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二十六話

「シルビアンヌ様!お体は大丈夫なのですか?」


 朝一番に昨日の夜シルビアンヌが医務室へと運ばれたと言う話を聞いていたアリー、ラルフ、ギデオン、ジルはいつもと変わらずに教室へとやってきたシルビアンヌに驚いたように声をかけた。


 シルビアンヌはにこりと微笑むと言った。


「ご心配おかけいたしました。大丈夫ですわ。」


 いつもと変わらない様子に四人はほっと息を吐いたのだが、シルビアンヌが手袋をはめている姿に首を傾げた。


「シルビアンヌ嬢。手袋は、どうしたんだい?」


 ラルフが尋ねると、シルビアンヌは頬を朱色に染めて少し恥ずかしそうに言った。


「その・・これは、大切な人から頂きましたの。」


「え?」


 アリーは三人から視線を向けられたが、首を横に振る。


「大切な人?それは・・・一体?」


 その時であった。


 教室にざわめきが起こり、皆がそちらへと視線を向けるとそこには黒目黒髪のセインが入口に立っていた。


 皆が息を飲んでいるのが分かる。


 セインはその容姿から特別に個別授業をほとんど受けており、クラスに在籍はしていても直接赴くことは今までなかった。


「セイン・・・」


 ラルフは突然セインが現れた事に驚き、アリーは舞踏会の事を思い出してシルビアンヌを庇うように背に隠そうとした。


 だが、するりとシルビアンヌがその場から抜け出てしまう。


「セイン様!おはようございます。」


 頬を赤らめて、嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべながらセインの元へと駆けていくその姿に、皆が言葉を失った。


 何が起こっているのか分からない。


 だがシルビアンヌはセインの元へとたどり着くと、美しく一礼し、嬉しそうに微笑みを浮かべている。


「わざわざこちらに来て下さったのですか?」


「あぁ。シルビアンヌの顔が見たくてね。」


「ま、まぁ。もう。恥ずかしいですわ。セイン様。」


 皆が言葉を失い、教室には二人の会話が異様に響いて聞こえていた。


 アリーは最初こそ呆然としていたが、二人のただならぬ雰囲気に驚きながらも話に割って入った。


「失礼。セイン殿おはようございます。」


「あぁ、君は・・・アリー殿。おはよう。何かな?大切な人との会話を邪魔してほしくないんだが?」


「セイン様!それはまだ内々の話のはずです!」


 顔を真っ赤にしてセインの腕にからみつくシルビアンヌの様子にアリーは驚き、声を荒げた。


「どういうことです!?そんなわけないでしょう。貴方は昨日までシルビアンヌ様と関わりはなかったはずだ!」


「え?アリーどうしたの?・・・そんなに怒らないで?可愛い顔がだいなしよ?ま・・まさか貴方、セイン様の事をお慕いしていたの!?」


「違います!」


 何故的外れな事だけを考えるところだけはいつもと同じなのだとアリーは心の中で苛立ちながらも、セインを睨みつけるのをやめない。


 セインはにやりと笑みを浮かべた。


「ねぇ、シルビアンヌ?・・・シルビアンヌが愛しているのは、誰?アリー殿に分からせてあげて?」


「へ?・・・そ・・そんな。」


「おねがい。」


 シルビアンヌは恥ずかしそうに視線をそらすと、小さな声で言った。


「・・もちろんセイン様ですわ。セイン様を愛しております。」


 その言葉にセインは満足げに頷くとシルビアンヌを抱きしめて、アリーに言った。


「私とシルビアンヌ嬢の婚約は正式に今日受理される予定だよ。」


「そ、そんな!突然そんなこと出来るわけがない!シルビアンヌ様どうしたのです!?」


 シルビアンヌは困ったように首を傾げ、そして言った。


「やっぱりアリーもセイン様をお慕いしていたの?そんな・・・ごめんなさい。私全然気づかなかったわ。」


「だから、違います!」


「あぁ・・・私、どうしたらいいのかしら。可愛いアリーとセイン様・・それもまた尊いのに。」


「ですから!」


 埒のあかないシルビアンヌにアリーが口を開こうとした時、ラルフが間に入った。


「とにかく、この話はここまで。人の眼がありあすぎる。」


 セインは優越感に浸ったその瞳でにやりと笑うと、シルビアンヌの額に優しくキスを落とした。


「では、また後で来るよ。愛しい人。」


「ま、まぁ!セイン様ったら!」


 アリーは殴りかかりそうになるのをギデオンに止められる。


「離せ!」


「落ち着け。」


「そうだよ。アリー。今のシルビアンヌ嬢は到底普通ではない。」


 ジルもアリーの肩をポンとたたき、そして背を向けて歩き去っていくセインを舌打ちをした。


「一体、何をしたんだろうね。」


 四人がシルビアンヌに視線を向けると、シルビアンヌはそんな四人の絡みをうっとりとした表情で見つめていた。


「眼福ですわ。」


 どうしてそういう所だけいつも通りなのだと、四人は大きくため息をついた。



 

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