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11:11:11世界の真ん中で  作者: 白い黒猫
今日という日について
7/27

永遠の時を刻む場所

 アラームの音で目を覚ました。

 俺はサイドチェストのスマフォを手に取り溜息を付きアラームを止める。

 七月十一日六時という時間にウンザリするしかない。高橋に連絡しようとメールを出そうとしていると電話がかかってくる。

『高橋です! 佐藤さんの携帯ですよね』

 あの時間で俺の携帯番号を覚えていたらしい。若いって素晴らしいと感心する。

「あぁ。高橋も同じ状況か」

 俺はリモコンを取りクーラーのスイッチをいれる。もうテレビをつける気もしない。

『はい!佐藤さんと一緒にいたのですが、あの後の記憶はまったくなく部屋に戻っていました!』 

 俺と全く同じ状態である。俺は七時にいつもの喫茶店で、待ち合わせをすることにした。


 待ち合わせ場所に向かうと高橋はもう既にいた。服装は今日(きのう)と同じ。しかし髪は下ろしたままの状態だった。彼女の動揺をそこに感じる。とりあえず考えないでも着られる服を着て飛び出してきたのだろう。

 する事は今日という日の調査。二人で朝のニュースをザッっと確認し、ここまでは変化ない事を確認する。

 【スズタン@shuzutaka】という男もネット上の動きはない。というか今日の呟きそのものが無かったように消えている。

 昨日お気に入りのアイドルのイベントに行き、そのファン仲間と飲んでいるという上機嫌のつぶやきが最後。

 気になるのはタクシー運転手の事。今日(きのう)までの情報では重体のまま、かなり危険な状態であるということだけ。

 予定とは違い大怪我を負った人はどうなるのか?

 スズタンという男があの近辺で余計な事をしないか心配である。また同じことを繰り返して無関係な人を巻き込まないかも不安だった。

 早目に会社を出て、あの近辺を探りあの青い車がいないか調べる事にする。万が一スズタンがあの場所に停めても、タクシー運転手は俺が今日(きのう)停めた場所に車を置くだろう。タクシー運転手の目的はあの喫茶店。その為に店に近い場所に停める。

 タクシー運転手が来る時間は配達の車で丁度あの辺りの他の駐車スペースは埋まっていた。直ぐに配達の車は消えるのだがその僅かな時間差が彼を事故に巻き込むことになる。

 とはいえタクシー運転手が新しい今日も無事に何事もなく過ごせているのかは不明だった。


 二人でやや時間をズラし会社に入り、普段の通り挨拶を交わす。慣れた朝礼の時間をやり過ごし、俺はもう聞き飽きたかも知れない業務指示を高橋に与えた。高橋は今日(おととい)とは違い聞いた後、静かな表情で頷いた。もう動揺はしておらず、何処か覚悟を決めた表情に見える。

 二人とも今日(きのう)今日(おととい)続けて二度やった仕事を手際よく片付けて外に出る。

 車をMedio(メディオ) Del(デル) Mondoモンド付近を、走らせるが例の青い車は見当たらない。俺たちが今日(きのう)喫茶店windless近くに車を停めた時間になっても青い車はそこに停まってはいなかった。

「他の停車している車は昨日と同じです!」

 高橋は外に視線をやり冷静に報告してきた。

 やはり俺達のように青い車の男はこの日を自由に動いている。

 もう一周回ってみると。タクシーが喫茶店の前の駐車スペースに停まっていた。

 その事にすこしホッとする。タクシー運転手は無事なのだと。そこで更に別の疑問は湧いてくる。しかしそれをここで確認する事も出来ない。

 雨が振ってきたので、脇道に入り離れる。激しい雨と近くに雷のおちる地鳴りのような音。

 俺達が事故で感じたのはタワーマンションに落ちた雷の衝撃と竜巻が引き起こす地鳴りどちらだったのだろうかと思う。両方なのかもしれない。


 高橋はカーナビのテレビ番組をチェックしている。昨日とは違うチャンネルを試しているようだ。ほぼ同じ時間に速報が流れている。

 メビウスライフのあるビルの地下駐車場で車を停めて、高橋を見た。

 高橋は必死な様子で手帳に何かを書いている。聞くと俺達が体験したこの時間に記録を覚えている範囲で纏めていると言う。

「助かる。今の所何か気になる所があったか?」

 高橋は顔を横に振る。

「いえ、今のところは、例の男のTwitterも動いて……あっ動画を投稿してきました!」

 遠方から撮影したモンドの風景。雲からゆっくりロート状の雲が降りてきて竜巻となり交差点に降りてくる。

 そこでしばらく猛威を奮うがやがて勢いをなくし壊れていく。

【この現象は本当に自然現象なのだろうか?

