十七話
シルビアンヌは、一人お茶を飲みながら、庭を見つめて息を吐いた。
攻略対象者達のトラウマは取り除くことが出来たはずである。つまりここから先の物語で、自分が断罪される可能性はかなり低い。
ならばとシルビアンヌは瞳に希望を輝かせた。
早く自分を愛してくれる男性を探し出さなければならない。
この物語の中では、男性が男性に恋するのは別段おかしなことではない。同性婚も認められている。
王家などについてはもし正妃に男性が立った場合、側妃として女性を娶らなければならないという決まりはあるものの忌み嫌われるようなことはない。
なので、アリーがどの対象者と恋愛関係になっても周りから非難を受けることはない。
まぁ、出来るならばヤンデレは止めておけと忠告しようかなと思うくらいだ。
シルビアンヌはお茶を飲み干すと、拳を握りしめた。
とにかく、早めに行動して自分の婚約者にふさわしい人物を見つけていかなければならない。
「でも・・・どうやって見極めたらいいのかしら。」
ぽつりとシルビアンヌの口からずっと思っていたことが漏れた。
そうなのである。
見た目で言えば、アリーもラルフもギデオンもジルも別段男性が好きですというような風貌ではない。つまり見た目で見極めるのは困難なのだ。
だからといって『貴方は女性が好きですか?それとも男性が好きですか?』などと恋愛対象について聞くわけにはいかない。
そもそも、男性が女性に恋することが当たり前なのかどうかさえ怪しい。
もし男性が男性を愛することが当たり前の世界であった場合、自分は詰んだ。だが、両親は男女で愛し合っているようだし、おそらくは、多分、大丈夫なはずである。
「見極める方法が何かあればいいのに・・・」
シルビアンヌはお茶に手を伸ばすが、空になったことを思いだし、ため息と共に先ほど男同士の話があると言って庭へと入っていった方向を見た。
話とは一体何であろうか。
ふと気になりだすと止まらない。
もしかしたら何かしらのイベントが起こっているのであろうか。
それならば、見たい。
ごくりとシルビアンヌは生唾を飲み込むと、そっと席を立ち、音をたてないように庭をゆっくりと進んで行った。
そして声のする方向へと歩き、生垣から四人を覗く。
「はぅ!」
慌てて口を押えて感歎の声を抑えると、シルビアンヌはその光景を心のカメラに収めた。
ベンチにアリーが腰掛け、その横にラルフが、そして反対側にギデオンがおり、ギデオンはアリーの方に腕を回している。
ジルはなんと後ろからアリーの頭に手を置いて撫でまわしている。
これは何という美しい様子であろうか。
美少年四人が絡み合っている姿は眼福以外の何物でもない。
だがしかし、気になる点が一点。
三人は悪い笑みを浮かべ、アリーは少しばかり顔色が悪い。
シルビアンヌは気づいた。
まさか、誰を選ぶのかと詰め寄られているのであろうか。
アリーの中で心の声がアフレコをし始める。
『僕を選んで。君を大切にするよ?』
『はぁ?俺にしとけ。俺の横に立つ方がお前は幸せになれる。』
『ふふふ。アリーは私の方がいいよねぇ?可愛がってあげるよぉ?』
シルビアンヌは鼻血を吹きそうになるのを両手で押さえてどうにか堪えると、身悶えた。
邪な妄想が頭の中を駆け廻っていく。
『だ・・だめだよ。僕は選べないよ。』
『ふっ。欲張りな人だな。三人とも選びたいって言うの?』
『ち、違う!』
『まぁ俺はそれでもいいけれど?』
『私は独り占めがよかったけど、アリーが言うなら仕方がないなぁ。』
ダメだ。止めなければ!止めなければ気づかれる!
シルビアンヌがそう思った時にはすでに遅かった。
シルビアンヌの邪念を察知する能力を有するアリーが鋭い視線でシルビアンヌの方を見た。
「シルビアンヌ様!?」
ガバッと立ち上がり、アリーは焦ったようにシルビアンヌに駆け寄ると他の三人も同じように動揺しているのが見て取れる。
「今の話、聞いていたのですか!?」
アリーの言葉に、シルビアンヌは首をブンブンと勢いよく振りながら答えた。
「聞いていないわ!私はちょっと、ほんのちょこーっとよからぬ妄想をしていただけで、会話は全く聞こえなかったので、盗み聞きをしていたわけではないのよ!」
その言葉にホッとした様子の四人ではあったようだが、シルビアンヌの言葉に引っ掛かりを感じる。
「よからぬ妄想とは?」
ラルフに尋ねられ、シルビアンヌの顔色は次第に悪くなる。
「え?いえ、その、何も考えておりませんわ。」
「考えていないって顔じゃないよなぁ?」
ギデオンに詰め寄られ、シルビアンヌは一歩後ろへと下がった。
それに追い打ちをかけるように、ジルがにこにことシルビアンヌに言った。
「ちゃんと話してくれたら、覗き見していたことを許してあげるよ?」
必死に、シルビアンヌはすがるような視線をアリーに向けると、アリーは困ったような笑みを浮かべている。
助けてくれる気はないらしい。
シルビアンヌはその後、四人の視線に耐えかねて、どんな妄想をしていたのかを、かなりのオブラートに包んで四人に話すのであった。




