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11:11:11世界の真ん中で  作者: 白い黒猫
永遠へと続くやり取り
22/27

永遠の場所

 俺が向かった場所は新國立現代美術館。開館時間をジリジリした気持ちで待ち回顧展会場に飛び込む。そこに並ぶ展示物を無視して奥に進んだ。

 メッセージで示されたのは【エリア11-11】。それがこの場所の名前。建築時に作業の為に付けられていた名称なので一般の人が、知り得る情報ではない。

 ここは奇遇にも日廻永遠の描く未来をテーマにした展示物の置かれた場所だった。

 

 彼が携わる筈だったパリ郊外のホテル。既に設計図は完成していた為にそのプロジェクトは設計事務所にいる共同経営者であり師匠である建築家と弟子らが引き継ぎ進行しており、四ヶ月後にオープンとなるらしい。

 ホテルと周辺を表現したジオラマを中心にそのプロジェクトの全容か表現されている。

 建築のテーマは【ボーダレス・融合】あらゆる民族、宗教の人がここに集い時間を共有する。そういうコンセプト。

 西洋の城のようでありながらモスクや寺院を感じさせるオリエンタルな感じもある。伝統的な雰囲気でありながら未来を感じさせる前衛的な要素もある。どう形容して良いのか分からない不思議な雰囲気を持っている。屋外プールはプールと言うより露天風呂のようなデザインとなっていて、人は泉で泳ぐそんな雰囲気を楽しめるようになっているようだ。また室内プールと繋がっているように配置されていて、外と中の空間を溶け込ませている所も日廻永遠らしい。

 俺はその奥のモニターの所に行き、その前のソファーの真ん中に座る。それが日廻永遠の指示だった。今までこの展示室に何度も来ていたが、この真ん中に座る事を何故か避けていた。

 三人座れる背もたれのないベンチタイプのソファー。その後二人組の人が来ても座れるように端に座っていたこともある。

 此処に日廻永遠本人が来ると言うのだろうか? 回顧展に、本人が現れて大丈夫なのか?


 画面の前で今後の仕事について語っている日廻永遠のインタビューや、このプロジェクトのドキュメンタリーなどが流れるモニターを見つめる。何故この場所を彼は待ち合わせに選んだのか?

 展示会案内図を見なおす。気になるといったらここが後方の少し離れたところにモンドのジオラマがありその交差点から北を示している位置に当たることくらい。


 弟子である建築家がこのプロジェクトを担当することの重責とやりがいをモニターの中で語っている。

 モニターの中で弟子が【コレを完成させる事で、日廻永遠先生の世界はより広がる。そして建物がある限り日廻先生の想いは永遠に生き続ける】そう締めくくり映像は切り替わる。

 日廻永遠自身が、このプロジェクトについて語っている映像となる。

 建築予定地である森の中を楽しそうに歩く日廻永遠。依頼主であるオーナーらと歩いているのに緊張した様子もなくリスを見つけ少年のように喜んだり、目を瞑って風や鳥のさえずりを聞いていたりと自由な様子。眩しそうに空を見上げる。

「本当に美しい場所だ。歩いているだけで心地良い。

 この美しい空間を損なってしまうことは決してしてはならないな」

 そう話しかけられオーナーは笑い頷く。

「トワここは、私が育った森なんだ。子供時代ここで遊び走りまくっていた。それこそ泥だらけになって遊んだよ。

 あの時のあの喜びあの興奮。それを来てくださった方に感じて貰いたい。

 大人を子供に戻す。時をも超える! そんなホテルを作ってくれ!

