表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のパスタ屋さん  作者: おあしす
9/10

ちょっと小話

「なぁなぁ、海、行こうぜ。」

暑い夏の夜、ふいに小次郎が提案する。

「海ぃ?なんでまた、突然?」

夕食の片付けをしていた涼介が聞き返す。

「ホラ、これ、見ろよ。」

と持ってきたのは新聞の折り込みチラシと月刊『釣りに来やがれ!』。

「ん~っと…『第28回 サーフィンコンテスト』?」

「違う、違う。その下だ。」

「その下?…『第1回 輝け!浜辺の水着コンテスト』?」

「そう、それそれ。」

概要はこう。飛び入り参加OKの水着コンテスト。男性部門、女性部門に別れており

優勝者には商品として大型テレビと冷蔵庫が進呈される。

「へぇ~。優勝商品はテレビと冷蔵庫かぁ~。」

涼介が思わず商品を口にする。するとリビングでテレビを見ていたはるかが食い付いてきた。

「えっ?テレビ、もらえるの?」

「優勝するともらえるらしいな。随分と太っ腹だ。」

「で、だ、涼介。テレビはさておき、冷蔵庫、最近ヤバくねぇか?」

大下家の冷蔵庫。4人と1匹の食品を収納するには少し小さい。かといって、大型のものは

さくらが使いにくいだろう、という理由で導入をためらっていた。

さらに10年近く使っているせいか、ここ数日冷えが悪くなってきていた。

「そうなんだよなぁ。明日から二日連休だから電器屋に見に行こうかな、って。」

「な。そこでだ。どうせ買うんならその前にこのコンテストに出てみねぇか?参加費はタダなんだし。」

「でも、優勝できるとは限らねぇぞ?」

チッチッチッ-指を横に動かし、小次郎は続ける。

「商店街のアイドル。一番人気は誰だと思ってる?」

「…?誰だ?そう呼ばれてるのはこの商店街に結構いるぞ?」

「に、…にいさん。たまには掲示板、見た方がいいよ?」

はるかもさすがに呆れる。商店街の掲示板には毎月投票される『貴方が選ぶ商店街のアイドル』という

人気投票の結果がはり出されている。特にこれといった商品はないが、長年続けられているこの街の特色である。

「そ、そうか。…で、誰なんだ?星野さんか?それとも薬局のお姉さん?」

「ん~。なかなか惜しい所を突くな。星野さんは2位、お姉さんは5位だ。」

「ん~。お。じゃあ、はるか?」

振り向いてはるかの方を向く。

「私はここ最近ずぅ~っと3位だよ。」

後頭部をポリポリと掻きながら答える。

「う~~~~む…じゃあ、誰だ?」

真剣に悩みはじめる涼介。

「おいおい、あと1人忘れてるだろ、大事な妹を。」

呆れ返る小次郎とはるか。

「えっ?さくら?」

「うん。さくらがダントツで一番。紗希さんの2倍の得票。」

「に、にばい…」

涼介もさすがにうろたえる。そこに小次郎が更に追い討ちをかける。

「さらに言うと、ここ2年は不動のトップだ。来月には殿堂入りも検討されてるらしいぜ。」

「で、でんどう…いり…」

涼介はもはや開いた口が塞がらない。自分の妹がこの商店街で一番人気、しかも2位の

紗希とは2倍も開きがある、という事に驚きを隠せない。

「お兄ちゃん、明日なんだけど…って、どうしたの?」

3階から降りてきたさくらは、口をあんぐりと開けた兄を見て驚く。

「お…おぉ、さくら。お、お前…人気あるんだな…」

「ふぇっ?」

「人気投票だよ。俺、全然見てなかったから知らなかった。」

「あ、あはは…アレね。」

照れて髪のリボンを指でいじる。

「そういや、何か用事があったんじゃないのか?」

「あっ。うん。あのねお兄ちゃん。明日から連休でしょ?」

「あぁ。それで?」

「実は、紗希さんに遊ぼう、って誘われたから出かけるね。」

「ん、わかった。」

「な、なぬぅ!?」

大きな声を上げてイスからガタタッと立ち上がる小次郎。

この発言にいち早く反応したのは他でもない。

「ど、どうしたんですか小次郎さん?」

「あー。いや、何でもない…よ。しかし…マズいなぁ。」

腕を組み、う~むと唸り出す。

「…どうせ私じゃ優勝できないんでしょ。」

はるかがいじけて部屋の隅でぶぅぶぅと文句を言う。

「バカ。そうじゃねぇよ。見ろよ。」

拗ねるはるかに、もう一冊手にしてきた『釣りに来やがれ!』を見せる。

「ん~?『第一回 輝け!浜辺の水着コンテスト』…って同じじゃない。」

そこには、新聞のチラシと同じコンテストの記事が。

「よく見てみろよ。ホラ、商品の所。」

「ん~?優勝者には大型テレビと冷蔵庫。2位には…お、温泉宿ペア宿泊券!?」

驚いて目をカッ、と見開いて記事を読む。

「さらに3位には…ロードバイク!な、何なの、このコンテスト!!」

「どうだ?このありえない商品の数々!」

そう、このコンテスト。やたら景品が豪華なのだ。

自分の自転車が欲しいはるか。運動が大好きな彼女にとって、ロードバイクはかなり魅力的だ。

確実にゲットするには上位を独占する必要があるが、自分1人では無理な話である。

プルプルと肩を震わせ、雑誌を握りしめると-

「さ、さくらっ!」

「うひゃぁっ!な、なに?」

突然大きな声で呼ばれたので、手に持っていたお煎餅を落としそうになるさくら。

「あ、明日。私も行っていい?」

「え?うん、いいと思うよ。」

「それで、ど、どこ行くの?」

「あ~、え~と…その…」

「決まってないの?」

「そうじゃないけど…」

顔を赤くしてもじもじするさくらと、対照的に目を見開いて興奮するはるか。

「じゃあ、どこ?」

「し…下着屋さん。」

「そのあとは?」

「さ、さぁ…決まってるのはそこまでだから…たぶん、タコヤキ屋さん、かな。」

「海。行かない?」

さくらの肩をガシッと掴み、危機迫る顔でお願いするはるか。

「海?泳ぐの?」

「およが…いや、泳ぐ!うん、泳ぐから水着も買いに行かない?」

「う、うん…いいよ・・?」

「いよっしゃぁ!いくぞー!!」

屈み込んでから全身でガッツポーズをするはるか。

「よしよし・・・あとは3人ぶんのエントリーを済ませれば…勝ったも同然よ・・・フッフッフ…」

その様子を見た小次郎は不敵な笑みを浮かべながらエントリー用紙をコピーしていく。

「危なくないようにな・・・」

三者三様な状態を見ながら深いため息が出る涼介。ソファに座り、スケジュール帳をチェックすると

コンテストの日はビーチライブの日と重なっていた。

「俺はライブがあるから付いて行けないから気を付けてな。」

「えぇ~~・・・兄さん一緒じゃないのかぁ・・・でも仕方ないね。それよりもこっち!」

「頼んだぞ、はるか!お前の誘導に全てがかかっている!」

「任せて!自転車と!」

「冷蔵庫のために!」

ガシッと熱い握手を交わす小次郎とはるか。

こうしたやりとりがあり、いよいよコンテスト当日を迎える---

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