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森のパスタ屋さん  作者: おあしす
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1話

「またせたなぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」


6月の雨の中、ライブハウス「ブラックコーヒー」は超満員。ステージには金髪と銀髪の青年が立っている。

銀髪の青年がマイクなしでステージの上からいつものお決まりである「前口上」を叫ぶ。

その隣では、金髪の青年が前口上の演出としてアコースティックギターをかき鳴らす。

マカロニウエスタンなストロークとコード進行、諭すかのような口調。自然とテンションが高まっていく。

彼らの名前はジョンとジョージ。金髪がジョンで銀髪がジョージである。


「人、それをっ!…『舞台』という!」


そうジョージが叫ぶと、奥から全身を黒い服で固めた男が姿を見せた。金髪の髪を逆立て、バイザーのようなサングラスを

まるで素顔を隠すようにかけている。観客から一斉に「リョーーーウ!!」と叫び声が上がる。

ジョンがベースを、ジョージがドラムに。そして「リョウ」と呼ばれた彼はBー3オルガンに向かい合う。

「さあ、舞台の幕開けだぁっ!」

そうジョージが叫ぶと、彼らの演奏が開始された。



ここはとある商店街。森が目の前に切り立っている。そこの一角にあるライブハウス「ブラックコーヒー」

この地域で活動するバンドマンたちにとって、いわゆる「登竜門」となっている場所でもある。

そこで今ライブを行っている3人組。彼らのバンド名は「HIGH-WIND」ブラックコーヒーに通う客で知らない者は

いないほどの超人気バンドである。メジャーからも声がかかっているが、「地元を離れたく無い」という理由で

ずっとこの「ブラックコーヒー」で演奏を続けている。

オーナーである黒田一輝も「私もファンの1人ですから。離れて欲しく無いですね。」と。

本当は満員になって儲かるから、とは口には出さない。



「みんな、ありがとうよっっっ!!!」

ジョンが観客にお礼を言い、この日のライブは無事大成功に終わった。

3人がステージから楽屋に戻る。観客も外に流れるように出る。

「今日も無事大成功だったなぁ」

「ああ。次から新曲でもやってみるか?」

ジョンとジョージが満足そうに話をしている。

「…」ただ、リョウだけが口を閉ざしている。

「おい、リョウ?どうした?」

「リョウ?せっかく大成功したってのにもっと喜ぼうぜ?」

リョウは顔を上げ、開口一番にこう叫んだ

「何でお前らは半袖で俺だけ長袖のコートなんだぁっっ!!!暑いわ!もとい、熱いわ!!」

その次には右手にフライパンが握られてた。

「ちょ、ま、待て!なんでフライパンなんだ?」

「そ、そうだよ!せめてバットじゃないの?」

「バカ!ジョージ!んなモンどっちも変わらん!な、涼介、落ち着けッて!」

「そ、そそ、そうだよ。涼介くん。ぼ、暴力はダメだよ」

ジョンとジョージはうろたえながらリョウをなだめる。彼の本名は大下 涼介。本名を隠した謎の男として

ライブを行っている。ただ、衣装が年中長袖なので夏のライブ後はいつも元気がなく「ぐで」っとバテ気味。

でも、今日は限界だったらしい。目を真っ赤にして怒り狂う。

「お、お、お前らにこのクソ暑い気持ちがわかるまい!」

涙目になってフライパンを振りかぶる。黒い淵がキラリと光る。

「じゃ、じゃあ今度から半袖にしよ!な!!」

ジョンが両手で押さえるように涼介をなだめる。

「そ、そうだよ!ミキに言っておくからさ!今度までに半袖の衣装作るように!な、こ、これでカンベンしてよ!」

ジョージも両手を合わせ、神様を拝むようにお願いする。しかし…

「去年も同じ事言って結局そのままだったじゃないかぁぁぁっっっ!」

フライパンを勢いよく二人に振り降ろす。二人は「ぎゃぁぁぁぁ!!」と悲鳴をあげる。

その時、何者かが涼介にバケツで水をかけた。頭から勢いよくかぶったので、前につんのめる。

金髪だった髪は色が落ちて黒くなり、逆立ってたのも元に戻った。

「あ~。また長袖で揉めたな?涼介?」

「誰だ!…って小次郎かぁ」

バケツを持った長身の男がそう話す。彼は「高山 小次郎」髪が長く、後ろで束ねてる。涼介の親友である。

「まぁまぁ、みきちゃんが作ってくれるって。…たぶん」

みきはジョージの彼女で、バンドの衣装を制作してくれている。

「次また長袖だった時は本気で怒るぞ!」そう言ってフライパンを懐にしまう。

ジョン、ジョージはほっとしてその場にへたり込む。小次郎も空のバケツを床に置く。

「さあさあ、とっとと着替えて帰ろうぜ。出待ちも振りきらにゃあならないし。」

小次郎がドアを叩きながら3人をせかす。出口には30人前後の人が待っていた。

「きょ、今日はまた一段と増えてる。ど、どうやって帰ろう…」

涼介が着替えながら不安げな声をあげる。今まですっと秘密で通してきたからずっと隠さねばならないという

変な使命感にかられてる為、バレやしないか不安でいっぱいになる。

「まぁ、別にバレてもいいんだけど、そうなるとお前のパスタ屋、どえらい事になるぞ?」

ジョンがドラムセットの入った箱を右手で持ち上げ、左手に機材の箱を持って帰る支度をする。

ちなみに両手に持つ荷物の総重量は軽く100kgを超えるが、彼には「100kgまでなら片手で持てる」

能力があるので、汗ひとつかかずに軽々と持ち上げる。

「そ、それは困るな。捌ききれなくなったら大変だし、何よりあの二人の負担はふやしたくないし…」

二人というのは涼介の妹たちである。涼介の店の看板娘たち。

「そうならないようにするためにも、がんばってバレないようにしろよ?」

「うーん、でも本職はあっちなんだし。忙しくなっても問題ないかなぁ…」

という会話をしながら、出待ちの人がたくさんいる正面ではなく、裏口から帰っていく4人。

こうして毎回正体を隠しながらライブをこなしていく。

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