十八話
シルビアンヌによって伝えられたかなりオブラートに包まれた言葉を聞いた四人の、目が死んでいた。
光のないその瞳に、シルビアンヌは挑むように真っ直ぐに見つめると言った。
「私、ちゃんと理解しておりますから!安心してください。」
ラルフは静かに、アリー、ギデオン、ジルに向かって言った。
「この中に、女性よりも男性が好きな人はいる?」
三人は首を横に振る。
ラルフも冷ややかな笑みを浮かべて言った。
「同性婚は認められてはいるけど、少なくとも僕達は、女性が恋愛対象だよ。」
「え?」
シルビアンヌはその言葉に眉間にシワを寄せた。
そんなはずはない。
先程だって四人にはただならぬ雰囲気が流れており、ヒロインであるアリーを取り囲んでいたではないかと思ってしまう。
「あの、私は偏見はありませんわよ?」
そう言ってみるものの、四人が首を横に振る。
シルビアンヌは少し考えると、もしかしたらゲームの始まる年齢ではないから、まだ目覚めていないのかもしれないと思い付いた。
それならば納得が出来る。
シルビアンヌは頷くと、少しだけ何故かほっとした気持ちになっている自分に気が付いた。
何故かしらと思いながらも、四人に顔を向けると頭を下げた。
「変な勘違いをしてしまい申し訳ありませんわ。」
そういうとほっとしたように四人は息をつき、そしてラルフは瞳に輝きを取り戻すと、ゆっくりとシルビアンヌの手を取って言った。
「シルビアンヌ嬢。誤解は解けたから、僕達からお願いがあるんだけれどいいかな?」
ラルフの言葉に、シルビアンヌは小首を傾げて四人を見る。
もしや先ほど四人でこそこそと話をしていたことについてだろうかと思ったシルビアンヌは頷いた。
「はい。私にできる事であれば。」
だが、次の言葉を聞いたシルビアンヌは聞くのではなかったと顔を引きつらせることになる。
「よかった。あのね、最初はおもしろそうだから見守ろうかと思っていたんだけれど、君があまりに魅力的だからそれは止めることにしたんだ。」
「え?」
「僕達四人は君にこれから求婚するつもりだよ。だから、これから誰との婚約を受けるかよく考えてね。」
「はへ?」
突然の言葉に、シルビアンヌは何を言われているのか理解が出来ずに、視線をさまよわせ、アリーを見た。
すると、アリーはいつになく真剣な瞳でシルビアンヌを見つめており、その瞳に熱を感じて、シルビアンヌはさらに視線をさまよわせることとなる。
どういう事なのかが理解が追いつかない。
「ちょ、ちょっとお待ちください。え?・・・誰との誰の婚約について言っているのです?」
「ん?だから、僕達四人と君との婚約だよ?」
「は?え・・・えぇ?」
ギデオンはにやりと笑うと言った。
「シルビアンヌ嬢はまだ誰に対しても、恋愛的な好意は抱いていないのだろう?なら、俺達四人の中から選んだらどうかと言っているんだ。」
ジルもにっこりと微笑んで頷いた。
「そうそう。まぁアリーは少しばかり地位は低いけれど、まぁ許容範囲でしょう?恐らくこの四人の誰を選んでも婚約できる。」
「シルビアンヌ様・・・僕が・・なんておこがましいのは分かっています。でも、諦められないんです。」
アリーに真っ直ぐに見つめられそう言われ、シルビアンヌは耳まで赤くなっていくのが分かる。
震えそうになる声をぐっと押さえてシルビアンヌは口を開いた。
「き・・貴族の結婚は家同士のつながりですから・・・その、私が選べるわけでは・・・ないと思うのです。」
その言葉にラルフはにこりと優しげな笑みを浮かべながら頷いた。
「そうだね。本来は僕が、君を婚約者に指名すればいいのだけれど・・・」
そう言った瞬間、三人の鋭い視線がラルフへと向けられる。
「まぁ、男同士やっぱり正々堂々と、ね?」
”ね?”ではない。
シルビアンヌはラルフの婚約者になるつもりはない。だからといって、ギデオンは侯爵家ではあるものの騎士団に将来は所属する形となるであろう。兄が爵位は次ぐはずであるし、そうなるとシルビアンヌとつり合いが取れるかどうかは微妙である。それはアリーもであり、子爵家とはいえ、男爵家からなったばかりでありシルビアンヌが輿入れするには少しばかり地位が低い気もする。
となると公爵家のジルだが、シルビアンヌは心の中で首を横にブンブンと振る。
ヤンデレは自分には対応できそうにない。
シルビアンヌはちらりとアリーを見た。
はっきりと言えば、アリーと将来ずっと一緒にいられる方法が婚約であるなら、シルビアンヌにとっては恋愛うんぬんよりも優先したい。
だが、アリーの熱のこもった瞳を見ると少し一歩引いてしまう。
シルビアンヌは大きく息吸って、そして吐くと、四人に向かって笑顔を向けてはっきりと言った。
「では、お答えしますが、皆さんお断りいたします。」
『え?』
四人が目を丸くして固まった。
シルビアンヌは思った。
どうせ十六歳のゲーム開始時になればみんなヒロインちゃんであるアリーに夢中になるのである。ならば、ここではっきりと断っておいた方が無難であろう。
「っひ!」
そう思ったのだが、四人の顔を見たシルビアンヌは一歩後ろへと下がった。
皆笑顔を浮かべているくせに、全く笑っていないのが伝わってくる。今一瞬よからぬことを考えたのがばれたのであろうかとシルビアンヌはびくびくとする。
「わ、私が選んでいいのでしょう!?そ・・それに婚約者はお父様が決めて下さるはずです!なので、私が軽率にお返事など出来ませんわ!」
「そんなこと、皆分かっているよ?貴族だもの。しかも君は公爵家のお姫様だ。だから、子どもだけのこの席で伝えたんじゃないか。」
「へ?」
「君の父上の公爵は、君に甘いってことは知っているよ?たぶん、君が願えば、好きな人と結婚させてもらえるんじゃないかな?たとえ、誰であっても、ね?」
頭の中に自分の父親を思い描いたシルビアンヌは確かにそうであろうと、思わず頷きそうになった。
父であればシルビアンヌがお願いすれば好きな相手と添い遂げる事を許してくれると思う。だがしかし、それがこの四人の中の誰かだなんてことは思えない。
「わ、私は、皆様にはふさわしくありませんわ!」
そう言ったところで聞いてはくれなさそうな雰囲気を、シルビアンヌは感じた。
メリークリスマス!




