チリソース味のケバブ
深夜、郊外の道。
舗装の剥げかけた道に、スーツケースを転がす音が響く。
「ねえブリッジ、なんでそんな大荷物なのさ?」
「占いでやってたの。
『今日の乙女座は運勢ヤバ悪! でも、買ったばかりのものをたくさん持ち歩くとピンチを切り抜けられるかも♡』って」
「それ朝のだろ、まだ有効期間内なのかな……?」
公園を挟んで、奥の道路にケバブのキッチンカーが停められている。
「チリソースとヨーグルトソース、一つずつくださ~い♡」
「アイヨ! ……ふわ……」
眠そうな店員に作ってもらったケバブを手に、二人は公園の中へ。
注射器を握りしめて微動だにしないヤク中。
彼のいるベンチを遠回りして避け、
二人はブランコに並んで座る。
漕ぐでもなしに揺れながら、ケバブにかじりつく。
「……まだいくらか残ってるな、あぶく銭……」
「別に無理に使い切らなくてもいいんじゃない?」
「ブリッジの言うとおりだね……あぐ…………そろそろ髪切らないとな……」
落ちかかってきた前髪を首を振って払い、ダナが言った。
「伸ばさない? ダナと私で、おそろいにするの」
「似合わねえよ」
「じゃあ私も黒染めベリショにしようかな」
「ブリッジの金髪を梳く時間を、私の人生の豊かさを奪わないで」
「あっ♡ ダナ好き♡ おっぱい揉んでいいよ♡」
「HAHAHA、深夜とはいえパブリックスペースではホットすぎ――」
BANG! BANG!
夜の静けさには不釣り合いな破裂音が、ダナの言葉をかき消す。
注文を受けてケバブを作り始めた店員の背に、複数の銃弾が撃ち込まれていた!
強盗の一人がキッチンカーから現金をかき集める傍ら、
もう一人の仲間は周囲に目を向ける。
「何!? あ……!」
声を挙げた黒髪の女に、強盗は気づく。
目を合わせたダナも気づかれたことに気づく。
「ヤベぇぞ相棒! 目撃者だ!」
「ブッ殺ファッキン!」
強盗たちの会話の直後ヤク中は不意に立ち上がって、猛然と走り出す!
何らかのビジョンを得たのだろうか!?
BANG! 強盗は、まずヤク中を射殺! あの世へトリップ!
「――さて。チンポしゃぶって命乞いとか考えた? お嬢ちゃん。
でも残念、殺――」
BAAAAAAAAAAAAAAAAANG!
開かれたショッキングピンクのスーツケースの傍ら、
ブリジットがブルパップカービンでフルオート射撃!
強盗一人目射殺!
キッチンカーから出て来た二人目射殺!
鮮血チリソース散乱! 汚れたケバブだ!
そのまま、弾倉が空になるまで乱射を続けた。
「……ふう、ビリビリするね。ダナ、とりあえず無事?」
「……ええ、まあ、はい。……助けてくれてありがとう、ブリッジ」
「どういたしまして、ダナ♡
……ヤク中のおじさんもありがとう。私がもう少し早くコレを取り出せてたら、あなたも助けられたかもしれない。ごめんね」
ブリジットは銃の扱いに長けているわけではない。
にもかかわらず、スーツケースから取り出しての反撃が間に合ったのは、
ヤク中が偶然に稼いだ時間のためだった。
「運の悪いキマり方だけど、私らにはラッキーだったよね……
……ところでさ、ブリッジ。
なんでそんなの持ってんの? 連射性能がちょっとヤバみ……合法?」
「ダナのカードで買ったの♡
売ってた中だとこれが一番強そうで、しかも安かったから」
「ワケありっぽくてますますヤバいね……」
「……っぐ……ほんとだ、売ってくれたアカウント、BANされてる」
「……のんびり、スマホいじりながらケバブ食ってないで逃げようぜ。
正当防衛だけど、その銃はグレーだし。ポリ小屋で夜明かしは勘弁だよ、私」
「――!」
ケバブのため声を発せぬブリジットの代わりに、複数の叫びが聞こえた。
声の主たちは、窓の割れたアパートから続々と出てくるところだった。
完結と毎日更新を目標にしたいなあと思います。