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11:11:11世界の真ん中で  作者: 白い黒猫
今日という日について
6/27

異なる流れ

 職場で朝礼を終え、書類仕事をすぐに片づける。その後二人で直ぐに外回りという名目で飛び出した。

 交差点からかなり離れた場所に車を停める。小さい路地の少し手前。竜巻の時間までいるつもりは無いが念の為安全性を考えたからだ。

 高橋には運転席に移動するように指示を出す。万が一の時は逃げるように指示を出しておいた。ここならすぐに車を発進させ左の路地に逃げ込むと竜巻から逃げられる。

俺は車を一旦降りて運転席に異動している高橋に安心させるように笑いかけてから車から離れモンドに向かった。

 改めてMedio(メディオ) Del(デル) Mondo(モンド)という施設を見ると面白い空間だと分かる。

三車線の交差点を跨いであるために全体で考えると大きな施設である。

 四本のタワーマンションの一階と二階部分は商業施設。棟によって施設の方向性が違う。ショップが揃っている所。医療施設が多い所。カルチャースクール・保育園が入っている所。と異なる役割をもつ。

 施設の案内パンフレットを見ていると、俺の後ろを賑やかな団体が通る。

 大きなカート三台に乗った保育園の子供達が保育士と共にお散歩に出て行くようだ。俺は子供達の囀りが離れていくのを感じながら、1つ目のコーナの施設に入る。

 ここは教育系の施設が多いせいか見る所がないので二階に上がり歩道橋部分に出る。

 その途端ギラギラとした夏の太陽と暑さが俺を襲ってきた。

 各角に建つ商業施設部分の建物は古いアルバムの写真を留めるコーナのような円弧の形をしている。まるでケーキを四等分にしてそれを円周部分を内側にしてスクエアの皿の角端に寄せた感じ。

 そして出てみると円形の歩道橋は複数のアーチに支えられている事が分かる。

 中央分岐帯から二本に別れて長く伸びるアーチ。それは円形の交差点に二回交差するように交わり隣の分岐帯へと繋がる。

 交差点の角から同じように二本に別れ伸びたアーチ。それは円形の交差点を支えるように伸び道を挟んだ隣の角に繋がる。

 さらにマンション部分淵から飾りのように出た曲線の鉄橋、それらで強度を保っているようだ。

 そのため上空からみたら花、もしくは星形に見える。

 どの角度から見てもカッコイイと言うことで、一時期インスタグラマーの間で大人気になったのも頷ける。

 上のタワーマンション部分は角のない三角柱の形で緩やかに捻れた形となっている。住居部分が捻れていて生活しにくくないのだろか? とも思うが捻りも緩やかな為に各階での歪みは殆ど感じないレベルだという。

 円形の歩道橋は屋根があるもののそれが透明なアクリルとなっている為に堪らなく暑い。

 凶悪的な日差しを防ぐものではない為に、午前中だと言うのにありえない気温になっている。

 靴底から熱さが伝わってきて、まるで鉄板の上にいるかのようだ。卵を落とすと目玉焼きが出来るのではないかと思う。

 通る人は少ない。歩いている人も顔を顰めながらここから逃げるように目的のコーナに向かって足早に歩いていく。

 俺はスマフォを取り出し、意味があるのかどうか分からないが周りを撮影し記録していく。マンションと鉄橋の接続部分、歩道橋に沿うリボンのような装飾。空に伸びるタワーマンションそれぞれの形。

 暑い中、社会人が良い年をしてこんな行動。おかしく見えないか気にはなったが、俺の他に青いツナギを着た男が同じように写真を撮っている。そこまで気にしなくても良いのかもしれない。

 ゆっくり1周しつつ角コーナの建物も覗いてみるが、別に怪しい点などみつからなかった。

 なんてことない日常生活がそこにあるだけ。むしろ健全で平和な世界。

 十時四十五分を過ぎたので、俺はここから離れる事にした。

 俺が車に向かう先で青い車が駐車スペースから出て走り出すのが見えた。雷のロゴのはいった通信会社の営業車だ。 

 windlessという名前の喫茶店の前を通り過ぎて高橋の待つ車に戻る。

 俺の姿をみて高橋が運転席から出てきて俺を迎える。回り込んで助手席にすぐに座りシートベルトを装着する。時計を見ると十時四十八分。俺は速やかにエンジンをスタートさせて離れることにした。ラジオをあえてかけておく。平和に音楽が流れている。

