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神秘のジャングル



 鬱蒼と生い茂る、原生の熱帯雨林。


 人知を超える秘密を

 隠しているかのようだ。


 虫、鳥、獣、蛇。

 その他の生き物たち。


 彼らの場所であって、

 ここは人間の世界ではないのだから。


「ん!? なんか踏ん――」

「Shhh!」


 ダナは足元を見る。コブラだ!


 全身を覆う黒い鱗!

 瞼のない目!


「ひっ!」

「Shhh!」


 先ほどの怪物の恐怖もあって!

 ダナは反射的に跳躍!


 コブラの吐き飛ばした毒飛沫を


 幸運にも回避した!


「うっわわわ!」


 動きを止めず、

 ダナは走り出す!


「どうした、ダナ?」


 あらぬ方へ急ぐダナを見て、

 ジミーが問いかける。


「ちょっ、ジミー! コブ――」


 言葉は不意に途絶える。


 地上から、

 ダナの姿は消えていた。


「うん、ダナ?

 どうし――うわ!」


 ジミーはコブラに気づく!


 反射的に跳躍! 後方へ!


「ファック!」


 ジミーはアサルトライフルを構え、

 威嚇のため単発射撃!


 BANG!


 SNAP!


 CRAAAASH!


 銃弾はつる草を切断!


 繋がる木々の上方、

 重なり合う枝葉の上のバランスが崩壊!


 いかなる作用のあったことか!?


 枝葉の集まりとその上の物が

 まとめて落下する!


「「「「「Shhhhhhhh!」」」」」


「ファック! 増えやがった!」


 突如現れたコブラの群れ!


 ジミー逃走! 道を戻る!


 不意に姿を消したダナに頓着せず!


     †


 ジャングルを進む、護送車両の中。


 二人の王族は、比較的くつろいでいた。


 クーデター容疑をかけられた虜囚としては破格の待遇だ。


 手錠さえかけられていない。


 虜囚とはいえ

 姉弟は王族であり、

 若い女と幼児だ。


 あからさまな罪人扱いは不必要、

 あるいは不敬だと考えられたか。


「……もり……」


 窓に顔を押し付けて

 ルナアイナニは外を見る。


 ただただ、

 ジャングルが続いているばかり。


「……リウメロエ、

 ぼくたちはどこへいくのですか?」


 退屈してきたルナアイナニは、

 姉に問いかける。


「わかりません、殿下」


「わからないの? こまったね……」


「こしょこしょ」

「あきゃあ! はは!」


 リウメロエが言葉と共にくすぐると、


 ルナアイナニは叫びをあげて笑い、

 むずがる。


 じゃれあいながら、

 リウメロエは弟の問いの答えについて

 一人考える。


 この密林の中に、

 監禁や処刑に向いた場所があるとは

 思われない。


 リウメロエが知らないだけで、

 軍や情報機関が秘密裏に用意している

 可能性はある。


 しかし、

 そんな施設を使わずとも、

 姉弟が暮らしていた館で十分用は足りる。


 二人が頼りにする者たちは

 もう殺されてしまったのだし、


 わざわざ手間をかけて運ぶ必要はない。


 合理的に考えるなら、やはり、


「わからない」


 と言うしかないのだ。


「うに」

「もう、いけませんよ、ルナアイナニ。

 女の乳房をむやみにさわるものでないと、

 普段から言っているでしょうに……」


 しかし。


 合理性――

 あるいは常識を捨てて考えるならば、

 見当がつかないわけではない。


 今年は540年に一度の大祭、


『カパパイ・カラアイナア』が行われる。


 ほとんどのクザッツ国民にとって、

 官公庁と公立学校が

 休みになるばかりの日だ。


 だが王族と、

 国家の要職に携わるものは、

 一日をかけて

 伝統に基づく儀式を行う。


 その儀式は、

 このジャングルの内奥にある、

 遺跡の中で

 行われることになっている。


「儀式に関わる何らかの理由により、

 国王ベワマゲイは息子二人を謀殺。


 罪をリウメロエとルナアイナニ、

 そして不運な異国の女たちに着せ、

 遺跡へ連行。


 遺跡の中で流血を重ねることで、

 儀式の質を高め、

 呪術的な何かを手に入れようとしている」


 そのようなことを、

 リウメロエは

 まったく思わないわけではなかった。


「うにうに」

「ルナアイナニのほっぺはやわらかいですね……♡」


 もちろん、

 たわごととしてだ。


 今は21世紀だ。


 頑迷固陋の老人の中には、

 今だ迷信にとらわれている者も

 少なくない。


 だがリウメロエは王族として

 それなりの教育を受けている。


 クザッツ土着の神々への信仰心は、

 自然科学的合理性を

 侵犯しない程度のものだ。


 ベワマゲイとてそうだろう。


 王として、

 欠点はさほど見つからない

 理性的な人物だ。


 二人の息子の放蕩を

 許していたことはともかく。


 だから、

 リウメロエは

「わからない」と

 言うしかなかった。


 神秘の密林から答えを探るでもなく、

 ふと窓の方に目をやる。


 遠くで、

 何かが動いたように感じた。


「――Pihino!?」


 CRASH!

 衝突音!


 同時に運転席から叫び声!


 リウメロエとルナアイナニは、

 反射的にフロントガラスの方を見る。


 死体!

 親衛隊員の制服を着た男!


 状況的に、

 フロントガラスに正面衝突し、

 そのまま即死したものか!?



いつもお読みくださりありがとうございます。


読者諸賢の皆さまにいいことがありますように。

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