九話 王子九重
本当の島風の姿を知った翌日、鏡が登校するとすぐに彰久が近寄ってきた。
「おっす、鏡」
「はよー、彰久」
「唐突だが鏡、先に謝っとく」
「は?どうした」
「直にわかる、ごめんな鏡、俺も一緒に生贄になるから許してくれ」
「いや、マジでどうし...」
「橘さんちょっといいかな?」
よく分からない彰久の謝罪を聞いていて、理由を聞こうとしていると、声をかけられる。
そちらを見てみると、この学校の姫と対を成す人物が居た。
「おー、湊もう手を出しに来たか!」
彼の名は、九重 湊 、この学校の王子と言われていて島風とは対を成す人物。
サッカー部に所属していて、大会でもいい結果を残している爽やか系イケメンだ。
学校初日、教室の入口に女子生徒がいっぱいいた時はどうしたものかと思ったものだ。
「彰久それは言い方が酷いよー」
「ハハハ、すまんすまん」
「それで九重何か用か?」
「湊でいいよ」
「じゃあ俺も鏡でいい、でなんだ?」
今まで全く関わりがなかった湊が話しかけてきた意味が全く分からなかったため、混乱せざるを得ない状況であった。
「今週の土曜日にサッカー部の練習試合があるんだけどさ、休みが2人出ちゃってさ。サッカー部の部員足りてないから試合できなくてさ」
「そんで俺に声をかけられて他にスポーツ得意な人はいないか?って聞かれた時に鏡って言ったわけよ」
「それで巻き込まれてるわけか......」
「頼む!」
「そもそもサッカー部じゃないやつは出来ないんじゃないか?」
そもそもチームじゃないやつがいきなり入ったところで上手く回らないと思うんだが。
「公式戦じゃないってのと仮入部って扱いにすれば出れるんだってよ」
「知らない奴が来たらチームの人が困るだろ?」
「声をかける人っていうことでもう伝えてある」
どうしたものかと考えていると、
「私からもお願い!」
と話に入ってくる人物が。
「今回だけでいいからお願い!」
この人は春風 紬、王子の幼なじみでサッカー部のマネージャーをしている。このクラスでは委員長を務めている人物である。
「正直めんどく」
ここまで言って周りから視線が集まっていることに気がついた。
それに否定したら消し炭に科す、みたいな視線が送られていて、王子のお願いを聞かないと物理的に抹消されてしまうような気がした。
「ハァ、分かった今回だけだ、それにサッカーの経験はないからなあまり期待するなよ」
「分かった!ありがとう!それじゃあ部員の皆に伝えてくる!」
そう言ってクラスを飛び出して行った。
「なぁ、もしかしてなんだが練習に参加するとかって話をしないってことはぶっつけ本番ってことだよな?」
「多分そうだろうなぁ、これどうしたもんか」
「ごめんね、湊ちょっと抜けてるところがあるから多分忘れてたんだと思う」
申し訳なさそうに謝ってくる春風。
「まぁ、やろうがやらまいが変わらねぇか」
「確かにな、俺もそう思うぜ!」
「胸を張って言うなアホ」
とりあえず頭を叩いておいた。
放課後、いつもの夕飯タイムがくる。
「島風、今日なんか王子に話しかけられたんだけどさ」
「王子って誰?」
めちゃくちゃ普通に誰って聞かれたんだが。
「うちのクラスにいる九重湊ってやつ、知らん?」
「んー、全く知らないかな名前初めて聞いたもん」
王子のことを知らないって人いたんだな、ってかあんだけ騒いでるのに名前すら知らないって
「ほら、よく女子が群がってる男子いるじゃんか」
「あー、なんか分かったかも。爽やかそうな感じがしそうな人でしょ?」
「そうそれ」
可哀想だな、湊目立ってるのにここまで言われないと分からないって本気で興味な人ってことだぞ。
「まぁその王子に話しかけられたんだけどさ、今週の土曜日にサッカー部の練習試合があるらしいんだけどそれに参加してくれって言われて、それにいかないといけないらしいんだよね」
「そうなんだ、え?橘さんってサッカー部?」
「いや、違うなんか諸事情でサッカー部の人数が足りないから助っ人?みたいな感じ」
鏡的には助っ人というよりは足を引っ張るだけだと思っているのだが
「そうなんだー、あっ、そうだ!」
いきなり声を張り上げた島風に鏡がビクッとなる。
「ボクが応援に行ってあげようじゃないか!」
「いや、普通に無理じゃないか?観客に入りに来ることは出来るだろうけどサッカー部の応援って今まで行ったことないだろ?」
「うん、全くないよ」
「じゃあ、不信に思われるだろ」
いつも試合を見に来ているなら変わらないだろう、だがいつも来ている訳では無い、しかも学校の姫となれば騒がられるのも確実であろう。
「うーん、確かにそうだねー、あっ、そうだ春風さんって確かサッカー部のマネージャーだったよね?」
「ああ、サッカー部のマネージャーのはずだぞ」
「なるほどねー、いいこと思いついちゃったー」
島風はニヤァっとイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべる。
(どんな表情してても大丈夫って綺麗な人の特権だよなぁ)
鏡は、全く練習試合のこととは関係ないことを考えていた。
「それで、いいことってなんだ?」
そう鏡が聞くと。
「チッチッチー、ネタばらしをされたらつまらないでしょ?楽しみにしておくがよいぞ!」
と、したり顔で指を振りながら鏡へと向けて言う。
鏡は首を傾げるしかないのであった。
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