 【融合】は人と人だけでなく、人と自然、文化と文化あらゆる意味で表現する。そういう事なんだ」

 オーナーの言葉に日廻永遠は吹き出す。

「今まで受けた仕事の中で一番無茶苦茶で難しい依頼だね。 それって建築で作れる事の領域を超えている。

 でもアタナーズのその気持ちや想い、しかと胸に刻み構想を作り上げていくよ」

 オーナーと名前で呼び合い仲良くフランス語で話す様子が映し出されている。この二人は名前の意味が共に【永遠】であったり、共通のスキーや釣りという趣味をもっていた事もあり意気投合し親友関係になったと説明されている。

 日廻永遠がフランスでワインを共に楽しみたいと言っていたのもこのオーナーの事なのだろう。実際彼からの追悼文があり自分も共に飲み明かしたかったと語っていた。その二人がここで親しげに楽しそうに過ごしている。


 転けそうになったのかカメラがガクリと揺れた。

「大丈夫?」

 そういった言葉を撮影者にかけコチラを見る日廻永遠。淡い茶色の瞳が俺を見たような錯覚をうけドキリと胸が疼く。モニター越しに見つめ合うような状況のまま数秒。モニターにノイズが走る。映像が静止したのか日廻永遠は動くことなく俺をみつめつづけている。

 座っているのに目眩を軽く感じた。鈍く点灯し荒れる映像。モニターの光がやけに強く感じると思っていたら、周囲は暗くなってた。周りを見るとモニターとソファーベンチ以外は闇で塗り尽くされている。

 自分が闇に浮いているような気持ち悪さを覚える。しかし足の下には床らしき固い平面は感じるので浮いている訳ではないようだ。そう自分に言い聞かせる。

(ヒロシ)、繋がったよ。

 大丈夫だ。もう話しても」

 暗い空間の中に浮かぶモニターから声がする。優しげな容貌を持つ日廻永遠が明らかに俺に向けて話しかけてきた。日廻永遠は森ではなく、パーテーションのようなものに囲まれ小さな空間にいる。

「君の身体は展示室にいて黙ってモニターをみているだけらしい。精神だけ切り離されてそこにいる。

 だから言葉を発しても大丈夫。その事は実証済だ」

 この声は最近聞こえていた日廻永遠の声だ。高く透明感のある柔らかい声。

 静かな視線を向けられ俺の心も少し落ち着いてくる。

「やっと会えたね。宙」

 日廻永遠はそう言って嬉しそうに笑った。まるでテレビ電話のように話しかけてくる。

「初めまして……日廻さん」

 俺の言葉に日廻永遠は悲しげに顔を歪める。

「君からしてみたら初めましてか。

 トワでいいよ。友人から他人行儀に話しかけられるのは寂しい」

『ヒロシが来たのか?!』

 英語で日廻永遠に話しかける複数の声が聞こえる。それにヤンワリとまずは二人で話をさせて欲しいと答えている。そして日廻永遠は俺と向き直った。


「宙。

 どこから君に話せば良いか……。まず君の状況を教えてくれないかな?

 まだ君は二千十九年七月十一日にいるのかい?」

 静かな声で日廻永遠は問い掛けてくる。彼はやはりこの謎のループ現象を既に理解している。

「ああ、もうずっと同じ日を繰り返している」

 俺は必死に訴える。助けて欲しくて。

「何日七月十一日を過ごしたのかい?

 そして君はどこまで記憶を取り戻している?」

 記憶? その意味が、分からないので俺は分かる部分だけを答えることにする。

「七月十一日を繰り返して今日で百二十一日目になる。

 どうか教えてくれ!

 どうやったらこの現象を止められる? これ以上この状況に耐えられない!」

 俺はそう訴えるが、日廻永遠は困ったような顔をする。

 そして何やら悩んでいる様子だが、何か覚悟を決めたように表情を引き締める。

「君を落胆させてしまうようだけど、コレだけは先に言わせて貰う。

 俺は単なる建築家で普通の人間だ。

 従ってこの怪現象を解決させるような力もアイデアもない」

「しかし、この現象は貴方の作り出した建造物から始まった! それなのに?」

 俺は遮るようにそう返していた。モニターの中で相手はため息をつく。

「何だかの関係者ではあるのだろうね。でも君と同じだ。俺も巻き込まれた一人にしか過ぎない。

 そもそもこの現象を起こしたのも俺ではない」

 そんな訳ないという気持ちと、納得している自分がいる。でもそうなると何故俺の事を色々知っているのか?