 モンド目指して真っ直ぐ伸びて、そこから動くことなく留まる。

 まるでこの空間そのものが竜巻発生装置のようだ。どうか専門家の意見を聞きたいものだ】

 そんな言葉がついている。今回のツイートはまだ冷静で、この人物があの不自然な竜巻の謎を知りたがっているのは感じられた。

 何故この男は、俺達同様に自由に動けて……いや予定の行動に縛られず動けているのか? そこにも、疑問が残る。

 しかし接触するのは何故か躊躇われた。それはオタクと呼ばれる人物への偏見ではない。今日(きのう)のツィートの感じからである。

 彼はあのタクシー運転手の事等全く気にする事はなかった。そして持論をひたすら語るのみ。

 モンドのミステリアスな構造、竜巻という現象についての意見を勝手に展開させるのみだった。そこに感覚の大きなズレを感じたからだ。

 また高橋も同じ気持ちだったのだろう。ネットでコメントとしても接する事を嫌がった。

 また、どこかで確信が、あったのかもしれない。この現象は()()で終わらない。だからもう少し様子を見ても大丈夫だと……。


 問題なくメビウスライフとの打ち合わせを終え、今日はイタリア風のファミレスでランチをとる。気持ちを少し変えたかったから。

 タクシー運転手は今日(おととい)と同じように助かっていた。喫茶店の前で同じ言葉で嬉しそうにインタビューに答えている。その様子を見る限り今日(おととい)と全く変わりない。今日(きのう)災害に巻き込まれた記憶や痕跡は無さそうだ。

 スズタンのツィートは最も早く竜巻の動画をアップしていた為にかなり注目を浴びている。テレビニュースも最も状況を分かりやすく伝えられる彼の動画を流していたようだ。

『お前、有名人じゃん!』

 といったバズッたツイートにつく定番な反応。それと…。

『軽傷だとは言え自慢げに人が怪我した場面の動画を撮ってアップする所が信じられません。マスゴミのようにスクープとったかのように気持ち良いですか?』


『映像すげえけど、妄想の入った文章がヤバい! これだからキモオタは』

 スズタンに対して中傷。

 大半は竜巻映像そのものに対する感想でスズタンの言葉に対しての答えは少なかった。


『竜巻の勢力が小さかったからこそ移動もせずに壊れたのでは?』


『竜巻は性質上雷のように誘導できるものでは無い』


『あの建物を上空からみると、魔法陣みたいに見える』

 『あのモンドの形、明らかに不自然だ! きっと悪魔の実験の為に造られたものに違いない』


『寧ろ偶然だとはいえ、モンドにハマった形で竜巻が降りたから被害も最小限に済んだのでは?』


『実はこの施設を設計した建築家が死亡したのは2018・07.11で丁度去年の今日なんですよね。偶然かな?』


『コレは災害ではない天罰だ! 反省しない日本人への天罰だ』


『11日という日時って、なんか災害起こりやすよね

1855. 11.11安政の大地震

1935.7.11 静岡地震

1995.7.11上越地方・北信地方で集中豪雨

2000.9.11東海豪雨

2009.8.11 静岡沖地震

2011.3.11 東日本大震災

と本当に多い』

 『竜巻の発生した時間も11:11だったよね』


 バカバカしいものも多いが、気になるコメントもチラホラと見られる。

 単なる竜巻だけの問題ならばバカバカしいと思うものばかり。しかし今日を何度も繰り返す異常な現象下にある俺達にはどれも排除することが出来ない。


 一番気になった建築家について調べてみる。

 HIMAWARIとあり芸名みたいなものなのだろうか? とも思ったが本名だった。漢字で書くと日廻(ひまわり)となっており、名前は永遠(とわ)

