五話 変態紳士は紳士
家に帰ってきて最近週間となり始めている保存容器の返却をしに島風の家へと鏡は向かう。
ピンポーン
トテトテトテ、ガチャリ
来るのが分かっていたのか声もかけられずに扉が開く。
「保存容器返しに来たぞ、昨日のも美味かった」
それを聞いて褒められなれていないのか島風は少し頬を赤く染める。
「ありがとうございます、ではこちらをどうぞ」
「いつも助かる、ありがとう」
「ここまで貰ってて言うのもあれなんだが俺金払った方が良くないか?」
「構いませんよ?あくまで私がしているのはおすそ分けですし」
「それでも二人分作ってるのには変わりないだろ、作って貰ってるし、だから俺が金を払う」
「なら折半ということにしましょう、異論は認めません」
「・・・分かった、ともかくいつも助かる」
「いえ、こちらこそ今日は本当に助かりました」
「たまたま見かけて、困ってそうだったからな」
「それでも助かりました、ありがとうございます。何かお礼がしたいのですが何かありますか?」
何かお返しがしたいと島風が言う。
「特に何も無いが、この前も言ったんだが見返りを求めて助けてる訳でもないし、気まぐれだ」
「ですが私がお礼をしたいのです、そうですね、何も無いならもうすぐ定期試験ですし私があなたに勉強を教えるというのはどうですか?」
「俺は勉強はしない主義なんだが」
「なるほど、ではやはり勉強を教えるということにしましょう」
「いや、なんでだよ」
「学生の本分は勉学です、しっかりしないとダメですよ?場所はどうしましょうか」
「ハァ、学校はまず無いな島風と俺が関係を持ってるとバレるとめんどくさい事になりそうだ」
ため息を吐きつつも現実的な落とし所を探し始める鏡
「そうですね、この近くに図書館がある訳でもありませんし、カフェとかはどうですか?」
「勉強をどのくらい教えようと思っているかによるんじゃないのか?」
実際そこのところなのだ学校内、どこかの教室だと人の目に付く、それと同じで図書室もダメになる、時間によってはカフェなどに入って教えてもらうという手があるが、長ければそれだけ同級生に見られる可能性もあればそもそも店に迷惑がかかる。
「もちろん教えるからにはしっかりやりますよ?」
「ならカフェも無しだ店に迷惑がかかる」
「なるほど、ではどうしましょうか」
「そもそも教えないという選択肢は」
「ないです」
考えることも無く即答である。
「じゃあどうするんだよ、人に見られずじっくりできる場所なんてないぞ?」
そこで島風は下を俯き考える。
そして顔を上げ口を開くと
「では橘さんの家で教えると言うのはどうでしょう」
「・・・俺は構わないが普通男の家に上がるか?しかも女一人で」
「橘さんはそういう部分弁えていると思いますし、何より私にあまり興味はないでしょう?」
「確かにそうだが」
「私の中で、橘さんは安全で気まぐれに助けてくれる人ですから」
(それって男への評価としては最低値近くないか?)
