十八話 フェアリーワルツ
少し走っていくと歩いている島風の姿が見えてきた。
「島風、すまんかった、だからこっちを向いて欲しい」
謝りながら歩いていると少し歩いた階段の踊り場の辺りで止まってこちらに振り向いてきた。
「......別に怒ってないですよ」
「それでもごめん」
「いえ、本当に怒っていないのです」
そう言っている顔に浮かんでいるのは困惑?
「何かこうモヤっとした何かを感じて気づいたらこうしてたのです、だからこちらこそごめんなさい」
「こちらこそすまなかった」
「いえいえ、こちらこそ」
「いやいやこちらこそ」
「ふふっ」
「ははっ」
こうして二人してペコペコしているとお互いに面白くなってしまい笑ってしまった。
「もうそろそろ文化祭も終わりますが後夜祭は残りますか?」
「ん?俺は別に残るつもりは無いが島風は残るのか?」
「私はキャンプファイヤーを見に行きたいって思ってます、私結構ゆらゆらとしている炎を見ているのが好きなんです」
それは分かるような気がする、キャンプとかをしている時に焚き火をすることがあるがその時のパチパチッとなる薪の音とゆらゆらと揺れる炎を見てボーッとするのが凄く良い。
「一緒に後夜祭に残って焚き火を見ませんか?」
「まぁ、焚き火を見るのは好きだが流石に人目が多くなりすぎる後夜祭は厳しくないか?」
「そこに関しては大丈夫です、絶対に人が来ないスポットを既に押さえてあります」
絶対に人が来ないスポット?うちの学校にそんな場所があるのか?
「そんなスポットがあるのか、どこなんだ?」
「屋上です、私が先生にお願いして鍵を借りました、本来は入らない場所なので恐らく人は来ないでしょう」
屋上かー、よく先生が鍵を貸してくれたな。
え?てか
「俺が残らなかったら島風は屋上で一人悲しくキャンプファイヤーを見てたのか?」
「そういうことですね」
島風は苦笑いを浮かべつつそう言ってきたので流石に可哀想すぎると感じてしまった。
「......まぁ屋上ならいいか、俺も残るよ」
「本当ですか?嬉しいです!」
「とりあえずHR受けた後屋上に行けばいいか?」
「はい、一応周りに見られないように来てくださいね?」
「分かった」
1度解散してその後に屋上でまた集合することとした。
そのため一度教室へと戻ることとなった。
てか、この髪どうしようかなぁ。直すのめんどいしパーカーのフード被っとけば大丈夫か。
フードを被ってから教室へと入った。
「あれ?鏡フード被ってるのか?」
入って席に座るとすぐに彰久が来た。
「まぁな、髪いじってるしあんま見られたくねぇし」
「かっけぇのに勿体ねぇな」
別にそこまでカッコイイとは思わないし、見せたら見せたで島風の隣を歩いてたのが俺だとバレるし。
「やりたくてやってる訳じゃないからな」
「まぁ、頑張ってくれや」
すごく他人事だなぁ、まぁ別に彰久が思ってることのためにしてる訳じゃないんだけどさ。
説明は出来ないんだ、すまんな彰久。
「そいえば髪を戻さずにフード被ってるってことはこのあとも今日会ってた人とまだ会うってことか」
「確かに会うな」
「後夜祭に残るのか?それともどこか食事に行こう的な?」
あー、確かに違う方向に理解しているからそうなるのか。
「一応は後夜祭に残るらしい、飯はどうかは分からんが」
まぁ、夕飯も一緒に食べるんだけどな。
作ってもらわないと俺飯無いし。
「そうかぁー、なんか頑張れよ」
「おう」
HRも何事もなく終わり、すぐに屋上へと向かった、ちなみにHRが終わった時間が5時半すぎもうすでに暗く足元が危ないくらいの暗さである。
普段は閉まっている屋上へと続く階段は埃がいっぱい積もっていたが一人分の足跡が残っていた。
もう島風は来てるのか、急いで来たのか?