 ウィキペディアからまず読んでみた。

 数々の賞をもらっている有名建築家。『彼が創り出すのは建造物ではなく世界だ』と称せられている。

 時と空間をテーマにした作品が多く、日廻永遠の建造物は時間と共に異なる顔を見せる。日差しの向きによって、天気によって趣を変えるのがHIMAWARI建築の特徴。一九七四年十一月十一日生まれ。没年二〇一八年七月十一日。


 Medio(メディオ) Del(デル) Mondo(モンド)は時計をテーマに作られている。十字に伸びる道を通る車、タワーマンション四本の影が景色に時を刻むというコンセプトで設計されたという。

 今まで携わったという美術館、レストラン等の作品を見ると、どれもクールで面白い。確かにどれも昼と夜で全く異なる風合いをみせる。

 享年四十四歳。死因は……飛行機事故。

 正確に言うと行方不明中。パリから日本に向かう飛行機が消息を絶った。未だに遺体どころか機体も見つかっていない。その日付はコメントの通り去年の今日である。

 そういった情報だけみるとミステリアスな人物に思える。しかしインタビュー記事とかを読んでみると、ややロマンチストな所はあるが現実的な人物であるように感じた。

 自分の建てた建造物で人が楽しみ幸せで特別な時間を過ごして欲しいという温かい想いを強く感じる。

 自分の作品である建造物を誇るのではなく、利用者にこう楽しんで貰えたら嬉しい。こういう遊びを入れているので、それを見つけて遊んで欲しい。そんなといった発言が多い。マッドアーキテクトに全く見えない。


 Medio(メディオ) Del(デル) Mondoモンドもマンションではなく一つの都市を創るというイメージで作ったという。施設内にスーパーやショップだけでなく病院もあれば、保育園、ギャラリー、カルチャースクール、会議場があり住む人は外に出掛けなくでもこの空間だけでも日常生活を満喫して欲しいという。そんな空間を完成させた……とある。


 ~貴方と共に素敵な時を刻むこの場所で~


 そういうキャッチコピーで発売された。


 どこまでも健全で未来志向。悪意とか作為は全く感じない。もう完売で満室であるし値段もなかなか。竜巻の被害をうけるこのマンションに住みたいとは思わない。

 しかし彼が作ったレストランや美術館に明日香とデートで行ってみたくなったくらい魅力的な建物を作っている。

 高橋は別のコメントが気になりその事を調べているようだ。俺も気になっていたが、あえてそちらは高橋に任せた。

 次の取引先に向かう時間がせまってきたので俺達はファミレスを出て仕事に戻る。

 二件の打ち合わせという名の芝居を順調に終え、高橋を定時で返す。高橋は「自分なりに色々調べてその内容を明日報告します!」そういって帰っていった。勿論外勤の時に互いの連絡先を書いた紙は交換してある。それがなかった事にされるメモであっても、今この状況で頼れるのはお互いだけだったから。


 家に帰りスズタンのツィートをチェックする。

 スズタンはどうも陰謀説についての反応に喰いつき気味で相手に返信を出す。しかしさらに荒唐無稽な答えが返ってくるだけのようだ。それに自分の持論だけを展開させ人の話を聞かない感じで対話になっていない。

 それだけこの男が必死なのだとは思うがどこか独善的。この男とはどうも普通に会話を出来ない雰囲気をそこから感じた。


 今日わかった事。

 俺達の死が時間の巻き戻しのきっかけでは無いこと。

 大怪我したとしてもリセットされる。

 タクシー運転手は俺達のように巻き戻しにあって二回十一日は過ごしていなさそうな事。


 そして考える……

 スズタン

 日廻永遠

 七月十一日

 11時11分11秒

 十一月十一日 

 Medio(メディオ) Del(デル) Mondoモンド

 ……

 気になる言葉を紙に書きだしていく。しかしそのどれもこの珍現象の答えに繋がらない。


 そんな時スマフォが震え電話がかかってきたことを伝える。今日(おととい)今日(きのう)にはこの時間にかかってきた電話はなかった。という事は高橋なのだろう。俺は画面を見ずに出る。

