二話 仮面の姫のお裾分け
「もしかして鍵を失くしたか?」
「そんなことないです」
「本当にないと?ならなぜ入らないんだ」
「......確かに鍵を失くしました」
考えて思いついたのが逆転の発想、入らないのではなく入れない、そこに考えが行き着いたのだ、だが
「なぜ鍵屋を呼ばないんだ?」
そこなのだ、確かに鏡のマンションにはマスターキーが無い、なので大家に連絡を入れても仕方がないのだが、鍵屋を呼んで開けてもらうなり鍵を作ってもらうなりするしか入る方法はないはずなのだ。
「携帯を家に置きっぱなしなのです、誰かから携帯を借りるか他に方法が無いかを考えていたら時間が経ってしまっていたのです。それに鍵屋を呼ぶとお金がかかりますしスペアキーも家の中にあるので無理に呼ぶのもと思ったのです」
「ただそれだと入れないだろ?携帯を借りて鍵屋を呼ぶしかないだろ」
「私は一人暮らしなのですが今日は十九時頃に母が電話をかけてくるのです、そこで何回も私が出なければきっと様子を見に来るでしょうし、スペアキーも持ってるのでそこまで待つのも良いのではと」
(いや、それだと母親が来るのがどのくらいかかるのか分からないが早くても十九時超えるってことじゃないか)
今の時間は十六時半くらい、大体は二時間半、元々待っていたを考えると最低でも四時間近くは外にいるという事だ。
(この暑さで四時間以上も外にいると倒れちまうだろ)
「なので私は外で待っていようかなと考えていたのですよ」
「なら、俺の携帯を貸してやるから母親に電話をかけるんだな」
そう言って携帯を取り出そうとすると
「母の電話番号が分かりません、登録してあるのをいつも押すだけですので」
現代の行けない部分が出てしまったようだ、最近は基本的にワンタップでかけれてしまうので覚えていなかったようだ。
(ここまで話しかけといてこのまま放っておくのも罰が悪いしな、どーしたもんか、ん?そういえば)
「俺が島風の家に入っていいなら開けれないこともないぞ?」
ここまで言い切ったところで島風は一気に警戒した顔に戻る。
「一体どういうことかが全く分かりませんし、橘さんにそこまでして頂く義理がありません」
(俺のこと知ってるのか、まぁ家が隣なら苗字位ならわかるか)
「確かに助ける義理もいつもならやる気もないがここまで話を聞いたんだから少しぐらい手伝うかと思っただけだ」
「それでどのようにして入ろうと思っているのですか?鍵がないのですよ?あなたがピッキングができるとでも?」
警戒した顔をしつつ一気に捲し立ててくる。
「ん、まぁピッキングはできるけど鍵の形状が変わるかもしれないから今回は無しだな、俺の部屋のベランダから伝って島風の家のベランダに行ってその窓を開けて入って鍵を開ける感じだな、だから入ってもいいか?っていう質問」
「本当にピッキングが出来るのですか......」
そう驚いた後島風は俯く、少し考えているようだ、そして顔を上げ
「確かに母が気づいてくれなかった可能性を考えればいい考えだと思います。ただ私が部屋を見られるのを我慢すれば、という点を除けばですが」
「まぁ、島風が金に糸目をつけなければ俺が携帯を貸して鍵屋を呼んでそれで終わりなんだがな」
「それはその通りなのですが...ですがそうですねあなたの案に乗らせて貰います、よろしくお願いします、ただどうやって開けるつもりですか?」
「簡単に言えばここのマンションの窓は古いタイプだからな外から窓を揺すれば開けられるはずだ、ただ普段やると不法侵入で捕まるから辞めておけよ?」
「それくらいわかっています」
少し不機嫌そうにそう返されたので鏡は逃げるように一旦家に入りベランダへ行く。
(高いな、落ちれば大ケガだが、とりあえず行かないとだよな)
鏡はベランダの柵の上にある手すりに足をかけ一気に隣のベランダへと飛ぶ。
(少しヒヤッとした、それじゃ開けるとするか)
鏡は窓の端を持って上下に揺らすそうすると窓の鍵が少しずつ回り始め
(よし、開いた)
窓を開け中に入るとふわっと花のいい香りのような匂いが鼻腔をくすぐる。
(これが女子の部屋か、ってかめっちゃいい匂いするな、ってあんま匂い嗅いでると失礼だよな)
鏡はあまり部屋を見ないようにしながら玄関へと向かい鍵を開ける。
「ほい、これで家入れるだろ?」
「本当に開けたのですね、こんな簡単に入れると考えると家のセキュリティに問題があるような気がして仕方がないですね」
「それはまぁ、女子が一人暮らししている部屋の鍵あれだとな」
「鍵に関しては少し考えようと思います、何はともあれ助かりました、本当にありがとうございます、この借りは返します」
「気にするな、機嫌がよくてやっただけで恩とかはいらないし、もう関わることもないだろうしな」
そこまで言うと島風は少し驚きを含んだ顔でこちらを見てくる。
「だってそうだろ?そもそも周りを頼らない行動してたり関係ないとか言ってる時点で人と関わりたくないんだろ?」
「そうですけど、どうして」
「今言った理由もそうだし、なにか隠しながら生活してるように見えるからな、だから今回の件にかこつけて関わりを持とうとしたりしないから安心しろ」
そう、島風は普段からなにか仮面を、それも薄い膜のようなものではなく完全に他人を演じている、それほどの仮面をしているのだ。
それは鏡の観察力があるからこそ分かるようなものであり普通の人が見る分には分からない、それほど完成度の高い仮面に気づいていた。
「それに借りを作るとそこから無理やり好意を伝えてくる奴が居るんだろ?だから俺は借りとか何とか言わないから大丈夫だ」
「確かにそういう人も居ますので借りは作らないようにしてる所もあります、ですが今回助けていただいたのです、そのお礼をするのは当然のことかと」
(気にすんなって言ってるというのに話を聞かないやつだな)
そこでふと、後ろをチラッと見た島風が
「ところで、そのずっとそこに置いてある袋はなんなのですか?私にはパックのご飯がたくさん入ってるようにしか見えないのですが」
「ああ、その通りだ今日はセールだったからな大量に買ってきた」
「災害に備えるのはいいことですがあれほどの量はいらないのでは?」
「あれは普段の夜飯の時などに食べる物だ、俺は料理が出来ないから惣菜を買ってきてアレと合わせて飯を食ってるんだ」
「それだと栄養バランスが悪いではないですか、そうですね、少し待っていてください」
そう言って島風は一度家の中に入って行く。
そしてすぐ出てくるとその手には保存容器を持っていて
「では今回のお礼にこれを」
「なんだ?これは」
保存容器を開けると野菜炒めなどのおかずが詰まっていた。
「洗って容器を返していただければそれでいいです」
「洗って返すのはもちろんだが、本当にいいのか?」
「ですからお礼と言っているではないですか」
(受け取った方が早そうだな)
そう思った鏡は
「ありがたく貰う、洗って明日には容器を返す」
「ぜひそうしてください、今回は本当にありがとうございました」
「こっちこそ助かるありがとう」
受け取って感謝をするのであった。
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