十二話 撫で心地
ピンポーン
「ん......」
サッカー部の練習試合が終わって帰ってきた鏡は昼食を取ったあと昼寝をしていた。
チャイムの音で目覚め時計を見てみると短い針は3の数字を指していた。
もう十五時か、宅急便でも来たか?
そう思い玄関へと向かう。
「はーい」
「ボクだよ!開けて!」
そこには島風が居た。
ガチャリ
「今日は早いんだな、どうかしたか?」
「んー、どうもしてないよ?遊びたいなーって思ったから来たんだけどもしかして寝てた?」
「まぁ、ちょっとな」
本当はガッツリ寝てたのだが
「そっかー、ごめんね?起こしちゃって」
「別に全然大丈夫だぞ?そんで遊ぶってどっか行くのか?」
「んー、橘さんの家で遊ぼうかなーって思ったんだけど」
「いいけど家でできるのはせいぜいゲームだぞ?」
家には家庭用ゲーム機や本くらいしか置いてないのでそれくらいしかやることは無いのだ。
「じゃあゲームしよ!」
「オッケー、とりあえず格ゲーでいいか?」
「いいよ!ボクの腕が炸裂しちゃうからね!!」
そうして格ゲーを始めたのだが。
「ここをこうしてこう!」
「そんじゃ、ほいっと」
「なぁ!!それを返せるの!!?」
島風が下弱からの空前へのコンボへと繋げようとしてきたので空前を切るためにバックステップからの上弱を入れて横強を叩き込む。
『KO』
「ニャァァ!負けたぁ!橘さん強すぎ!」
「どちらかというと島風があまり上手くないと思うのだが」
正直橘は家庭用で格ゲーをやっているのはゲーセンだと勝てても4戦に1回程度しか勝てないから。
つまりそんなに上手くないのだが、それに島風は勝てていないので、さらに上手くはないということなのだろう。
島風は恐らくやったことがあるのだろうが初心者に毛が生えた程度。
むしろレバガチャする初心者よりも動きがわかってる分余計な動きをしないので攻撃を入れやすいのだ。
「くっ、これが才能の差というやつか!だがボクは負けん!」
「いや、もう負けてるし、もうそろそろ違うゲームしようぜ」
「えぇー!負けっぱなしは性にあわないだよー、もうちょっとやろーよー」
「いいけど勝てるまでやるってどんくらい続くんだよ.....接待プレイは嫌だろ?」
「当たり前だよ!でもそうだなぁ次は勝てるような気がするんだよね!」
「それ負けフラグじゃねぇか、じゃあこれがラストな?」
「どうして勝てないんだァァァァァ」
「まずは敵がいない方に超必打つのやめような?」
結果からいうと今日やってる中で1番の惨敗、まさかの完封。
流石に入力ミスで反対方向を向きながら超必を打った時には攻撃するのを忘れるくらいには唖然としたが。
「まぁ、これで満足したろ?次のゲームを」
「いや、もうそろそろご飯を作るよー、いい時間だからね」
そう言われて時計を見てみると気づいたら十七時半になっていた。
まだそんなに時間が経っていないつもりでいたのだが、思っていた以上に自分は楽しんでいたらしい。
「了解、なにか手伝うことはあるか?」
「んーん、今日は橘さんが試合頑張ったから待っててくれたらいいよ!ボクの特製オムレツを待っててね!」
それから待つこと数十分皿の擦れる音がカチャカチャと聞こえてき始めた。
その音を聞いた鏡は台所の方へと向かい。
「持ってく」
「タイミングよく来たね、ありがとう!」
夕飯の準備も終わり席に着く。
「それじゃあ食べようか!」
「「いただきます」」
鏡は最初にオムレツに箸を入れる。
箸が何かに当たった感触がして開いてみると
そこには肉が入っていた。
一口目を食べて見たあとは箸が止まらなかった。
一口食べては米をかきこみ、一口食べては米をかきこみと。
「うめぇ」
全てを食べ終え出てきた言葉はそれだけだった。
いや、それしか言えなかったと言うべきか。
それは全てを語らずともいいほどの美味さであったということだ。
「喜んでもらえてボクも嬉しいよ!」
「本当に美味かった、ありがとう」
そこで島風の顔を見ていて、ふと思い出した。
「あと、このピンを返すよ助かった」
そう言ってサッカーの試合の時に借りたピンを取り出す。
「いえいえ、ボクは橘さんに頑張ってもらいたかったからだからね!気にしないでいいよ!」
そう言ってこっちを見てきた島風の前髪が目にかかる。
それを見た鏡はその前髪をピンで止めることにした。
「ん?ありがとう!」
この前撫でた時もサラサラだったな、たぶん手入れとかも頑張っているんだろうな。
そう考えていた鏡は気づけば島風の頭に手を伸ばしていて。
「ファッ......」
やっぱサラサラだな、こういう髪はやっぱ手間隙かけてるんだろうな。
そう思ってしばらく撫でていると。
「ね、ねぇ橘さん?ボクはいつまで撫でられてる感じなの?」
「え?」
そう言われたところでやっと鏡は島風の頭を撫でていることに気がついた。
「す、すまん」
「ううん、べ、別に問題ないよ」
知らぬ間に頭を撫でてしまっていた鏡と、いきなり撫でられた島風は顔を真っ赤に染めて二人して俯いてしまった。
「お、俺皿洗ってくる」
「う、うん分かった」
逃げるように鏡は台所へと向かう。
そして台所からチラッとリビングを覗いてみると。
島風は最近定位置となりはじめているソファーへと駆け込み。
「あうぅぅぅ」
とソファーへと顔を埋めて唸っていた。
すまないことをしてしまった、なんで俺はあんなことを......
先程のことを思い出してしまい、顔をまた赤くしてしまった鏡は、誤魔化すように冷たい水で洗い物を始めたのであった。
レバガチャって普通に強いですよね。怖いです。うん
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