「高橋か? 何か分かったのか? 俺も色々調べてみたのだが」

 そう問いかけるとクスクスという笑い声が聞こえ『こんな時間まで仕事?』という声が聞こえる。

 その声で相手が、誰か気付く。

 明日香のLINEに返事を出してなかったことを思い出す。俺の小さなそういった違う行動でも相手の行動は変化することを思い出す。

「明日香?! いや仕事はもうしていない。もう家だし」

『そして、お家で仕事していると……そういったこと最近はダメだったのでは?』

 働き方改革によって仕事の仕方が厳しくなった。勤務時間外に会社のサーバーに外から確認の為でも繋ぐと残業を勝手にしたとみなされ怒られる。

「そう言う君こそ、まだこの時間まで仕事かい?」

『私は、残業ではないわよ! 今日だいぶんお店らしくなったのが嬉しくて……ニヤニヤ眺めていたら遅くなっただけ!』

「LINEで写真を見たけどいい感じだった……」

 俺は今日(きのう)みたお店と明日香の姿を、思い出しながらそう答える。明日香の香り、体温……そういった事を思い出し心が疼く。切ない意味で。

『本物を見たら、もっと感動するわよ』

「だろうな。楽しみだ……」

 今月末に開店する明日香のお店。その日に俺は辿りつけるのだろうか? 

『どうしたの? ヒロくん元気ないけど。仕事が大変なの?』

 電話だから油断した。俺の弱気を悟られたようだ。

「大変な訳では無いよ。ただ色々ややこしい事ばかりで少し疲れただけ。

 でも明日香の声聞いて元気出た。()()はがんばれそうだ」

 明日香との未来の為にも頑張らないといけない。明日以降の月日に必ず行き、彼女にプロポーズをする。そう心に誓う。

『私も、ヒロくんと話していると疲れが飛んでいく』

「おいおい。やはり疲れているんだろ? 無理はするなよ!

 お風呂ジックリ浸かって、シッカリ睡眠とって休むんだぞ」

 明日香のフフという笑い声。なんか笑いのツボを押してしまったようだ。

『今日のヒロくん、いつも以上に過保護! 

 大丈夫よ! 私ももういい歳をした大人なんだから、自己管理できます!』

「頑張りすぎて。すぐぶっ倒れるだろ?」

 きっと唇を尖らせて少しムッとしているのだろう。

『昔の事でいつまでも……一回だけじゃない』

 大学の時、俺の前でぶっ倒れた明日香を見て俺はどれ程心が冷えたか。

「一回だけでないだろ! 二回だ!

 あの時、本当に心配したんだぞ」

『ゴメン。あの時は若さを理由にバカとムチャをした。でももう、そんな歳でもないから』

「明日で二十九歳だからね~お姉さん!」

 明日香が誕生日が四か月早い為に、この時期定番の二人でのこういったやりとり。この時期だけ俺は明日香を年上扱いして、明日香は年上女を装う。二人の他愛ない遊び。

『もう。めでたくないわよね。ここまでくると』

「めでたいよ。明日香が生まれた日だし、新しい未来に踏み出す歳。俺には特別な日だ」

『……ありがとう……嬉しい』

 多分はにかんでいるのだろう。少し言葉が途切れだ。電話越しでも、明日香の表情が分かる。それだけ二人で長い時間過ごしてきた。

「おめでとう……誕生日おめでとう。

 まだチョット早いけど言わせて。明日が待ちきれない」

 プッと、吹き出す声。

『ありがとう!』

 やっと、直に伝えられた事が嬉しい。フライングでも。

「明日は大丈夫そう?」

 デートの約束は明日。レストランを予約して二人でお祝いをする予定だった。

「ああ」

 俺はそう答えておく。パソコン画面では竜巻の動画がまた再生されている。

『楽しみにしているね!

 ヒロくんの方こそ疲れていそう! 早く寝なさいね!』 

 明日香の労りの声が俺の心に優しく響く。

「明日香もしっかり休めよ! お休み。良い夢を」

『お休み! 明日ね!』

 そんな会話で電話は切れる。

「明日か……」

 俺は苦笑する。彼女の目からは明日はどうなっているのか? そこに俺はいるのだろうか? 

 俺はギリギリまでネットの情報を探る。画面の隅を見ると十一時五十五分になっていた。俺は手帳から高橋の連絡先を取り出しそれを記憶するために見つめる。

 そうしている間も、時はゆっくりと動いていく。俺は五十九分超えた辺りから俺はテーブルの上に置いていた腕時計に視線を移す。

 七月十一日が終わりに向けて秒針が動くのをジッと見つめ続けた。



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