男達の秘め事
三人に呼び出されたアリーは、何を言われるのだろうかと緊張しながら進められるがままに庭のベンチに腰を下ろした。
最初こそにこやかだった三人ではあったが、その表情は一瞬にして変わり、真剣な表情になる。
「君には協力してほしい。」
ラルフの言葉に、一体どういう事だとアリーが眉間にしわを寄せると、ラルフはゆっくりと口を開いた。
「シルビアンヌ嬢に、魔女の疑いがかけられている。」
魔女。それは悪しき存在であり、国に暗雲を呼びこぶ忌むべき存在として、国に伝承されている。それは皆が知っている事ではあるが、おとぎ話にも近いものであり、アリーは最初意味が分からなかった。
ジルはその様子に、アリーの頭をポンと撫でると言った。
「君が、シルビアンヌ嬢を愛おしく思っているのは見ていて分かる。僕もね、彼女はとても素敵な女性だと感じているよ。だが、それと同時に、あまりにも情報を手にしている、とも考える。」
まるでシルビアンヌを魔女として疑っているような言葉。
アリーの顔色は少しずつ悪くなっていく。
ギデオンは、アリーの方に腕を回すと声を潜めて言った。
「実の所、彼女の兄からも、シルビアンヌ嬢が普通の十歳の令嬢ではないという話を聞いている。彼女は十歳にしては頭が良すぎる。そして、学んでもいない事を知っており、まるで未来が見えているように話をしていたこともあったそうだ。」
ラルフは頷くと、アリーの瞳をじっと見つめて言った。
「十年前に魔女が誕生したと王家に神のお告げが舞い降りた。だが魔女とは、忌むべき存在として伝承されているがそれは違う。悪しき魔女なのか善き魔女なのかは個人によって違う。だがいずれ覚醒する時が来るはずだ。王家は、現在の所もっともシルビアンヌ嬢が魔女に近い存在なのではないかとしており、年の近い僕達が彼女を見張る役割として選ばれた。元々ギデオンは僕の正式な護衛騎士だし、ジルは側近となる予定だったからね。三人で動く方が都合がいいんだ。」
アリーは声が震えそうになりながらもはっきりと言った。
「シルビアンヌ様は・・・優しい・・・天使のような人です。」
その言葉にラルフは厳しい瞳で答えた。
「突然君を侍女として傍に置き、そんな君は子爵家の嫡男だ。これは偶然か?しかも機密情報であったはずのジルの母君の事まで突き止めた。そして彼女は・・・人を惹きつける力がある。」
「え?」
「僕もギデオンもジルも、少なからず彼女に惹かれている。だが、一番彼女に惹かれているのは君だろう?」
アリーは言葉を失い、三人に視線を向ける。
「魔女は人を惹きつける。覚醒するのは十八歳の成人までと言われている。その間までに彼女が魔女として覚醒しなければいいだけのこと。だから、僕達は彼女に求婚する男として、彼女の周りにいるつもりだ。君は、どうする?」
アリーはラルフを睨みつけると言った。
「シルビアンヌ様がもし魔女だろうと、僕は彼女を守る。」
「ふふ。いい目だね。なら僕達同様彼女に求婚する男として、一緒に傍にいるかい?」
アリーは頷いた。
「けど、もし彼女が魔女でなかったらどうするつもりなの?僕は本気だけど、君たちは?」
その言葉に三人はにやりと笑った。
『もちろん本気だけど?』
三人の声は重なり、苦笑を浮かべながらラルフが言った。
「王族として彼女は問題ない婚約者候補の一人だし、美しい人だ。」
「まぁ、俺は騎士になる予定だし今後がまだ未定だからシルビアンヌ嬢的には微妙かもしれないが、もし彼女が俺を選んでくれたなら大切にする。」
「ふふふ。私が一番彼女の地位としてもふさわしい男なんじゃないかな?私は母の事を教えてくれた彼女に感謝しているし、それに好ましく思っているから、結婚したら大切にするよ?」
三人の言葉にアリーの顔色は少し悪くなる。
自分は最も地位は低いし、シルビアンヌにとって男らしさとはかけ離れた存在だろう。
それでも、とアリーは思う。
「僕だって、シルビアンヌ様が大好きだ。だから、負けるつもりはない。」
ラルフは頷いて言った。
「なら、求婚すると同時に、もしもシルビアンヌ嬢が魔女となった時に止められるよう我々は対抗措置として魔術を学ぶ予定だが、こちらも参加するか?」
「魔術?」
ジルはにこりと微笑んで言った。
「そう。やる?やらない?」
「やります。出来ることは、何でも。」
その時、アリーはシルビアンヌのねっとりとするような、よからぬ事を考えている時の視線に気が付き、慌ててそちらへと視線を向けた。




