二話
アリアをぎゅっと抱きしめたまま馬車は走り、ついたころには抱きしめすぎて苦しかったのかアリアは顔を真っ赤にしていた。
「ごめんねアリア。少し締めすぎたわね。」
上目使いでそう言うと、アリアはうっと顔をそむけて首を小さく横に振った。
「だ、大丈夫です。私は・・・シルビアンヌ様の物ですから。」
そう言う姿も可愛らしくてまた抱きしめたくなる。さすがはヒロインちゃんである。
だがそうも気を緩めてもいられない。何故ならば、今から攻略対象者一人目であるラルフ王子の十歳の誕生会のお茶会があるからである。
ラルフ王子のトラウマは令嬢達による婚約者という立場の争奪戦である。
ラルフ王子を巡って令嬢達は火花を散らし、そして女同士のどろどろの戦いに身を投げていくのである。その姿を見た王子は女同士のどろどろに恐怖を抱き、それがトラウマとなる。
このBLゲームでは女性へのトラウマというものを主人公達が持っているのが特徴であり、悪役令嬢であり魔女のシルビアンヌはそんなトラウマとなった女性の醜い所を全て請け負う存在でもある。
なので、今日の私の任務はというと女同士のどろどろを王子に見せないようにしつつ、アリアと王子を出会わせる事である。
ここで王子がアリアに恋してしまえば王子はトラウマどころではなくなるだろう。
完璧な作戦である。
ふっふっふと笑うシルビアンヌを、アリアはぽうっと頬を赤らめながら見つめていた。
シルビアンヌの真っ赤に燃えるような髪は美しく結われており、大きな金色の瞳は見つめられると魅了されてしまう。
ドレスは幼い令嬢が着るには少し大人びているのに、それを着こなしてしまうシルビアンヌはさすがとしか言いようがなかった。
アリアは見惚れながら、ほうっと息をまた漏らす。
「シルビアンヌ様はお美しいですね。天使様みたい。」
「え?」
何と言ったか聞こえずシルビアンヌが首を傾げると、ブンブンと両手を振って顔を真っ赤にしながらアリアは言った。
「何でもありません!さぁ行きましょう!」
「ふふふ。分かったわ。行きましょうか。」
いよいよ物語が始まるのである。
シルビアンヌは気を引き締めて馬車から降りると、煌びやかな王宮の廊下を歩きながらその見事な調度品にさすが王家であると感心していた。
シルビアンヌは公爵家令嬢であり、十歳にして令嬢たちのあこがれの的とまで言わせるほどに美しい所作を身に着けていた。
だからこそ、彼女が会場につくと令嬢たちの視線は一斉に集まった。
「見て、シルビアンヌ様よ。まぁお美しいわ。」
「殿下の婚約者の筆頭なのでしょう?」
「えぇ、シルビアンヌ様ならば・・・しょうがないわよね。」
皆が口々にそんな事を言っているのが聞こえるが、シルビアンヌは心の中でそれを否定した。
何故ならば知っているからである。
ラルフの恋愛対象は男性である。つまり、シルビアンヌが選ばれる可能性はない。
攻略対象というキャラクターとしてならばラルフはとてもイケメンで素敵な男性だと思う。清く正しく、人々に公平であり理想の王子様という印象だ。
だが、女性に対する恐怖心は強く、だからこそ純粋無垢なヒロインちゃんに惹かれるのである。
「アリア、いい?手筈通りに、もしも令嬢方の中で殿下の婚約者候補争奪戦が始まったら、殿下にそれを見せないように休憩室に案内するのよ。」
そっとささやかれた言葉に、アリアは苦笑を浮かべた。
「念のために休憩室の場所は把握しておきますが、ただの侍女の私には無理かと思います・・・」
「どうにか頑張るのよ。いいわね。」
「はぁ・・・まぁ、出来る限りは。」
アリアのやる気のなさそうな声にシルビアンヌは呆れながらため息をついた。
未来の旦那様になるかもしれない男性に、もう少し興味を持てと叫びたくなるのだが今はまだその時ではないだろうと口をつぐむ。
出来れば二人で休憩室に入った時の様子を脳内撮影したい。きっと絵になる二人だろうし、ファーストコンタクトはきっとドキドキものであろう。
も、もしかしたら壁ドーンとか、至近距離で見つめあうとか、そんなイベントが起こるかもしれない。
何それ見たい。
尊すぎるんだけれど、でも見れないだろうな。っく・・・自分の身分が憎い。
そんな事を考えると大抵アリアに白い目で見られるから、勘の良い子だなと視線をそらしてごまかす。
その時であった。
会場が一際にぎやかになると、壇上にラルフ王子が姿を現したのであった。
令嬢らは色めき立ち、シルビアンヌはいよいよ始まったと気合を入れた。
読んで下さって、ありがとうございます。わぁい!




