十四話
シルビアンヌは、しずかにため息をついた。
どうしてなんですの?どうして、こうなったのですの?
目の前にいるのは、王子に侯爵令息に公爵令息?いや、今は令嬢の格好であるが。
「どうしたんだい?シルビアンヌ嬢。僕の手土産のお茶は気に入らないかな?」
優しげな微笑を向けられたシルビアンヌは、ラルフに向かって笑みを張り付けると首を横に振った。
「いいえ。とても美味しいです。果物のお茶なんですね。甘いのに、苦みもあって、何だか不思議な感覚です。」
「本当だよなぁ。俺は少し苦手な味かもしれない。」
舌を行儀悪くぺろりと出すギデオンに、王子は苦笑し、その横に座る令嬢の格好をしたジルは優雅な姿勢でお茶を口に運ぶとふふふっと笑った。
「確かにギデオンは苦手かもしれないね。私は好きだけれど。」
三人ともとても楽しそうであるが、シルビアンヌは納得がいかなかった。
何故こうなったのか。
それは一か月ほど前に時は遡る。
シルビアンヌの元に、一通の手紙が届いた。
王家の印の推されたその手紙にはラルフ王子、ギデオン、ジルの三人がシルビアンヌの公爵家へと遊びに来たいと言う内容の物であり、シルビアンヌの父はかなり手紙の内容に驚いていた。
どういうことかと尋ねられたシルビアンヌは、自身も訳が分からないままに、父に言ったのだ。
「それぞれ最近できたお友達です。」
それ以外にどう言ったらいいのかが分からなかった。
父はじっとシルビアンヌの瞳を見た後に、大きくため息をついてから言った。
「シルビアンヌ。君が色々な事を調べたり、しでかしたりしている事は把握しているけれど・・とりあえず手に負えなくなった時にはすぐに言いなさい。」
「・・・・はい。」
さすが我が父であると、内心思った。楽天家なくせに、仕事は出来る男である。
そしてあれよあれよと日々は流れ、今日はシルビアンヌの家にて、押しかけお茶会が開かれていたのである。
なごやかなムードで始まったそのお茶会で、シルビアンヌはそっと視線をアリアへと移すと、アリアはいつも通りに侍女として傍に控えている。
はぁ、ここに座っているのがヒロインちゃんならば逆ハーの場面と言えるのに。まぁお兄様はいらっしゃらないけれど。
ここにヒロインちゃんが座っていたならば、なんて可愛らしいのかしら。
ちょっとアリアを横に座らせて妄想しようかしらなんて事をシルビアンヌが考えていると、すっと冷たい視線がアリアからもたらされ、シルビアンヌはすっと背筋を伸ばすと邪念を消した。
何故ばれるのか。未だに分からない。
「それでね、シルビアンヌ嬢。今日僕達が来たのには訳があるんだ。」
ラルフの言葉にシルビアンヌはお茶を飲んでいた手を止めると、顔を上げた。
三人の視線がシルビアンヌに集まっており、シルビアンヌは一体何を言われるのかと内心びくびくとしていた。
「そんなに怖がるなよ。別に取って食いはしねーよ。」
「そうそう。ほらお菓子食べながらで良いから。」
机に並ぶのは、我が家が準備した彩り豊かなお菓子達。その中には三人の持ってきた手土産も入っており、シルビアンヌは進めてくれるのならば遠慮せずにと、クッキーを手に取ると口へと運んだ。
甘い。
美味しい。
ふわっと可愛らしく微笑みを浮かべるシルビアンヌに、三人の表情は固まる。
常日頃はどちらかというと美しいと言う言葉の似あうシルビアンヌだが、お菓子を食べる姿はどこぞの絵本から飛び出してきた妖精なのではないかと思うほどに可愛らしい。
世に言うギャップ萌えというやつなのかもしれない。
食べ方は丁寧で令嬢らしいのに、口が小さいからなのか、もっそもっそと食べる姿は小動物のようである。
しばらくの間、本当は食べながら会話をしようと思っていた三人は、じっと静かにシルビアンヌが食べる姿を見入っていた。
つい、シルビアンヌが食べ終わるたびに次の菓子を進めてしまう。
「こっちは俺からの手土産の菓子だ。美味しいぞ。」
「あぁ、私の手土産のケーキだって美味しいですよ?」
シルビアンヌは進められてしまえば、瞳を輝かせて菓子に手を伸ばし口へと運ぶ。
甘い味が広がっていくと、シルビアンヌは思った。
あれ?今日はお菓子食べ放題のご褒美デーだったのかしら?ふむ。それなら王子達が来るのも別にいいかもしれませんわ。
アリアはシルビアンヌの考えていそうなことが手に取るようにわかり、小さくお茶のお代わりを注ぎながらため息をついた。
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