三十八話 これは事故だから
プリクラを撮ろうとプリクラが並んでいるコーナーに来たのだが。
「え、種類多くね?どれがいいとかあるの?」
「いや、ボクもやったことないから分からないけど」
なんかいっぱい種類あるし。
どうしたもんかなぁ。
「んー、これでいいんじゃない?」
適当に選んだ澪は撮影ブースに入っていったのだが
「ねー鏡くん、お金どこに入れればいいのー?」
プリクラをやった事がない澪はどうやら使い方を知らないようで。
俺もやったことは無いが外に金を入れるところがあるやつがあるってのは聞いたことあるんだよな。
外にあった金を入れるところに400円を入れて撮影ブースに入る。
「んー、あ、動いた、もしかして鏡くん払ってくれた?」
「おう、まぁこんくらいなら払うよ」
「そっか、ありがと!」
どうやら撮れる枚数は4枚のようだ。
6枚じゃないのか。
「ポーズはどうする?」
「とりあえずピース?」
1枚目は二人並んでピースをする
「次は肩組もうよ」
「おう」
2枚目は肩を組んで撮る
......他にポーズあるか?
3枚目にしてポーズが尽きる。
「あ!そーだ3枚目はボクが前に出て鏡くんが後ろからボクの頭の上に顔を乗せてさ、4枚目をその逆でやろうよ!」
え、何その若干恥ずかしい構図。
それ、カップルとか仲良い友達とかやってそ......
俺たち普通に仲良い友達じゃね?
じゃ、じゃあ問題ないのか。
ということで澪が俺の前に移動してきたので顔を頭に乗せたのだが。
ポーズはどうしようかな......
んーっと悩んでいるとふとイタズラを思いついたのでニヤッと笑ってギュッと澪を包み込むように抱きつく。
「ななな!!?」
ふふふ、顔を赤くして焦っている。
可愛いなぁ。
「ほら三枚目が撮れたぞ」
「う、うん......」
次は四枚目なので俺が前に出て澪が後ろで撮るのだが顔を真っ赤にしてて移動してくれない。
しゃーないなぁ。
立ち上がって前に移動すると......
「にゃにゃにゃ!ちょっ待っ!」
澪が慌てて動き出した。
ちょっと待てっこの狭い空間で暴れると危な、あっ......
この時予想していたが予想していないことが起きた。
俺が前側だからと少し腰を下ろしつつ移動していた。
だが焦っていた澪が慌てて動いていたのだが自分の足に足をもつれさせたようで転びそうになる。
その倒れていく先にいた俺へと澪は抱きついてきたのだが澪は倒れる力を抑えることはできずその勢いのまま澪の顔は俺の顔へと向かい......
カシャッ
『四枚目が撮れたよ☆落書きブースに移ってね!』
澪の唇は俺の頬を捉えていた。
「ごごご、ごめん!」
顔を真っ赤にした澪はパッと離れた。
頬には柔らかく湿った感触が残っている。
今澪は俺に......
って、反応しないと澪が落ち込みそう。
「い、いや!構わないって言うかむしろちょっと嬉しかったし気にするな!」
あ、ヤバいこと口走った。
「う、嬉しかった!?そ、そっか、いや、うんボクも嬉しかったけど......」
あ、ダメだ......ヤバイこの空気はヤバイ......
「と、とにかく!い、今、何も起きなかった!忘れることにしよう!な?」
恥ずかしすぎて自分の顔が赤くなっていることを自覚しつつ慌てて外に出た。
『ボクも嬉しかった』と言われた時のドキドキは体に悪い。
ただ、ただ一つ気になったことがある。
俺は先程『むしろちょっと嬉しかったし気にするな!』と言った。
そう、キスされて俺は嬉しかったと言った。
なぜ、なぜなんだ?
このモヤモヤは何なのだろうか、そーだ、あの時、あの時秋久と湊と喋っていた時に感じた気持ちに似てる。
でもあの時みたいなぐちゃぐちゃしたものではなく、ふわぁっとした感じ。
いや、自分でも通じないと分かってはいるけど言語化できないんだ。
しばらく、こういう感じで唸っていると。
気づいたら澪が隣に居た。
「鏡くん、現像終わったよ?」
「え、いつの間に?」
「だって声掛けてるのに反応無いし」
「ご、ごめん」
いつの間に声を掛けられていたのか。
全然気付かなかった。
「許しません!」
「えぇ!?」
「嘘だよ!」
「知ってた」
「だよね!」
なんだ?この流れ。
「んー、この写真いる?」
「なんでだ?」
「い、いや、決定的なところ撮ってあるし」
「お、思い出させんなよ」
「えぇ、今のボクのせいじゃないでしょ」
さっきの澪の唇の感触を思い出してしまい、顔が赤くなる。
「一応、一応貰っとく」
「分かった、はい」
受け取って写真を見ないようにバックにしまう。
「ん、もういい時間だね。明日も朝から遊ぶしもうそろそろ帰ろっか!」
ごはん〜♪ごはん〜♪と上機嫌に先程のことを忘れたように歩いている。
忘れられたなら忘れられたで嫌と思ってしまった。
何女々しいこと考えてんだ俺!
ただ仲がいいダチとの事故チューだろ。
頭を振って澪の後ろを追いかけた。
だから、澪の耳が真っ赤になっていたことにはずっと気づいていないのであった。