四十五話 霞んでいて、だけど目の前にあるもの ※澪視点
カラオケも終わり続いてはゲームセンターへと向かっていた。
「なぁ、澪って格ゲーはアーケードの方が上手いのか?」
「どうでしょうね、入ったのはアケからですけど家庭用も触ってますし同じくらいですかね」
そこまで言うとうわぁ、微妙そうだなぁ、みたいな顔をしながらこちらを見てきた。
くっ、馬鹿にして今日は絶対に消し炭にしてやる!
殺気を飛ばすと鏡くんは空を見上げた。
誤魔化そうとしても無駄だよ?
「目を逸らしてもごまかせてませんからね」
焦ったようにキョロキョロしていたが光明を見つけたかのようにテンションを上げ
「ほ、ほらゲームセンター見えて来たぞ」
「そうですね」
明らかに話を流そうとしてきてるよ......
ハァ、まぁ、いっか。
「仕方が無いので流されてあげます、ゲームセンターですよ?行きましょう」
ルンルン気分で歩いていくと慌てたように鏡くんは追いかけてきた。
中に入るとすぐに両替機で両替をし格ゲーの卓台へ。
今回は絶対に勝つぞー!
自信満々で100円を入れた。
......のだが
「ぐぬぬ、勝てない......」
結果はこの通り。
アーケードでも全然勝てないなんて!
「なんであそこで超必避けるのさ」
「え?掴みいれてきたあとにコンボ繋げようとするクセがある澪がコンボに繋げてこなかったからコマンド入力戸惑いながら超必入れてそうだなぁって思って」
「なんで分かるのさ、その通りだよ......」
掴みを入れてコンボに繋げられるだろうと対処のコマンドを撃つはずだと裏をかいて超必を撃ったのに当たり前に避けられたのはそういう事だったのか......
「まぁ、相手のことをよく見るのが大切ってことだ」
「そっか!分かった!」
そういえば紬ちゃんがいつも一緒にいたけどふとした時に好きだって思ったって言ってたよね?
あれって見てるんだけど近すぎて見えてなかったってことだよね?
つまりそういうことなのかな?と思ってしっかり鏡くんのことをよく見る。
まぁ、元々鏡くんがそういう意味で言ってきてないのは分かるが。
「現実の俺を見てても分からないぞ?」
じーっと見ていたらその様子が面白かったのか鏡くんは笑ってきた。
その笑顔は反則級にカッコよくて
「......うん、まだ分からないや」
思わず顔を逸らしてしまった。
こんなんじゃダメだよなぁ、って思いながらも恥ずかしかったので早足でUFOキャッチャーの方へと歩いていった。
え?カバン?
恥ずかしくて去ったのに更に恥ずかしいことなんてなかった。
ないったらないのだ。
............UFOキャッチャーって種類が多いんだよね!
別に誰に向けてとかではなく内心恥ずかしかったので勝手に一人で話をずらす。
かといってUFOキャッチャーは欲しいものをその場で探す、みたいな風潮があるのでその場でキョロキョロと探しながら歩いていると。
「あ、ウサギ」
そこにはクリクリとした瞳をしているもっふもふな感じの白いうさぎのぬいぐるみがあった。
「どうした?あれが欲しいのか?」
「うん、やってみるね!絶対に横から口を出さないでね!頑張ってやるから!」
よっしやるぞぉぉ!と気合を入れてまず100円
慎重に慎重にとうさぎの芯に合わせて取ろうとしてみたが......
ポテッ
む、
お次の100円を入れる
ポテッ
100円
ポテッ
100円
ポテッ
100円
ポテッ
ふぅ、
「んー、全く取れない、次のやつ行く?」
清々しいほどに持ち上がらなかったので諦めよう、ということで言ったのだが。
「澪、どいてみ」
「へ?うん」
鏡くんはニヤリと不敵に笑って100円を入れる。
慣れた手つきで滑らかにUFOキャッチャーを動かすが、うさぎよりもだいぶ右の位置で止める。
んー、どうやって動かすつもりなんだろう?
いつもの鏡くんを考えると失敗した、というよりは何か考えがあっての事と考える方が自然だ。
だいぶ右にあったUFOキャッチャーのアームが開き下に落ちる。
そして持ち上げると、うさぎのぬいぐるみのタグを引っ掛けて持ち上げたではないか。
え、え?そんなことが出来るの!?
その持ち上げられたうさぎは受け取り口へと落ちて鏡くんが取ると微笑みながら差し出してきた。
「はい、取れたよ」
「へ?うん、見てたけど凄いというかなんというか」
「ははは、褒めんなって」
「でもこれは鏡くんがとったんだから鏡くんのだよ?」
「いや、澪が欲しがってたから取ったんだぞ?これはプレゼントだ」
へ?
「プレゼント......そっか、ありがとう!」
すごーく嬉しい!と笑顔になって感謝したけど。
ボク、いつも貰ってばっかだなぁ。
いつかお返しができるようにしないとなぁ。
「ほら、この袋に入れな」
「うん!ありがとう!」
気づいたら鏡くんが袋を取ってきてくれていた。
ありがとうといつもの様にお礼を言うと鏡くんは手を伸ばしてきて。
「ふぁっ......」
ボクの頭を撫でてきた。
それも壊れないように、だけど大切なものを扱うように大事にしてくれていると分かる優しさで撫でてきた。
「えへへ」
嬉しくなって口から喜びが漏れ出てしまった。
けど、そんなことを気にせずなでなでを堪能する。
だが少しすると鏡くんの手はボクの頭の上でピタッと止まってしまう。
え、もうやめちゃうの?
そう思って鏡くんのことを見てみると周りをキョロキョロしているようだった。
なのでボクも見てみると。
......あ、すごく見られてる。
そう気がついた瞬間に顔に血が集まって来てしまっている錯覚を覚えた。
「ご、ごめん」
「ううん、大丈夫だよ、ただ恥ずかしかっただけだから......それに、嬉しかったし」
どちらかというと嬉しかった、が八割くらいだ。
だけどここでふと疑問に思った。
普通、友達であろうと頭を撫でられるのは嫌がるものなのではないだろうか?
人それぞれかもしれないが、それに同性ならまだしも異性なら大体の人は許さないだろう。
でもボクは撫でられて嫌じゃなかったし、むしろ嬉しかった、もっと撫でて欲しいと思った。
これは......なんでなんだろう......
もう少しで答えが見つかるような気がする。
見えるところまで来たけど、霞んでいて手の届かないところにあるような気がして歯がゆい。
ただ、これ以上間を空けると鏡くんに何か言われてしまうような気がして。
「んー、あ!あれやりに行こ!」
ふと目についたものに指を指す。
「プリクラ?」
「うん!高校生ってあれ撮るんでしょ?憧れだったんだ!」
これは、本当のこと。
焦って指を指したとはいえ本当に憧れではあった。
すると鏡くんは憧れだった、と言った瞬間にしょうがないなぁという顔になって歩き始める。
「はいよ、ほんじゃ行こうかお嬢様」
「おじょっ......」
ま、またそうやって揶揄う!
スタスタと歩いていってしまう鏡くんを追いかけてそう思うボクだった。