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11:11:11世界の真ん中で  作者: 白い黒猫
脱出の為の破壊
9/27

渦中にて


 医師らしき白衣の男達が、燃えていた男も運んでいる。

 俺は連れていかれた先でホースで水を上からかけられ続けた。頬や手や胸がチリチリと痛い。

 燃え盛る炎と謎の爆発音。緊急自動車の鳴り響く音。人の悲鳴と怒号。俺に大丈夫ですかと話しかけてくる誰かの声。俺自身が混乱していることもあり状況が把握できない。

 冷静さを取り戻せたのはクリニックで治療をうけた時だった。

 北東のタワー一階二階は医療施設のある場所だったことを思い出す。そこから医者が駆けつけて来てくれていたようだ。

 燃えていた男の事を聞くと救急車で運ばれたと医者は答える。それだけ重傷なのだろう。

 親子の方は怪我はないものの強いショックを受けているようだ。その為、より外の見えない場所に移動しているという。俺はフーと溜息をつく。

「こんな状態で、自分より人の心配ですか?」

 治療に当たっている医者に笑われた。上着はもう上で燃えてしまっただろう。ワイシャツは燃えて洋服の形すらしておらず、ズボンも焼けて穴だらけ。トレイにあるのが俺の私物。ひしゃげた会社の携帯。すすけた財布。デイスプレイにヒビがはいったスマフォが乗っている。

 治療は終わったが着ているのは無事だったパンツのみ。胸部と両手に包帯を巻き、頬にも大きなガーゼが止められている。俺は医療用ガウンを着ているが裸に近い感覚しかない。

 トレイのスマフォが震えるが手当の為に両手が塞がっていてとれない。看護婦さんに代わりに出てもらった。高橋からだったようだ。壁の時計を見ると時間は十時五十七分。高橋はすぐにコチラに来るといって電話を切ったようだ。

 しばらくすると顔を真っ赤にした高橋がやってきた。そんなに遠い所にいた訳ではないが、竜巻の発生予定時間の前にここに来てくれた事にはホッとする。

「佐藤さん」

 警官と伴って高橋は入ってきて、俺の姿をみるなり驚いたように目を見開く。フラフラと近付いてきて俺に抱きついてきた。包帯やガーゼに覆ってもらったとはいえ、火傷した胸や腕や頬は痛い事には変わりない。思わず声をあげる俺に、看護婦さんが慌てて止めてくれた。

「上司が心配なのは分かりますが、抱きついたら痛そうです」

 離れた高橋はその瞳からボロボロ涙を流しはじめた。

「あんな状況の交差点に行ってしまうから心配で……心配で……もう会えなくなるんじゃないかと。怖かった。一人になるんじゃないかと」

「佐藤さんはもう大丈夫ですよ。しばらくは火傷が痛むかもしれませんが」

 医者の言葉に頷きながらまだ子供のように泣き続けている。俺は包帯でミイラのような手であるが、触るか触らないかのやさしいタッチで高橋の頭を撫でる。

「大丈夫だ! 俺は軽く火傷しただけだから」

 実際問題、痛みはかなり酷いがそう高橋に伝える。

「火は?」

 そう警察官に聞くと。消火はされたようだが、謎の爆発物があるために放水して冷却しているという。

 時計を見ると十一時を越えていた。雷の音がして揺れる。やはり竜巻はこの状況でも来るのだろうか? 俺は高橋と目を合わせる。

「外で作業しているものは、建物の中に入れ!」

 そういう声が外から聞こえる。

「退避しろ! 皆さんも危ないから屋内に入って下さい! 落雷するとそこも危険です! 建物の中に入ってください!!」

 ドアの外から拡声器を使って呼びかける声が聞こえる。こういう対処に長けた消防士と警察官が居るので外の人の移動はスムーズに行われているようだ。

 空気かふと変わるというか震えるのを感じた。時計を見ると十一時七分。同時に襲う耳鳴りと地鳴りのような音。

「竜巻だ! 建物の奥にいけ!」

 そんな声が診察室の外から聞こえてくる。建物そのものが震えてくるのを感じる。

 竜巻の中は体験したが、近くだとこんな感じになるようだ。部屋にいた看護婦らは顔を強ばらせ立ち尽くす。

 待合室にいる人がより奥である診察室になだれ込んできた。窓のある部屋よりこちらの方が確かに安全だろう。恐怖で叫ぶ人、座り込んで震える人。竜巻よりパニックになるほうが危ない。俺は転び動けなくなっていた女性を引き寄せ踏まれないように部屋の隅に避難させる。医師や看護婦も入ってきた人を誘導し部屋のより奥の安全な場所へ集めさせた。

