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森のパスタ屋さん  作者: おあしす
7/10

7話

朝6時。夏の日ざしがアスファルトを加熱していく。

森のパスタ屋さんの前に、配達用のトラックが止まっている。

「はい、じゃあ今日の肉だよ。」

「どうもです。」

伝票に小次郎がサインをしていく。入り口に持ってきたカートに仕入れた肉を乗せる。

そのまま涼介が仕込みをしている厨房へと運んでいく。

「おーい、肉が来たぞぉ。」

「わかった。箱から出して捌いてくれ。」

「あいよ。」

涼介は野菜をひたすら切っていた。その後ろではさくらがサラダのドレッシングを作っていた。

小次郎は指示された通りに箱から肉を取り出していく。牛ロース、豚ロース、パンチェッタ…と。

ブロックの肉はそのままミンチにするので別、と手際良く3人で仕込みをこなしていく。一方、はるかは…

「zzz…うふっ。もうたべれないよぉさくらぁ。。。」

まだ夢の中であった。

「よっし、とりあえずこんなもんか。次は肉だ。」

野菜を切り終えた涼介は次に肉にとりかかる。ミンチを作り、ミートソース用のボウルに分けていく。

小次郎はその間に店の備品をチェック、切れている物がないか確認しながら掃除。

「お~い涼介。60ワットの電球があと一個だぞ。」

「わかった。今日の夕方に買いに行くよ。他はないのか?」

「あ~。敢えて言うなら蛍光灯とレジのロールペーパーもついでに。」

店内の簡易倉庫を眺めながら備品ノートに書き込む。と、その時入り口のドアが開き、カランカランと音が。

「あ、あのっ。おはようございますっ!」

少し緊張しながらそこに立っていたのは、花を抱えた紗希だった。

先日、約束した花の配達にやってきたのだ。

「あっ。おはようございます。お~い涼介ぇ~。星野さんだぞ~。」

「ほっ、ほしのさん?な、なんで?…あっ、花の配達かぁ。でも、花の種類は伝えてないような…」

疑問を抱えながらも、フロアに出てくる。

「おはようございます大下さん。はい、お花です。」

「あ、ありがとうございます。でも、花の種類を伝えてなかったような気がするのですが…」

差し出された花を受け取りながら質問をぶつける。

「あっ、それは、ですね。今日入荷した花から綺麗なのを選んで持ってきたんです。いつも大下さんの注文聞いてたから

何となく好みとかが分かってたし、お店の雰囲気も知ってたからこんな感じかなぁ、って持ってきました。ダメですか?」

「い、いえいえ!それどころか大助かりですよ。これからもそれでお願いします。特に欲しい花の時は電話しますから。」

「はい。じゃあ、これ、伝票です。サイン頂けますか?」

と、涼介に伝票を差し出す紗希。

「あ、サインですか。」

と、花を小次郎に渡し、ペンを持ってサインをしようと伝票を机の上に持っていき、サインをした。が-

「はいっと。…あっ、しまった。」

「間違えたんですか?いいですよ、どんなのでも。ニコちゃんマークを書く人もいますから。-あら?」

伝票には確かにサインがしてあった。が、そこにはHIGHWINDのリョウのサインが。

そう、涼介はサインと聞くとコレ、というパブロフの犬状態になっていた。

ローマ字で書かれた『RYO』というサインを見た紗希は

「へぇ~。しゃれたサインですね。そういや大下さんの名前って涼介でしたね。なるほどぉ~。」

と、特に気付かなかった。そのリアクションを見た涼介もほっ、と一安心。

「じゃあ、明日からもお願いします。」

伝票をバインダーに挟み、紗希は帰っていった。

「ふぅ~。危なかった。今度からは気を付けよう。」

腰を椅子に降ろし、届けられた花を取り出して一輪挿しに挿していく。

ちょうどその頃-

「うわぁぁぁぁぁっ!!!また寝坊したぁぁぁぁぁっっ!!!!」

と、いつものはるかの絶叫が家中に響いた。



そんなある日。

「おっそいなぁ星野さん。何かあったのかなぁ?」

「確かに遅いな。でも、配達が押してるんじゃないのか?」

仕込みを全て終えた涼介と小次郎は紗希が届けてくれる花の到着を待っていたのだが、一向に来なかった。

「う~ん。とりあえず小次郎、花を店で買ってきてくれないか?」

「わかった。もし星野さんが持ってきたら電話してくれ。」

と、携帯とサイフを持って小次郎はベスパにまたがりフラワーショップ ホシノに向かう。

数分もしないうちに店に到着。

「こんにちわ。あの、パスタ屋ですけど~。」

入り口で声を上げると中からは紗希の母親が出てきた。

「はいはい。あっ、ごめんなさいね。もしかして取りに来てくれたの?」

「え、えぇ。」

「はい、これ。あの子、今日熱だして寝込んじゃってねぇ。」

花を小次郎に手渡す。

「えっ?だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫よぉ。ただのカゼ。昨日遅くまでテレビ見てたからじゃない?」