「明日からで構いませんよね?」
「別に構わないぞ?」
「それと夕飯はあなたの家で作ります」
「いや、なんでだよ」
「どうせ時間が夕飯に被るでしょうし食費も折半することになったのです、私の家で作って渡そうがあなたの家で作って食べようが変わらないでしょう?」
そこは大いに変わるのではないかと一般的に考えられるのだが、そこまで考えが至っていない鏡は作りたてのご飯が食べられるとしか思わなかった。
「あなたの家には料理器具がありませんよね?なら明日私の家の料理器具を持ってくるので」
「あー、大丈夫だ、家には親が勝手に揃えた器具がある、なんならオーブンもある、調味料は買うだけ買ってるから問題は無い」
「そうなのですね、なら明日見てみて足りないものを持ってくる感じにします」
この後少し話し合った結果
・食費は折半、島風は料理を作っているのでその分の人件費として多めに鏡が出す。
・勉強は夕飯の前後の時間に行う。
・買い物は基本的に鏡が行う、ただし島風が行く場合もある
・夕飯を一緒に食べない場合は出来るだけ早めに連絡をする
「連絡をできるようにするため連絡先交換をしておきましょう、今携帯を持っていますか?」
「ああ、持っているぞ、ほい」
「どうも」
「はい、あなたの方にも入れておきました、必要な時に連絡してください」
「分かった、じゃあまた明日」
「ええ、では」
翌日、帰りのHRが終わり帰宅してる最中ふとアイスを買おうと思った鏡は最寄りのスーパーへと向かった。
(今日は何味のアイスを買おうかなぁー)
「あらぁ、鏡ちゃん、この前来たばっかじゃなかったかしら?」
野太い声のオカマ口調が聞こえたので振り返ってみるとそこにはレオタードを着て化粧をしている身長180cmほどの男性が居た。
「こんにちは慶次さん、唐突にアイスを食べたくなりましてね」
「あら、そうなのねー。いらっしゃい、ところで今日も彰久ちゃんは居ないのかしらぁ」
この人は咲丘 慶次さん、この店のオーナーで夜はバーを経営している人だ、ちなみに彰久が変態紳士と呼んでいたのはこの人で格好は趣味、射程範囲は彰久のような顔が綺麗な人、つまり面食いという事だ、ちゃんと性格も見てはいるらしいが。
「はい、今日も俺一人です」
「あの子私のことを避けてるみたいなのよねぇ、別に彼女がいる子を狙ったりする訳じゃないのにぃ。ただ綺麗なものを愛でようとしてるだけなのにねぇ」
「慶次さんは紳士ですからね。まぁ、家に泊まりに来る時にきっと来ますから」
時々彰久は鏡の家に泊まりに来る。その時は買い物に強制的に連れてきているので、その時に会えるだろうということだ。
「そうねぇ、ならいいかしらぁ」
(それでいいのか、慶次さん・・・)
「わかったわ、鏡ちゃんもゆっくりしていってねぇ」
「はい」
ここまで話して慶次さんは去っていった。
鏡もアイスを買って帰ろうと思い、アイスを選んでからレジへと向かうと、
「橘さん?」
「よぉ、島風」
そこには買い物カゴを片手に持つ制服姿の島風が居た。
チラッと買い物カゴを見た鏡は言いたい事が出来たが今ここで言うと周りに迷惑になると自重し、一度会計を済ませる。
島風が会計を終えるのを待ち、買ったものを袋詰めしている所を横から見ながら
「昨日の話し合いで買い物は俺が行くってならなかったか?」
昨日の取り決めで『基本的に買い物は鏡が行う』と決めたはずなのだが、昨日の今日で何の話し合いだったのだ?となる状況になっていたのだ。
「あくまで基本的にですし私が行く場合もあるとの事だったと思いますが、それに今日のメニューについて教えてないですから何を買ってくればいいか分からないかと」
「確かにそうだが何のために連絡先を交換したんだよ」
「......過ぎたことです、明日からは任せることにします」
「そうしてくれ」
そうこう話しているうちに島風が袋詰めが終わってカゴを片付けに行ったので鏡はそのうちに袋を持つと少し重めの感覚が伝わってくる。
戻ってきた島風は鏡を見て一度袋を見てからまた顔を見てきた。
「重そうだったから持っただけだぞ?」
「それくらい分かります」
「そうか、ならいい。一緒に歩くとバレるかもしれないからバレたくないなら少し遅れてついてきてくれ」
そう言い残し鏡は袋を持っていつもより少し遅めの速度で先に家の方向に歩き始める。
それを後ろで見ていた島風が少し遅れてついてきた。
「橘さんって気まぐれじゃなくて普通に優しいよね」と鏡の後ろから聞こえてきたような気がしたが聞いたことない口調だったのできっと気のせいだろう。
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