 記憶通りポツリポツリと雨が降ってくる。それが次第に激しい雨へと変化する。

 思えばこの雨があったから、皆屋内に逃げた。その事で被害者が少なく済んだのだろう。割れたガラスで傷ついたのみで皆軽傷だった。車を発信させ直ぐに左折しできる限り竜巻の影響を受けないルートを進む。

「今の時間、佐藤さんが仰っていたように車の通りは少ないようです。

 近辺のお店も開店したばかり。人もそんなにいません。逆に十一時開店な所が多いので、十一時前に配送車は消えるのでタイミングよかったのでしょうね。

 保育園の子供達があの時間前に散歩に行き離れたのも幸いでした。……でもこの雨で濡れてないと良いのですが」

 高橋の報告というかつぶやきを聴きながら車を走らせる。

 車のダッシュボードにある時計が十一時十一分を越していく。ゴーという音が聞こえる車に乗っていても空気が震える気配がした。ここからはビルが邪魔でモンドの交差点は見えない。

 カーラジオの音は竜巻の間は雑音となり乱れたがすぐに平常に戻る。隣で高橋がネットをチェックしているがそちらでも直ぐには情報は流れない。

 三分程してTwitterなどに遠方から撮影したという画像や動画が流れだしたという。五分超えた頃に臨時ニュースがラジオから流れ始めた。まだ詳細は出てきていない。Twitterに竜巻のワードだけが爆発的に増えていくのみ。


 十一時半に二人で客先であるメビウスライフに行く。

「なんか近くで竜巻発生がしたんだって?!

 佐藤ちゃんたち大丈夫だった?」

 今日(きのう)と同様もう竜巻のニュースが入っていて、同じ言葉で心配した言葉をかけてくる。

「そうみたいですね。少し離れた道を走っていたので竜巻は見てはいないのですが、なんか空気が震えるような感覚を感じました」

 俺も同じ言葉を返す。

「大怪我して運び込まれた人も居るみたいだから、よかったよ! 無事で~」

 俺と高橋顔を見合わせる。前回聞かなかった言葉が返ってきたから。

「近くで休憩していたタクシー運転席が飛んできた破片がフロントグラスに直撃したとかで」

 俺と高橋はその言葉に呆然とするしかなかった。


 打ち合わせ自体はもう二人の中では二回目という事もあり動揺していながらも問題なくすすめる事は出来た。しかしタクシー運転手の件が気になって仕方がない。

 メビウスライフを出て俺たちは大きく溜息をつく。直ぐに車に戻りタブレットでネット情報を調べた。

 前回、九死に一生を得たと自慢げにインタビューに答えていた筈のタクシー運転手。何故か()()は大怪我で病院に運び込まれている。

 彼は交差点に近い場所に駐車位置を変えていた。

 ファミレスで同じ席に二人で向き合って悩む。

 何故タクシー運転手は停車位置を変えたのか?

 俺達の行動が一人の人の運命を大きく変えてしまった? 俺は後悔の念は襲われる。

 二人で会話も少なめでニュースをチェックした。 今日(きのう)は重体者が出ている事もあり能天気さは少し下がっているものの、基本内容は変わらなかった。

 午後の仕事もある。俺たちは目の前の料理を早く食べ次の会社に回ることにする。

 妙な気分である、同じ言葉を同じ表情で話しかけてくる相手。今日(きのう)と同じ言葉を俺は芝居のように返す。

 謎だらけで訳分からない事ばかりの今だけに、機械的にこうして話を進められる事は助かる。しかしその事が余計に気持ち悪さを加速させた。


 定時になり高橋を帰そうとしたが、彼女は今日(きのう)とは異なり渋る。

 俺もこの後どうするか悩む。元々の予定のように過ごしたい気持ちはある。明日香の所にケーキを手にサプライズで向かい共に夜を過ごす。日付けの変更と共に誕生日のお祝いを言いプレゼントを渡したい。

