二十四話
結局四人にこれまでの経緯を白状させられたシルビアンヌは、魔法を使って見せ、そして運命の番が見つからなければ自分は国の為に死ぬという運命を口にした。
ラルフはそれを聞き、口を開いた。
「やはり、そうか。」
「え?やはり・・とは。」
ラルフは以前からシルビアンヌが魔女なのではないかと疑っていたのだという事を素直に話した。その上でずっと黙って見張るようなことをしていたことを謝罪した。
シルビアンヌはその言葉にどこか納得した。
そして、ラルフやギデオンやジルに自分が惚れなくて良かったと心底思った。
もし惚れてしまっていたら、かなりの衝撃が走っただろう。
身悶えて、自分の愚かさにのたうち回っただろう。
「でも、それならすぐにでも話してしまえばよかった。」
シルビアンヌの言葉に四人は苦笑し、ラルフは手に持っていた本をシルビアンヌへと差し出した。
「皆で王城の文献をこの数日読み漁っていてね、そしてこの一冊にたどり着いた。」
「これは?」
ぺらりとシルビアンヌは本をめくって、そして動きを止めた。
じっくりとそこに書かれている文字を読み、そして次のページをめくる。
「アリーが、昔シルビアンヌがこれにそっくりな文字を書いていたと言っていた。それでもしかしたらこの本に何か手がかりがあるのではないかと思ったんだ。」
シルビアンヌは静かにページをめくっていきながら、内心かなり驚いていた。
本に描かれてた文字は全て日本語であり、恐らくは自分と同じように日本から転生した歴代の魔女が少しずつ書き足して残した本であろうことがわかった。
懐かしい文字に指を添わせ、シルビアンヌはふっと笑った。
久しぶりに見る日本語は、こちらの文字とは違ってカクカクとして見えた。最後に書かれていた本を王城に残した魔女もかなり苦労したらしいが、最終的には今のご主人と出会い幸せに暮らしたとあった。
そしてそこには、魔女の魔力は国の維持装置のようなものであり、それ故に数十年に一度魔女が産まれる仕組みになっているようだと書かれていた。しかも魔女になる者は必ず日本からの転生者だというのだから驚きだ。
何故そうなのかは分からないが、元々ゲームのシナリオであったことが関係しているのかもしれない。
そして、その本には悪しき魔女となった者達の言葉も記されていた。本来はこの本は魔女が引き継いできたものなのだろう。どういった経緯で王城に保管されたのかは分からないが、読むことが出来て良かったと思えた。ま
愛しい人、運命の番だと信じていた相手に裏切られた魔女、どうしても恋心が諦めきれずに魅了の魔法を使ってしまった魔女、運命の番など見つかるわけがないと自暴自棄になって様々な色男を侍らせた魔女。
そして最後にはどの魔女も生きたかったと残されていた。
けれどそれでも、国を捨てた魔女はいなかったようだった。
自分の命と引き換えにするだけの価値が、この国にはあるのだと、自分の血のつながった大切な家族がいる国を守りたいと、彼女達は自らの命を国に差し出した。
シルビアンヌは静かに涙をこぼした。
彼女達は、確かに生きていたのだ。
悪しき魔女ばかりが何故忌むべき存在として語り継がれてきたのか、シルビアンヌは苦笑を浮かべて悪しき魔女となった彼女達の文字をなぞった。
『死が英雄扱いされるのは違う。それよりは、悪女として、悪の華として人々の記憶に残りたい。』
死ぬからこそ、人の記憶の中で生き続けたいと願った彼女達。
シルビアンヌは本を閉じると涙をぬぐって四人に笑顔を向けた。
「何だか、この本に勇気をもらいました。この本を見つけて下さってありがとうございます。」
四人はどう返せばいいのか困ったような表情を浮かべている。
シルビアンヌは、静かにアリーの前へと進み出ると言った。
「ねぇアリー。私・・・貴方の事を信じてもいい?」
「え?」
心臓がトクトクと脈打ち、次第に顔が赤くなってくるのが分かる。
シルビアンヌは顔を真っ赤に染めながら、アリーの瞳をじっと見つめて言った。
「私・・・運命の番は・・・貴方がいいわ。」
ギデオンが口笛を吹き、アリーは言われた言葉を反芻して、そして、茹でたタコのように顔を真っ赤にした。




