名状しがたいソリューション!
鬱蒼たるジャングル。
色鮮やかな小鳥たちが鳴きかう梢。
その、はるか下方。
「蚊にたかられても叩けないのつらいな!
マラリアとか持ってませんように……」
手錠を掛けられ、
足錠の鎖で歩幅を制限されたダナが、
枝や草葉をかきわけて進む。
体をよじり、かつ揺さぶって、
虫たちへ一応の抵抗とするも、
ほとんど意味がない。
ともあれ、
今の最大の懸念事項は親衛隊員たちの追跡だ。
虫たちではなく。
制止の声も銃撃もないあたり、
うまくいっているのだ。
ダナはそう思うことにした。
「ギャーッ!」
「きゃーっ!
な、何!?」
唐突な絶叫!
親衛隊員の注意をそらした
あの叫び声だ!
うろたえたダナはつる草に足を取られる。
手をつくことも出来ずに地面へ転がった。
「ってえ……びっくりさせんなよな……」
草の上に倒れたダナは、
首をひねって叫び声の方を見る。
「Gyaaa-Shh-Gyaa!
見! つけたぞ! ブリ!
ジット! ブロン! デア!
Gyaaa!」
巨大なコブラがいた。
否、
その身体の大枠はヒト型であり、
また人語を発している。
しかしその皮膚は
紫がかった緑色に変色しており、
あちこちで鱗に変じつつある。
また手足のうねり方は
ヒトの骨格では不可能なほどに柔軟で、
さながら蛇の尾ようだ。
「クソ大家……!?
ともかく私ゃブリッジじゃないよ!
バカ! ファッキン緑!」
ダナは叫ぶ。
罵倒は状況を好転させはしない。
しかし、
そうでもしなければ正気を保てまい!
おぞましき怪物と化したイワンが、
ダナに這いよる!
†
「連行が完了したのではなかったか?」
女テロリスト集団逃亡の連絡を受けると、
ベワマゲイは輿を止めさせ、
親衛隊員に捜索を命じた。
侍従長と二人になったところで、
王は臣下に問いかける。
「申し訳ございません、陛下。
ジャングル内への到着、
ということだったようですが、
どうも伝達に齟齬があったようで……」
「余はそなたを責めはせぬ。
しかし、540年に一度の儀式の最中であることを
今一度思うがいい。
何が起こるかわからぬ。
神々の御心のうちにも答えがあるかはわからぬ。
凶事の起る要因を摘み残せば、
運命が死をもって、
余やそなたを責めることがあるかもしれぬぞ」
「はっ、
申し訳ございません、陛下……」
†
「Gyaaa!
俺は金のためなら何でもやってきた……!
Shhh!
卒業旅行でヤクを海外に売りさばいて
小銭を稼いだ……!
それを元手に投資をやった……!
市場を操作して税金をごまかした……!
Gyaaa!
儲かったがまだ足らねえ……!
悪事で金を稼ぎたい気持ちが収まらねえ……!
Gyaa-Shhhh!」
人ならざる叫びを発しつつ!
イワンは倒れたダナへと這い進む!
口調は病的!
誰に向かって話すわけでもないうわごとだ!
「金融規制を破って稼ぐのはもう飽きた……!
これからはぁ!
Gya-Shhhhh!
邪神の力でイノベーション!
死ね!
ブリジット・ブロンデア!
Gyaa-Shhhh!」
イワン咆哮!
もはや頭部は完全なコブラと化した!
そして左右の手も獰猛なるコブラ!
「だから私はブリッジじゃないってのに!
ブリッジを殺させやしないけど!」
迫りくる獰猛なる顎三つ!
ダナは立ち上がって逃走せんと試みる!
「あっ!?
ク、クソッ!」
しかし、鎖に制限された歩幅では
うまく立ち上がれない!
恐怖に震える足ではなおのこと!
ダナが苦心する合間も!
コブライワンは這い進んで来る!
ああ! 神よ! 神よ!
不労所得をじゃぶじゃぶ得たい気持ちが収まらねえです……!