 避難して来た人はこちらに来たものの、逆に外が見えず、聞いた事のない轟音が響く状態に震える。

 警察官や消防士が皆に落ち着くように声をかける声が外からの音に重なって聞こえた。外から聞こえる轟音に皆は震えながら時間を過ごす。

「大丈夫だよ。すぐ竜巻は消える! それにこの建物は頑丈だ」

 俺は近くで震える男の子とその母親にそう声をかけた。母親は無理やりにでも笑顔をつくり子供を撫で抱きしめる。子供は頷き恐怖に耐えるように拳を握り母親に擦り寄り震えていた。

 俺の言葉は気休めにしか聞こえないだろう。しかし少しでも安心できるように大丈夫と言うしかない。

 実際竜巻の近くにいる事の恐怖は強烈である。顔をあげると高橋と目があう。縋るように俺を見つめていた。

 俺はそっと腕を伸ばし高橋を抱きしめる。腕と胸の火傷は痛んだが、構っていられない。それで少しでも高橋の恐怖が和らぐならばそれでよい。

 高橋は俺の胸に顔を埋め震え続けていた。

 外からの音も空気の違和感も消えても、部屋は暫く静まりかえり時間が止まったように誰も動かなかった。消防士が立ち上がりそっと扉を開け外に出る。本部と何だかの連絡をとっている声が聞こえる。安全が確認され、竜巻が消えた知らせにようやく部屋に安堵の空気が流れた。割れたガラスに気をつけてという注意と誘導の言葉に人が出ていく。

 避難してきた人と入れ違いに、クリニックは患者が押しよせてくる。ガラスなどで身体を切ったという人が次から次へと。

 軽症と言われていたが、実際間近でみるとその様子はかなり痛々しい。皆血を流しながらオロオロとした様子で駆け込んでくる。その様子を高橋は荷物を腕に抱え震えてみている。

 治療の終えた俺は逆に邪魔になりここにいられない。医療用ガウンにブランケットという出で立ちでクリニックを出る。警察官に連れられて俺は北東のタワー一階か外に出た。

 竜巻が来た事が嘘のように晴れ渡っていた。ただ周囲の様子は様変わりしている。

 一階部分は歩道橋を支えるアーチの鉄骨があった為かそこまで酷くはない。しかし二階より上は悲惨だった。

 先程高橋といた喫茶店には何やら物が飛んだようだ。全面のガラスどころか窓枠も壊れ内側へとひしゃげている。

 上を見ると記憶よりさらに崩壊した形の歩道橋が見えた。

 スズタンがメビウスの輪と称していたリボンのような飾り。それがあちらこちらに弾けるように外に飛び出していた。

 並ぶ緊急自動車の後ろを通り南西のタワーの方に進む。商業施設ではなくマンション内へと案内された。包帯だらけの姿は異様なのだろう周りからの視線が痛い。

 早くもマスコミがきているようで撮影をしていた。そのフットワークの軽さに驚く。

 そういえば近くで、あるテレビ局がグルメロケをしてた。それですぐに駆け付けたとか自慢げに話していたのも思い出す。

「そちらはガラス等の落下の危険性があるのでコチラからお願いします」

 そう促され端から北西の建物に入った。つれていかれたのは商業施設ではなくマンションエリア。タワーマンション内にあるシアタールームに案内された。マンション内にそんな共有につかえるホームシアター的な部屋がある事が驚きである。そこは外と遮断されているためにやっと落ち着けた。だから選ばれたのだろう。中はカラオケボックスっぽい雰囲気。部屋を囲むようにソファーとテーブルがあり照明もアンダー。

 部屋に入りソファーに座る。高橋に持ってもらっていた俺の私物である携帯とスマフォと財布の入ったビニール袋い目をやる。

 スマフォはが画面が割れていてもまだ使えるようだが、携帯の方は怪しい。

「高橋すまないが、会社に連絡いれてくれないか? 俺の携帯はおそらく無理だ」

 警察官に断り、まず会社に連絡をいれることにする。

 高橋に電話をかけてもらい、部長に連絡をした。モンドの火災に巻き込まれ怪我負った事。その為携帯を壊した事を告げる。

 今日の予定をこなす事が難しい。メビウスライフさんなどのお客様に行けなくなったことを連絡して欲しい事を伝えた。

 部長は俺が電話は出来る程度には元気そうなこと、高橋は怪我がないことにホッとした様子だった。会社として色々対応してからまた連絡をしてくれるらしい。

 改めて警察官に聞かれても、何があったか俺にもよく分からない。

「交差点を越えた少し後に爆発のような音を聞いて車を止め歩道橋を見ると燃えていました。そこにいた親子を非難させて……後の事は夢中で殆ど覚えていません。何があったのですか?」

 逆に聞いてしまう。社用車のために前後にドライブレコーダーが付いている筈。そう話すとその提出も求められた。

 あれだけ見て回っていたのに、消火器の場所とかまったく気にしていなかった。そちらを使えばあのサラリーマンの身体についた火も早くスムーズに消せたかもしれない。後悔の念が沸き起こる。何を自分はみていたのかと。