階段を登りいつもはしまっている屋上の扉へと手をかける。
俺学校の屋上に入るの結構夢だったんだよな。
扉を開けると冷たい風が頬を撫でる、少し肌寒いと感じるその風には少し甘い匂いが混ざっていることに気づいた。
その匂いの先をたどって行くと髪をなびかせながらキャンプファイヤーを見ている少女がいた。
キレイだな、ただそう思った。
キャンプファイヤーの炎の光と月の光に照らされたその横顔はまるで一枚の絵画のように美しかった。
「ん?橘さん?来たんだね!」
島風の方へと歩いていっていると足音で気づいたのかこちらを振り向いてきた。
「もう普通の喋り方で問題ないのか?」
「大丈夫だと思うよ?さすがに人来ないだろうし」
まぁ、それもそうか。
屋上の柵へと近づき島風と共にキャンプファイヤーをボーッと見て、他愛のない話をする。
「そういえばHR終わってから急いで来たのか?」
「そうだよー、まぁボクの方が先に来てたからボクの勝ちだね!」
「なんの勝負だよそれ」
なにかと島風は勝負が好きなような気がすると、最近思い始めたんだよなー。
すると先程よりも強い風が吹き髪が乱れる。
その時島風の前髪が目にかかったようで、
「にゃー、前髪が邪魔ー!」
と言いながら頭をブンブンと振ってる。
前髪が邪魔なのかー、あっ、そういえば。
「島風一旦止まれ」
「え、何?」
そう言って鏡がバックから取り出したのは射的の時に手に入れたヘアピン、それで島風の前髪を止めてあげる。
「ほら、これで邪魔じゃないだろ?」
「うん、でもこれ」
「それやるよ、そもそも島風に渡そうと思って取ったし、欲しかったんだろ?」
「え?どうしてわかったの?」
「そりゃあまぁ、欲しそうだったからとしか」
あの時は普通に取れたらいいなーくらいの気持ちで狙っているような感じだったが、俺が取った時欲しそうな目をしてたしな。
「そんなだったかー、ごめんね?」
「そこは謝るんじゃなくてプレゼントなんだし感謝して欲しいかなー」
「うん分かった!ありがとう!」
喜んでもらえて何よりだ、それによく似合ってるしな。
「よく似合ってるじゃんか」
「え?うん、あ、ありがとう」
素直に感想を言ったら照れたのか顔を少し赤くして下を向いてしまった。
「「「ワァー」」」
と、そこで下の方が騒がしくなり始めた
「どうしたんだ?」
下を見てみると皆が踊り始めていた。
「あれは、フォークダンスだね」
「なるほどな」
「皆楽しそうだねー、でもなんか男女のペアが多くない?」
「そうなのか?」
よく見てみると確かに男女のペアが多い、そういえばジンクスがどうのこうのって彰久が言ってたな。
「確かに多いな」
「でも楽しそうだしいいね!」
まぁ、島風も楽しそうだけどな。
「ねー橘さん、私達も踊ろうか」
「え?ここで?」
「そうだよ?逆にどこで?」
「いや、ここか」
でもジンクスとかあるよ?そういうの気にしないのか?それとも知らないのか
「なんか、後夜祭で異性と踊るとっていうジンクスがあるって聞いたことあるけど知ってる?」
「うん、知ってるよ?ただまぁキャンプファイヤーの周りじゃないから問題ないよ!」
え、そういうものなの?
まぁ、構わないなら俺も気にしないし別にいいけどよ。
「じゃあ、踊ろうか!お手を拝借、ボーイ?」
「それは普通俺がやるやつじゃね?」
「まぁまぁ、気にしない気にしない」
そう言って島風は鏡の手を取って踊り始めた。
鏡はしばらく呆れた感じだったが、楽しそうに踊る島風を見て鏡も楽しそうにするのであった。
後にとある生徒は言う、あの日屋上に美男美女が月明かりをバックに笑いながら踊っていたと。
それはまるで妖精が舞っているかのような眩しい世界であったと。
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