八話 幸せ度ぱわーあっぷ
頭を撫で始めてから20分経ったかどうかぐらいだろうか。
「橘さん、ありがとう」
「おう、吐き出したくなったらまた言ってくれていいからな」
「多分大丈夫だよ、だって素のボクを出しても受け止めてくれるんでしょ?」
「まぁ、そう言ったからな」
数十分前の自分が大分クサイことを言ったのを思い出し、ぶん殴りたくなったことをここに記す。
「へへ、やっぱ橘さんって優しいよね、今日のも気まぐれ?」
「いや、今日のはただ助けたいって思っただけだ、友達を助けるのは当たり前だろ?」
「友達......」
「......すまん嫌だったか」
自分の中では友人だと思っていたし、友人だと思われていると思っていたのだが。
「いや、そう意味じゃないよ!その、心の底から友達って言いきれる人って久しぶりだなって思ってちょっと感極まっちゃっただけ」
そう言って島風は鏡の手を握ってくると
「えへへ、友達ってこんなに心があったかくなるんだね、久しぶり過ぎて忘れてたよ」
そう言って今まで見た中でとびきり一番の笑顔を浮かべた。
その笑顔を見た鏡は、言葉を失い顔を下に向ける。自分の顔が今までにないほど熱くなっていることを自覚する。
(その笑顔は反則だろ......)
だがそれと同時に久しぶりという言葉を聞いてモヤモヤとした気持ちになる。
「ともかく、これからもよろしくな」
「うん!よろしくね!」
そう言って握っていた手をブンブン降ってくる。
素の島風はボクっ娘&元気っ娘のようだ。
「グゥ」
いい雰囲気になっていたところで鏡のお腹がなる。
鏡達が話し始めてだいたい二時間ほどが経っていたため、もう少しすれば十八時になるくらいの時間になっていた。
最近だと後もう少しすれば夕飯を食べ始める頃合だろう。
「あはは、お腹が空いたの?」
「......どうやらそうらしい」
「じゃあ、ご飯の時間にしようか」
「手伝う、ちょっとくらいならできるはず」
「じゃあ、お願いしようかなー」
そう喋りながら、台所へと向かい夕飯作りを始めた。
「親子丼?」
出来上がった料理を見てみて鏡はそう零した。
「そうだよ、橘さん卵料理好きそうだったし、テストお疲れ様卵だよ!」
「よく卵料理が好きだって分かったな」
細かくいえば鶏が関わるならだいたい好きだが
「見てればわかるよー、いつも美味しそうに食べてくれてるけど卵料理を食べてる時は幸せ度パワーアップしてるからね!」
「幸せ度ぱわーあっぷ」
「幸せ度パワー!」
今の島風に静香を合わせたら大変なことになりそうだと思ったのは鏡だけだろうか。
「ふふふ、友達のボクに隠し事が出来ると思うなよ!というかしないでね!ボクもしないから!」
「いや、もう島風隠し事あるじゃん」
「え?どうゆうこと?」
なぜ仮面を被ってたのか、とかな。
ただ、あまり触れるべきではないと考え何も言わないことにした。
「まぁ、隠し事...か俺に何かあるか?」
「ボクはまだまだ知らないことだらけのはずだよ!」
(とりあえず俺について話せばいいのか?)
「俺の名前は橘 鏡だ」
「知ってるよ」
「誕生日は9月2日だ」
「過ぎてるじゃん!祝いそびれてるよ!」
「まだその時は仲良くなってないだろ」
関わりを持ち始めたのは夏休み明けのちょっとあとの9月2週目程度なのだから誕生日を祝われたら祝われたで、恐怖を抱かざるを得ない。
「それはそうだけど......絶対来年は祝うからね!!」
「それなら島風の誕生日も祝わないとな、いつなんだ?」
「11月21日だよ!!」
今が10月の頭だから一ヶ月とちょっと後といったところか。
「あとはそうだな、家族構成は父方の祖父母と父母妹って感じだな、祖父が橘グループの会長で親父が社長だな」
「......え?今なんつった?」
「祖父が橘グループの会長で親父が社長だな」
「え、もしかして御曹司?」
「そういう島風も御令嬢じゃないか」
そう考えると今この場には日本を支える三本柱の二本の息子娘が揃っているということだ。
この場にアサシンが来れば凄いことになるな。
「まぁ、そんな感じだから俺にあんま隠し事はないぞ?」
「最後にどデカい爆弾を落として行ったよ......」
「とりあえず親子丼食おうぜ、冷めちまう」
「......そうだね」
島風はとても疲れたような顔をしていた。
「なぁ、そういえば今日のが島風が俺の家で作る最後の晩餐だったんだよな?」
「まるでボクが死ぬみたいな言い方をしないでよ」
食後の時間、完全に忘れていて先程思い出したことを聞く。
え、親子丼はどうたったか?だって?
鏡が感激のあまり号泣して島風がなんともいえない顔で固まっていたとだけ伝えておく。
「死ぬ訳では無いが、確か勉強を教えてくれるついでに夕飯を作ってくれるって話じゃなかったか?今日でテストは終わっただろ?」
「あー、そういえばそうだったねー」
食費の折半については鏡の家で作ろうが作らまいがお裾分けを貰い続けるのであれば続けるのだが、鏡の家で作るのは勉強を教えてくれる今日までだったはずだ。
「もし、橘さんが良ければボクは橘さんの家で作ろっかなーって思ってるんだけどどう?」
「もちろん構わない、というかそれを言われなかったら俺から言うつもりだった」
この何週間かの間で完全に鏡は島風に胃を掴まれていた。
出来れば出来たてを食べたい鏡は提案されなければ自分から提案しようと考えていた。
「ともかく、明日からもよろしくね!ボク学校終わった後は基本的に暇だから早めに来て遊ぶのもいいかもね!」
「ああ、よろしくな」
そこまで言って、はたと気がつく
「なぁ、まさかと思うが学校でもこのノリで話しかけてきたりするつもりか?」
「いや、ボクがボクでいられるのは橘さんと二人の時だけだから学校では仮面のボクで話しかけるよ?」
「あー、そういう意味ではなく話しかけてくるのか?って言う話だ」
「?」
いつもは自分から人に話しかけたり深く踏み込んだりしない姫がその辺にいる根暗な生徒に話しかけていたらどうなるか?ということだ。つまり、
「様々な人からアプローチを受けてる姫が、クラスの端に居るようなやつに話しかけたりすれば、その端にいるやつはどうなると思う?」
「......腫れ物扱い?または、イジメに発展する?」
「そういうことだ」
鏡だけの場でなら問題は無い誰にも見られている訳では無いのだから、だが学校では違う。
片や学校で一番と名高い姫、片やクラスの隅にいる男子。
隅にいる男子が消し炭にされるのは言うまでもない。
「それに変な噂を立てられても嫌だろ?だから学校で関わりを持つのは無しだ」
そう言うと島風は下を向き何かを小さくつぶやく
「べ...わさ......いのに」
少しすると顔を上げて渋々と
「分かった、でも学校以外では良いんだよね?」
「まぁ、人目につかないならな?」
人目のつくような所で絡まれて他の人に見られたら大変なことになるからそれもダメなのだ。
「うん、分かった、その代わり人目がつかないところでは絡みに行くからね!」
「自分から絡みに行くって言うやつがいるかっつーの」
「まぁまぁ、ともかく明日からもよろしくね!」
満面の笑みを浮かべる島風に頷く鏡であった。
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