 共に過ごし零時を超えたら明日になる。そんな当たり前の事が今夜起こるのか今の俺たちには怪しい。

 それに俺のせいで一人の男が病院に運び込まれたかもしれないという事実が重く心に伸し掛る。

「なんか、元気ないな。夕飯でも一緒に食うか? 安くて旨い店があるんだ」

 周りに不自然に思われないように、そう高橋に話しかけて一緒に会社を出る事にした。

 向かった先は以前お客様と打ち合わせをしたカフェバー。深夜までやっているし、Wi-Fi環境も整い、各テーブルに充電設備が整っている。細かく注文をだせるので長時間いやすいのも良い。

 そこで俺達はもう一度この現象についてジックリ考える事にした。


 二人が体験した七月十一日について振り返る。


 一回目の俺達が事故に巻き込まれた記憶は、二人ともあの時間で途切れている。

 あの日どの程度の被害かあり、どのような騒ぎになったかは不明。


 二回目の時は十一時十一分に竜巻が発生。五分程で消滅。専門家によるとスケールはF1~F2。

 発生三分後あたりからSNSで竜巻が都内で発生したという声があがっている。十分後から速報でテレビやラジオでも伝え始めたようだ。

 被害報告が出てくるのは三十分後。崩壊した歩道橋や窓ガラスが割れ外壁の剥がれたタワーマンションの様子。曲がった電柱、割れた窓ガラスの店舗や飛んだ看板等の映像が次々と出てくる。

 人的被害は低く皆軽傷と報じられた。


 三回目もほぼ流れは同じ。二回目の時単なる目撃者であったタクシー運転手が重体となり病院に搬送された。


 竜巻のスケールは今回もF2とされているが、これは被害の規模から測ったものなので正確とは思えなかった。

 俺たちが最初に巻き込まれた時の事を考えるとF3はあったのではないかと考えた。車が持ち上がるとはかなりの強さである。


 何故二回目と三回目の違いが出たのか?

 違っていたのは俺達が車をあの場所に停めた事。

 昨日(きょう)のニュースではタクシー運転手は喫茶店の前にいた。そこで壊れた自分のタクシーを指し示しながらインタビューに答えていた。

 その場所に今日は青い車がいた。タクシーの停める筈だった場所。青い車が喫茶店前から巻の前に移動して行った事を思い出す。

 俺が余計な所に車を停めたから、あそこに車を停める筈だった青い車が喫茶店の前の駐車スペースを停めた。そしてタクシーは別の場所に止めざるを得なかった?

 それを口にすると高橋は何かを、思いだしたかのように自分のスマフォを弄りだす。

「それは違いますよ! だってあの車は私達より前から停まっていました」

 そう言って俺に見せたのは俺を送り出しながら辺りの記録で撮影したであろう写真。交差点に向かう俺の後ろ姿、そしてその横には既に運転手のいない青い車。

「昨日タクシー運転手が話していた喫茶店がwindlessという店名なの覚えていて。だってあの状況で皮肉な名前なので」

 そう言いながら写真を送っていた手を止める。反対側を撮影した写真に通り過ぎるタクシーが見えたからだ。上に乗っている社名表示灯がニュースに流れていたあのタクシーと同じ。高橋がピンチして運転席をアップにするとあの運転手が乗っている。

 予定の行動を変えた二台の車。俺は高橋のスマフォを借りてもう一度青い車の画像を見る。

 青いボディーにカミナリのついた【Thunderbolt】のロゴ。おれはそれを見て首を傾げる。どこかで見た気がする。とはいえ、この企業自体もメジャーで車も珍しくはない。

 ひどくモヤモヤしたものを感じる。

 この車は何故ここに停まったのか? 

七月十一日(今日)という時間の中では基本人は皆同じ行動をする。会社の人も店の店員も取引先の人もコチラが異なるアクション起さない限り。

 この車は俺達より早めに停まっていたとすると何のためにソコに停められたのか?

