと、アリーは一瞬驚いたように目を丸くした後に、苦笑を浮かべた。


「ずるいなぁ・・・そんな言われたら、連れて行ってしまいますよ。」


 シルビアンヌはアリーの頬に優しくキスをした。


「ありがとう。私の運命の番さん。」


「・・・・本当に、ずっるいなぁ・・・」


 シルビアンヌは今度はジルに視線を向けると、ジルはため息交じりにうなずいた。


「長くは持たないからね。」


「ありがとうジル様。」


「はぁ、私にもキスしてほしいよ。」


 ジルは気合を入れると最後の力を込めて魔術の呪文を唱えていく。


 次の瞬間アリーとシルビアンヌを淡い光がつつみこみ、そしてセインの元へと続く道を作った。


「行きますよ!」


「ええ!」


 アリーはシルビアンヌを抱きしめる手に力を込めると、一気に走り始めた。


 光の中だけが、風が止まり、音も止んでいた。


いよいよ今年はこれで最後の投稿となります。

来年、また皆様に読んでもらえたらいいなぁと思います。

読んで下さった皆様に感謝です。

作者 かのん

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