 警察官はフーと溜息をつく。

「放火ですね。愉快犯かテロ的な事なのか分かりませんが、歩道橋の各所にガススプレーが挟まれていたようです。燃え方からガソリンも併用されていたかもしれません」

 高橋がその言葉に息をのむ。

「……なんでそんな事を……」

 警察官は首を横にふる。

 病院に運びこまれた男の事を聞くと、火傷は軽くないが命には別条はないだろうという。だからといって喜べる訳もない。彼は会わなくて良い事故に巻き込まれ大怪我を負った。

 そしてあの場にいた親子は、まだ混乱しており冷静に話せる状況ではないという。駆けつけた医者達は今事情聴取がで来る状況でもないだろう。あんな様子を目の当たにした子供の事も心配だ。

 高橋も怒りを感じているのだろうジッとテーブルを睨みつけている。

「あの……。車で持っている間に……不安でネットで見ていました。何が起こったのか、どういう状況なのか調べるために……。その時みつけて」

 黙っていた高橋が突然語り出す。

「この男のツイートがなんか気になって……」

 そう言いながら自分のスマフォを取り出しスズタンのツイートを見せようとして高橋は目を見開く。更に更新されていたからだ。警官は断りを入れて高橋のスマフォを受け取り、見てから顔を顰める。

「コレは……」

 俺も画面を見ると動画が二つ更新されていた。一つはモンド交差点歩道橋が燃え上がる様子の動画、もう一つは今日の竜巻の様子を撮影した動画。

 警官は手帳に何かを書き、どこかに連絡を入れている。動画の解析をしてそれがどこから撮られているのかを直ぐに特定するように命じていた。そして動画をネットから削除させるようにも指示をしている。


 警官が電話しているのを聞きながら、そのアップされた動画を高橋がもってきてくれたタブレットで見ていた。

 いつものモンドの歩道橋の西側が突然火を噴きそれが左右に広がっていく。それに驚き足を止める東側を歩くサラリーマンと北側を歩く親子。

 その直後。男のいる東側の真ん中が火を噴き、遅れて女性のいる北側が火を噴く。女性は悲鳴を上げながらパニックを起こしたように北東のタワーに走った。途中あがった火を吹き親子を炎が舐めている。

 サラリーマンは吹き上がった炎の直撃をモロに受けたのが悪いのだろう。背中から炎をあがる……そこからは俺が間近で見た光景だ。

 高橋が横にいる事を思い出し「お前は見るな」と声をかけるが顔を横に振りジッと画面を見つめ続ける。

 その画面の中俺が走ってきて、男に覆い被さるが炎は消えない。俺にも火が移ってきた所で北東から消化器を持った男に火を消してもらい助けられていた。

 遠方から撮った為に、俺達の姿は小さいが燃えて苦しむ男の様子は分かる。

 時々爆発したような形で炎を上げる歩道橋は危険と判断したのかもう人は撤退している。各角の建物から消火器で消火を試みる人の姿。

 消防車が駆けつける前に炎は消えているように見えた。アクリル性の屋根以外は燃焼物のない空間。

 犯人が持ち込んだガス缶のガス、ガソリンが尽きて燃焼をやめたのだろう。それでも放水される歩道橋。そんな様子が少し早送りの状態で映し出されていた。

 怒りで身体が震える。

 もう一つの竜巻は動画。歩道橋がやや脆くなっていたのだろうか? 以前の動画に比べて辺りに飛んでいるものが多いように感じた。

 さらに近くに停まっていた緊急自動車を多くの飛来物が襲って大変な事になっている。いつもより被害は増しているように感じた。

 二人で黙ったまま動画を見ていると、会社の携帯が鳴る。出ると部長の声が響く。

「テレビで見たけどお前、思った以上に酷い状態になっているな!」

 どうやら俺の姿はテレビに既に放映されていたようだ。怪我の状態を改めて聞かれてしまう。

「もう帰れ! 車は何処にある? 直ぐに誰かをやるから。手続きや車の引き取りもそいつらに任せろ!

 車の鍵を渡したら、高橋もお前も帰宅しろ。今日は疲れただろう。明日は休め! 許可する

 佐藤、お前の方は診断書みて判断するから家で待機してくれ」

 部長が俺達を心配し気遣っているのを強く感じ、申し訳なくて謝るしかない。

 今俺達が待機している場所を告げて電話を切った。俺が部長からの話をすると高橋は少しだけ気が抜けたのか笑う。

「明日、お休みか……普通なら嬉しい言葉なのに虚しく感じます」

 その言葉に俺は苦笑するしかない。俺たちに明日は来るのだろうか? 答えは今の段階では出ない。

 モンド交差点前よりも崩壊している事がどれ程この現象に意味のある事なのか今の俺達にわかる筈もなかった。


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