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二十八話

セインは自室にて、シルビアンヌに施した記憶操作と服従の魔術が上手く発動している事に、楽しげに笑みを浮かべた。


 だが、ゆっくりもしていられないだろう。


 早々に行動していかなければ、シルビアンヌをいつも守るように盾となっていた男達が牙をむくだろう。


 そう思い屋敷を出て王城を目指す。


 以前からシルビアンヌとの婚姻の話は国王に願い出ている。黒目黒髪に産まれた自分の事を両親は拒否したが国王は哀れと思っているようであった。


 もし許しが得られなければシルビアンヌに頼み、魔法によって記憶を書き換えてしまえばいい。


 魔法とは便利な物だと、セインは笑う。


 シルビアンヌに魔女の疑いがかかっている事は、かなり前に分かっていた。そしてだからこそさらに手に入れたくなった。


 だから、魔術について学び、そして、彼女が魔女として覚醒するのを待っていたのだ。


 彼女を手に入れるために。


 馬車が止まり、王城につくと、事前に話を通していたので国王の謁見の間へと騎士に案内される。


 いよいよシルビアンヌが手に入る。そう、セインは思っていた。


 だが、扉を開き、中にいる人物を見て、セインは眉間にしわを寄せた。


 謁見の間には騎士達が部屋の端に控え、そしているはずの王座の前に、四人の男がこちらを睨みつけていたっていた。


 すでに後ろの扉は閉められ、逃げ場はない。


 セインはにやにやと笑みを浮かべながら、四人の前へと歩み寄っていく。


「これはこれは。おそろいで。」


 堂々と歩み寄ってくるセインに、ラルフは静かに告げた。


「セイン。・・・この王国では国王の許可がないものが魔術を使うとどうなるか、分かっているのか?」


 セインは静かに肩をすくめて見せると、小首を傾げて、四人を挑発するような口調で言った。


「私が魔術を使った証拠でもあるのかな?」


 ジルはにっこりとほほ笑みを浮かべると、シルビアンヌの手の甲から写した紋様を見せながら言った。


「魔術の紋様というものには、必ず術者の名が刻まれる。複雑な魔術の紋様に、君はきっと、ばれないと思ったのでしょう?でもね、私、天才なんですよ。」


 美しく微笑みを浮かべるジルが何かを呟くと、紋様が宙へと浮かび上がり、そして抜き出された紋様の一部が文字と成り、セインの頭の上に浮かぶ。


「これ・・は・・・」


 一瞬にしてセインの顔色が悪くなる。


「まさか、そんな。私が何年もかけて・・・まとめ上げた魔術が・・こんなに簡単に・・」


 セインは憎々しげにジルを睨むと、手に持っていた魔術の陣の描かれた紙を宙へと投げ、呪文を唱えた。


 するとその場に突如として黒い狼が現れ、四人に牙をむく。


「っは!そんなもので、どうにかなると思ってんのか?」


 ギデオンは腰の剣を抜くと、構え、襲い掛かってくる狼に向かって地面を蹴った。


 ザンッ!と、剣が鳴り次の瞬間、狼の首と体は切り離され、その場に倒れると黒い炎を纏って消えた。


 セインはそこで攻撃を止めずに次々と魔術の紙を宙へと投げ、呪文を唱えた。


 大蛇や虎、唸り声を上げる異形の生き物達を前に、ラルフとアリーも剣を構えて意図も容易くそれらを薙ぎ払っていく。


「そんな・・・これは魔術だぞ。普通の剣でどうにかなるはずがない!」


 セインの言葉に、四人は笑い声を上げた。


 アリーはにっこりと可愛らしい笑みを、セインに向けると言った。


「魔女の覚醒を見守る僕らが、何の準備もせずに、何年も過ごすと思っていたの?」


 ジルも頷きながら言った。


「魔女に対抗する手段が、この国には魔術しかない。そうなれば、もし魔女の力が暴走した時にも止められるように、私達が魔術を学ぶことは当たり前。私は天才ですが、魔術を共に学んできた私の友は皆秀才ですよ。特にアリーは、剣に魔術を組み込む仕組みを考え出した。」


 アリーは剣を構えると、剣を勢いよく振った。


 すると、セインの手に持っていた魔術の紙がはらりと半分に切れて落ちる。


 四人は、楽しそうに言った。


『その程度で、敵うとでも思っていたの?』


 セインの背筋に、汗が流れた。



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