死してなお誰かのために
「Akoi oke!?」
不意の衝突者のために、
護送車両は停止する。
責任者の指示を受けて、
一人の隊員が
死体の確認のために
車外へ出る。
BAAAAAAAANG!
銃声! 連続的に!
「お伏せなさいルナアイナニ!」
「ぴ! きええ!」
泣き叫ぶ弟に覆い被さるようにして
リウメロエは横になる!
銃弾は荒れ狂う!
護送車両の
防弾ガラスや装甲を叩く!
不快な金属音!
「Aga-p-!?」
車外へ出た隊員被弾!
不運にも頭部!
脳漿飛散!
「敵襲! 応戦しつつ道を急げ!」
「「「「「Geh-yai-geh!」」」」」
BAAANG!
隊員たちは窓をわずかに開け、
銃口を突き出す。発砲!
ジャングルへ撃ち返す!
それきり、
ジャングルから銃撃はない。
仕留めたか、
あるいは移動したか。
「本部へ、こちら護送班!
応援要請応援要請――」
速度を上げて進む護送車両!
親衛隊員の責任者は
無線機に語りかける。
隊員たちはあちこちの窓辺に立ち、
銃口を突き出し、
あたりをにらんで警戒する!
†
「とりあえずはうまく行ったけど、
さて....」
走り行く護送車両を見て、
すずりは呟いた。
先ほどの銃撃は、
すずりとフレイヤの仕組んだものだ。
二人が接近する護送車両を見れば、
車内には
リウメロエ王女と
ルナアイナニ王子の姿。
同じ罪を着せられた者同士の
連帯感もあって、
すずりとフレイヤは、
王族の姉弟を救出することにした。
二人は密林を直線的に進んで
道を先回りし、
急ごしらえの罠を仕掛けた。
まず親衛隊員の死体を
フロントガラスにぶつけ、
注意を引かせる。
確認に人員を出したなら、
銃撃して戦力を人数分減退。
その後もいくつかの罠で損害を与え、
戦力を漸減。
最後は近接格闘で決着をつける、
という作戦だ。
罠のために、
親衛隊員から奪ったアサルトライフルを、
すずりはつる草を使って
木の枝から吊るし、
引き金にもつる草を結びつけて
ことが起こるのを待った。
そうしたことで、
無人のジャングルから
銃撃を行うことが可能だったのだ。
道の先に仕掛けた罠のそばで
フレイヤが待っている。
「……南無八幡。
フレイヤの方もうまくいきますように……」
すずりは密林を急ぐ。
†
「わりと長いなこの穴……」
一人、
ダナは闇の中を手探りに進む。
横穴は比較的大きく、
身をかがめもせず
歩くことができる。
そのことを知った帰り道なら、
鼻歌交じりで
スキップすることさえできそうだ。
ステイツの街中を行くように。
(……ステイツよりマシかもなあ。
強盗に遭う心配もないし、
浮かれすぎてヤク中かと思われて
職質されることもないだろうし……
歩きスマホはしたくてもできないけど)
ダナは曲がり角に差し掛かる。
道を曲がると、
道は急勾配の下りになっていた。
そして明るい。
突き当りはさらに
曲がり角になっていて、
そこから、
明かりが差し込んできている。
(どこかに繋がってるんだろうか?)
ダナは、行けるところまで
行ってみることにした。
もしかしたら、
光は人工的なものかもしれない。
フレイヤの言っていた
〝小さな遺跡″とやらに繋がっていて、
観光客とツアーガイドのいる、
人間の世界に戻れるかもしれない。
コブラや怪物のいる森から、
抜け出して。
(……でも、
私ゃ今はテロリスト扱いなんだよな……
……とりあえず様子を見よう)
横穴の中でダナは顔を傾け、
視界の端に
穴の外側が映るようにする。
「!?」
ダナは思わず息をもらす。
声をも、
出してしまったかもしれない。
横穴は、
地下遺跡の通風孔として機能する
トンネルの一つだった。
空気の送り先は、
石造りの大広間だ。
等間隔に松明がともされ、
広間全体を、
そして他のどこよりも、
祭壇らしきものを
明るく見せている。
闇に慣れたダナの目には
まぶしいほどだ。
殺された二人の王子。
血の気の失せたその首だけが、
金の皿に載せられて
祭壇にささげられてある。
金の皿は他にも複数ある。
そして、
すべて空だった。
(……うぇ……)
空の皿は、
いかなる料理で満たされる予定なのか。
なんとなくダナは
想像がつくような気がした。
毎日のご愛読、まことにありがとうございます。