 俺は自分のスマフォの画像も調べてみる。歩道橋を写した写真に映り込んでいる男に気がつく。

 青いつなぎで、背中にカミナリに重なるThunderboltの文字のついたロゴがついている。正面からの写真もあったが流石に名札の文字までは読めない。

 色白でヒョロっとした神経質そうな男。

「高橋! この男、記憶にないか?」

 高橋にみせるが首を傾げ記憶にないという。俺はタブレットで検索をかける。竜巻とThunderboltの会社の関係を調べるが何も出てこない。

 出てくるのは竜巻に伴う現象としての雷のみ。


「あっ」

 高橋が声を上げる。

「この人ではないですか?」

 それはTwitterのつぶやきの一つ。交差点から少し離れた所からモンドの歩道橋を撮影したもので【ここが数十分あとには…… #MedioDelMondo #竜巻】の文字。

 一見事故のあと過去に撮った写真を懐かしんで公開しているようにも思える。しかしこれが投稿されたのは十一時一分で竜巻の前なのだ。

 よく写真を見てみると歩道橋の上に俺らしき人物も写っている。

 名前を見ると【スズタン@shuzutaka】とある。アイコンは紫色のブタだがクマだか分からないぬいぐるみの写真を。プロフィール開くとアイドルの応援グッズの写真がある。

 スズタンは基本的今日食べたものと、好きなアイドルの話をしている。時々事件や政治について語っているが、全て首相が悪い政権のせいと強引な論法でしめている。若干思想に偏りのある人に思えた。

【このMedio(メディオ) Delデル Mondo(モンド)の形状は明らかに異様で可笑しい。何だかの意図をもって作られたとしか思えない。完全シンメトリーの整いすぎた形状は何かを呼び込む為のモノか? 建物そのものが実験装置のようなものに違いない。何かの陰謀だ】

 そういう文章と共にGoogleMAPで上空から見たMAP写真と自分が撮影した写真を載せている。

 一緒に読んでいた高橋と顔を見合わせる。この男の考えに納得したという意味ではなく、そこはかとなく気持ち悪さを覚えたからだ。

 コイツとあまり積極的に関わらないほうが良いという意見で一致した。

 似たような厨二な思考の人が更に荒唐無稽な意見を展開させている。

【この建物はフリーメイソンの日本グランドロッジと東京タワーを結んだ先にある】

【元々東京そのものが結界であり山の手線や鉄道などを使って印を描き、再び震災が起きないように守っている場所。それを破壊するための建物なのかもしれない。まるで上から見ると魔法陣のようだ】

 俺は画面の左端の時計を見て、もう二十三時三十六分になっていたことに気が付いた。 

「高橋今後の事だが」

 俺の言葉に高橋は緊張した顔をする。

「このまま、無事明日を迎えられたらそれでよし」

 高橋はコクリと頷く。

「もしまた繰り返すようなら……」

 俺は手帳を取り出しページをちぎり、そこに俺のプライベートの電話番号とメールアドレスを書く。

「朝ここに連絡をくれ。

 恐らくはこの紙も無かった事になる。だから暗記してくれ。メールの方はほぼ俺の名前だから覚えやすいかも知れない。そしたら電話番号も即返して連絡できるようにする。君のアドレスも教えて欲しい」

 アドレスは@の後は各キャリア毎共通だから覚える量が少ない。

 高橋はハイっと返事をして同じように手帳から付箋を取りだし【nodaybuttoday11@…… 090……】と書く。

メールアドレスの所を見ておれが首を傾げる。高橋は困った様に笑う。

「大好きなミュージカル映画の曲なんです。【No day but Today】いまこの瞬間を一生懸命生きようという歌。私の名前にも通じるモノがあってコレにしたのですが……『ほかの日ない今日だけ』って皮肉ですよね」

 俺は顔を横にふる。

「いや良い言葉だと思うよ。いつも一生懸命の君にピッタリだし。それに覚えやすくて助かった」

 高橋は少し照れた顔をして俯く。

「佐藤さんのも面白ですね。

 【3tohiro4】」

 その言葉に、俺は苦笑するしかない。

「いやな、佐藤の名前多いみたいで、サトウにhを付けたもの一から二十まで登録しようとして弾かれてそうなったんだ」

 高橋は笑う。

「覚えやすくて助かります。もう覚えました!」

 そんな事を話している間にも今日は刻々と終わろうとしている。高橋は必死に俺の電話番号の方も覚えようとしているようだ。

 俺はスマフォを手にLINEで明日香の画面にする。

【誕生日おめでとう!

 君がさらに輝く一年の始まりに】と書いてグラスを合わせた絵文字を入れる。二十三時五十九分……五十秒、五十一秒、五十二秒と進み五十九秒超えたとこで送信ボタンを押す。どうか今の俺の気持ちが明日の彼女に届きますようにと祈りを込めて。


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