ジャングルでのおしゃべり
クザッツ首都郊外。
ジャングルを縦断して進む、護送車両の中。
「……っ……ん? ここどこ?」
「ああ! ダナ。良かった。気が付いたのね♡」
つけっぱなしのラジオに負けないように、ブリジットが声を張って言う。
「ブリッジ!」
言って、ダナはブリジットに駆け寄ろうとする。
「――!?」
しかし、ただもがくだけに終わる。
ダナの両手と両足を拘束されており、
ほとんど動かすことができない。
仲間たちも、皆同じように拘束されている。
「気をつけろ、ダナ。ただでさえ道が悪いのだから」
そう言った瞬間も、
車両は大きく揺れる。
岩か切株でも踏みつけたのだろう。
「フレイヤの言うとおり。
とりあえず生きてて良かったよ、ダナ」
「すずりちゃん……私も、みんなが無事で良かったよ」
「無事かどうかは、
ちょっと議論の余地があるんじゃないかしら」
ブリジットは言って、
運転席――つまりラジオのスピーカーの方を、あごでしゃくる。
BGMと共に、
まくしたてられるクザッツ語はわからない。
しかし、
ところどころダナにも聴き取れる言葉があった。
それらは、慣れ親しんだ声の主たちの言葉だ。
『――ゲイフ**ク中の王子二人
――首を取って――人質――撃つ
――ポチっとやる――三下ども!
――フ***ンア*ホ*ル――死ね!
――王子二人――フ**ク野郎の墓石
――死ね!――』
部分ごとに切り取られ、
元の文脈とは全く異なる並べ方をされた単語・フレーズ群だ。
もはやなんの意味も持たない。
しかし、
センシティブなニュースと共に放送されれば、
心理的な影響を持たずにはいられない。
邪悪なテロリストの犯行声明。
そのダイジェストとして、
平穏を望むクザッツ一般住民の恐怖と憎悪を
かき立てずにはいられないだろう。
「え、なんなの……?
どうも、私たちの発言が
録音されて素材に使われてるっぽいけど」
「あの五つ星ホテル、
元々国際会議の会場として建てられたところの
応用なんだって。
そういう政治がらみの施設だから、
あちこちに盗聴器とか
あったんじゃないかな? 今思うと」
ダナの疑問に、すずりが答える。
「なるほど……
高そうだけどヤバいホテルなんだね。
……私たちは何故、逮捕されたの?」
「……どうも、
私たちがエレベーターで逃げている間に、
両殿下が暗殺されたらしい。
その犯人が私たちだそうだ。
ゆえに拘束された。
まったく困ったことだ!」
「えぇ……嘘だろ……」
フレイヤの言葉に、
ダナは頭を抱えようとして、
できずにもだえる。
「とにかく話を聞いてもらおうよ!
誤解なんだし――」
「クザッツ警察さんも、
きっと真実には気づいてるよ、ダナ。
……ううん、というより、
私たちを犯人に仕立て上げることも含めて、
全部彼らの仕込みじゃないかな」
「私もすずりちゃんに賛成♡
私たちにフラッシュバンを喰らわせた
ファッキン警官隊は、
1:フレイヤの通報を受けてやって来た、
2:王子二人の死体に気づく、
3:誤解から私たちを逮捕した、
ってワケじゃないわ。
だいぶ前から、あのホテルにいたはずよ。
もしそういう順序だとすれば、
来るのが早すぎるもの」
「ああ、ブリッジの言うとおりだ。
……今にして思えば、
階段を駆け上がってきたあの大家の男
――イワンだったか?
そいつは、私たちが見つからなくて
焦っていたんじゃない。
手勢をやられ、
自身もクザッツ警察に追われ、
怯えていたんだ」
「あー、言われてみれば
そういう系の顔だったような、
そうでないような……」
「王子の暗殺される日に
銃を持った手勢を連れて、
違法らしいことをしていた男だ。
警察としては、
それなりの対応をするさ。
手柄は多い方がいいのだから」
「まあ、ヤバいところに
ヤバそうな奴がいたら、
何らかの対処をするよね……」
「……しかし
私たちもついてないわね、ダナ。
ステイツの警察から逃げて来たら、
クザッツの警察に捕まったのだもの!
こっちじゃ一人も殺してないのに」
「……何やったんだ、お前ら?」
不意に声音を変え、
本題を忘れたフレイヤが問いかける。
「正当防衛。
……けど、ちょっと法的にアレな要素が多くてさ……」
「なかなか楽しい大冒険だったわ♡」
ダナとブリジットは、
旅に出るに至ったいきさつを簡単に説明する。
「銃社会ヤバいね……」
「……そこで逃げ出すのは、
警察の心証を悪くすると思うのだが……まあいい。
ブリッジは不運だというが、
クザッツでのことはあながち運のせいとも言えないぞ。
王子二人があのホテルに来るのを、
警察は待っていたんだ。
外国人の出入りが多く、
暗殺実行犯役のスケープゴートを
いくらでも見つけられる絶好の狩場に。
私という警護担当者の突発的な転属も、
暗殺をより容易にしたことだろう。
……薬物性交など荒んだ遊びを好み、
隙あらば私に触れようとしてくる、
家柄と顔の他に取り柄のない方だったが、
いざ薨去されてみると、
奇妙な気持ちになるものだな……」
「取り柄になるほどの顔だったかな?
ま、フレイヤとの見解の相違としておこう。
私が気になるのは、
『誰がこの陰謀を仕組んだのか?』
ってこと。
そのあたりの推測材料になりそうなことを、
ラジオで何か言ってない?
私のクザッツ語はあいさつ程度なんで
聞き取れないんだけど……」
「ふむ……」
ただ一人クザッツ語を完璧に理解するフレイヤは、
ラジオに耳をすませる。
「一応、ラジオは
『王子二人の暗殺指示および国家転覆の陰謀の容疑で、
リウメロエ王女とルナアイナニ王子を逮捕』と言っている。
しかしな……」
「そんなにクーデターに縁遠い人なの?
てかフレイヤの知り合い?」
「いいや、
パーティやら公式行事やらで
遠くから見たことがあるだけさ。
しかし、
ルナアイナニ殿下はまだ四つか五つの幼児だし、
リウメロエ姫殿下王位継承権さえ持っていない。
権力を欲したとしても、
そもそもクーデターを起こすだけの権力がないように思える
……まあ所詮外人の当て推量だ。
複雑怪奇な王室政治の詳細はわからないな」
「私たちはどうなるんだろう
……ステイツに引き渡し……?」
「王族暗殺について有罪判決を受ければ、
最低でも銃殺刑だ」
「うぇー、
そうだろうとは思ったけどさ……」
「ねえフレイヤ、
『最低でも』ってどういうこと?
上があるのかしら」
「現行法規にはない。
しかし、王族暗殺という事件の重大さを考えると、
古代クザッツからの処刑方法、
”四肢切断局部杭打ち火刑”を
特別に採用する可能性がある」
「それは嫌な死に方だなあ……」
これで、ここ最近の話にあった、ややこしいところについての答え合わせパートが終わったように思います。
書いている人間がそのように思っても、読者諸賢からすれば不十分なところもあるでしょう。
これは誰が悪い訳でもなく、情報の不均衡からくる仕方のないすれ違いだと考えます。
そこで、疑問点をお書き込みくだされば、今後の展開のねたばらしにならない範囲で回答させていただきます。
どうぞ、お気軽にお書込みくださいませ。
また最後に、平素よりお読みくださる読者諸賢に、心からの感謝を述べさせていただきます。
ありがとうございます。あなたのご高覧が、このごろの僕の幸せです。