「そうですか。じゃあ、お大事に、と伝えてください。」

そう伝えると、帰路についた。

「そうかぁ。カゼかぁ。…ん?コレは使えるな。」

何かよからぬ企みを思い付いたようだった。含み笑いを浮かべ、店に向かう。


「た、大変だ涼介!ほ、星野さんが倒れたんだって!」

「な、なんだってぇ?」

帰ってくるなり顔に汗をうかべた小次郎が涼介に伝える。

「どうも、昨日遅くまで何かやってたみたいだけど、それで体調をくずしてバッタリと…」

「そ、それで、大丈夫なのか?」

みるみる顔が青ざめていく涼介。小次郎はそんな涼介を見て

『はっはっは。バカめ。まんまとひっかかりやがって。』

と心の中で思っていた。ちなみに顔の汗は店の入り口でヒンズースクワットを20回ほどこなすという

小細工のたまものである。

「お、俺、お見舞いに行ってくるっ!」

エプロンを外そうとしている涼介。

「ま、待て待て!せめて週末の休みにしよう!な!今行ったって何もできないぜ?」

ここで涼介を行かせては後の楽しみがなくなってしまう。小次郎は何とか涼介を食い止める。

「し、しかし…」

「大丈夫だって。死にはしないよ。まぁ、数週間はかかるかもしれないが…」

「…じゃあ、この休みにみんなで行こう。」

「そうしようぜ。さぁ、花も買ってきたし。店、開けようぜ。」

「あ、あぁ。」

不安いっぱいの中、涼介は看板を店先に並べていった。


パリーン!

「あぁ、またやっちまった…」

今日、何枚目かわからないほど食器を割る涼介。

「おい涼介。オーダーだ。ナポリタン。」

「あいよ。…できたぜ。」

厨房でフライパンを振り、調理する。完成したものをお皿に盛り付け、小次郎に渡す。

しかし出てきたのはナポリタンではなくミートソースだった。

「おいおい涼介。しっかりしてくれよぉ~。」

「お兄ちゃん、どこか調子悪いの?まさか、喘息じゃあ…」

さすがにさくらも心配になってずっと涼介につきっきりである。

「いや、大丈夫だ。」

体はとても健康だが、いかんせん心が重い。

『あぁ、星野さん大丈夫なのかなぁ。』

朝からずっと心配していた。今日はらしくないミスを連発、従業員はおろかお客さんまで心配になっていた。

「ねぇ、こじこじ。兄さん、どうしちゃったの?」

フロアにいたはるかが小次郎に尋ねる。小次郎は

「あぁ、星野さんがカゼひいて寝込んでるのを心配してるんだろ。」

「へっ?紗希さんカゼひいちゃったの?どうりで…」

パリーン。

「あぁ、お皿が…」

ボコボコに打ちのめされたボクサーのようにがっくりと膝と落とす涼介。

「お、おにいちゃぁん…ホントにどうしたのぉ?」

さくらもただオロオロするしかなかった。


翌日の早朝-

結局一睡もできなかった涼介は早くから仕込みを終えていた。

「おはよう、お兄ちゃん…って。もしかして寝てないの?」

仕込みをしようと早起きしてきたさくらが驚いて声をかける。

「あぁ、さくら。おはよう。今日は仕込みは終わったからいつもの掃除、やっといてくれないか?」

テーブルにひれ伏した涼介は生気のない声でさくらに話し掛ける。

「う、うん。それはいいけど。お兄ちゃん、ホントに大丈夫なの?顔色悪いよ?」

「う~ん。だいじょーぶー。」

手だけを上に伸ばし、ヒラヒラと振る。そのままパタリ、とテーブルに戻す。

明らかにいつもの凛々しく羨望の的となっている涼介ではなく、もはや抜け殻のような状態だ。

「おっす。…お?まだ凹んでるのか?大丈夫だって。」

事の発端人である小次郎も起きてきた。やけに明るく、何かが起こるのを待っているようだ。

外の掃除を終えたさくらが店内に戻ってくる。手にはジュースを4本。貢がれた物である。

「お兄ちゃん、飲む?」

「いや、いい。小次郎は?」

「んじゃ、もらおうかな。」

さくらから一本受け取り、カシュッ、とプルトップを引く。さくらは残りを冷蔵庫にしまいに厨房へ。

と、そこへ-

「おはようございま~す!お花です!」

と元気な声とともにドアが開いた。

「うえっ!?ほ、星野さん?確か、倒れて寝込んでるんじゃあ…」

「へっ!?た、ただのカゼですよぉ!熱が出たから昨日はちょっと寝てましたけど、もう元気ですよ!」

花を持って現れた紗希を見た涼介は思わず飛び上がった。寝込んで苦しんでいるのを想像していただけに

目の前にいる紗希を見たら驚きの余り腰が抜けそうになっていた。

「か、カゼだったんですか。よ、よかった。…うん?でも、なんで小次郎は…」

「あっ、おかあさんが伝えたみたいです。でも、明日には復帰しますよ、って言ったはずなんですけど…」

それを聞いた涼介は全てを悟った。自分は小次郎にまんまとはめられた、ということに。

「そうですか。そうだったんですか。…ほぅ。」

ゆらり、と小次郎の方へ向く。

「あはっ。な、何か、刺激的な出来事だった、とかって思わない?あは、あははは…」

さすがにやりすぎた、とも思ったがすでに後の祭りである。

「刺激的、ねぇ。お前には刺激的な出来事が起こって欲しそうだなぁ。」

そう言った後、右手が懐に潜り込む。そのまま引き抜くとそこには漆黒のフライパンが。

涼介の懐からは何故かフライパンが出る。能力ではないのでうまく説明はつかないのだが、とにかくフライパンが出てくる。

そのフライパンを肩に担ぎ、トントン、と軽く叩く。

「いや、あのね、その、だから…」

小次郎は腰砕けになり、何とか言い訳をしようと試みる。が、何も思い浮かばなかった。

「さぁ、覚悟はできたな子猫ちゃん。」

体からレインボーカラーのオーラを纏い、フライパンを持った腕を横へ伸ばす。

「こんの、ド阿呆がぁぁぁっっ!!!!」

魂の叫びと同時に黒い稲妻が横に広がり、小次郎を捕らえる。

ごいぃぃぃぃん!!!

「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃ…」

鈍い音の後には、頭の上に星が舞う小次郎が気絶してテーブルに乗っていた。


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