「ならば、なぜ俺の事や状況をよく知っているんですか?」

 日廻永遠はフーと、溜息をつく。

「それは君が、俺達に語ってくれたからだ。

 逆に言うと君から聞いていない事は知らない」

 俺がいつ話したと言うのか……。

「馬鹿な、俺は貴方とそんな話をした事どころか会ったのも初めてだ!」

 日廻永遠は首を傾け俺を見つめてくる。

「ならば、君は何故俺に会いに来た? 俺が生きていると知っていたから、連絡をしてきたのでは?」

 何故俺は日廻永遠に接触をはかったのか? それは白昼夢の中で日廻永遠と話していたからだ。しかし彼が生きているという確信まではなかった。そもそも目の前のモニターで話す日廻永遠は何なのか?

「………貴方は今……何処にいるのですか?」

「俺のいるのは二〇一八年七月十一日。パリに向かう飛行機の中。

 君と同じだ。

 もう長い事七月十一日を繰り返している。俺が繰り返しているのは君のいる世界より一年前の七月十一日だけどね」

 俺がその言葉の内容に驚いていると、日廻永遠は笑う。

「コレを君に説明するのは、俺が認識しているだけで五回目なんだけどね」

「五回目!? 俺は貴方と会ったのは初めてだ!」

 俺の言葉に日廻永遠は苦笑する。

「それが今の君の状態か……。

 まず俺の事を話そう。その方が良いかも知れない。相互理解が信頼を、取り戻すだろうし。

 俺はパリ行きの飛行機に乗り一時間程後から、飛行に何らかのアクシデントが起こる時間までを繰り返している……。もう何年も」

 俺は日廻永遠の言葉を聞いて異常な程ショックを受けている自分を感じる。

「何年も? 馬鹿な! 貴方が失踪したのは一年前だ……」

 日廻永遠は俺を憐れむような目で目詰めてくる。 

 改めてモニターの後ろ辺りを見ると日廻永遠のいる所は飛行機の座席であったことに気がつく。と言っても俺の馴染みであるエコノミークラスではなく、ファーストクラスのシート。

「ループして千百十一日目に君からメーセージが来た」

 話を聞いていて心臓が異様に激しく動くのを感じる。そして。また【その数字】か! とも思う


 日廻永遠は悲しげな表情で俺を見つめてくる。

「そして君と協力しあい、色々調べたよ。コチラの様々な知り合いと連絡を取ってもらって意見を求めたり情報を得たりして……頑張っていた」

 日廻永遠や他の飛行機の乗客と意見を交換している俺。様々な人に英語で連絡をとって意見を求める。そんな風景が浮かび上がる。

 嘘だと言いたいが、俺の中にその記憶が確かにある。ズキズキと頭痛が始まり俺は頭を押さえる。

「大丈夫か? ヒロシ」

 心配そうに見ている日廻永遠を押しのけて白人男性が画面に割り込んでくる。ファーストクラスのシートでも恰幅の良いその男性と二人で座ると狭そうだ。

『深呼吸しろ! ヒロシ。

 息を吸って~。ゆっくり吐け』

 モニターから見知らぬ外国人が英語で話しかけてくる。いや俺はこの男を知っている。

 眼鏡をかけた小太りのその男性は、俺にゆっくり呼吸するように促してくる。そうすると確かに頭痛は少し楽になる。

『やあ、ヒロシ。私はレイモンド・ミラー。精神科医だ。

 今はトワの隣で暮らしている』

 俺が落ち着いたのを見極めたのだろう。そうおどけたような声で自己紹介をしてくる。

『こう見えても結構腕の良い医者でね。プライバシーの問題で名前は言えないが、君も知っているような人物のカウンセリングなんかしているほどの名医なんだぞ』

 愛嬌のある笑顔でそんな事も言ってくる。

『Mr.Miller.Nice to meet you』

『レイと呼んでくれ』

『そんな名医にお世話になってしまったとは。診療代も大変そうですね』

 自然に英語で返している自分に驚く。俺はTOEICスコア六百を超えたくらいで、そこまで英語が堪能であった訳ではない。

 俺の言葉にドクターミラーはハッハッハと楽しそうに笑う。

『残念ながら君からお金を受け取る手段がないので、トワに請求しとくよ。だから安心してくれ』

 ドクターミラーの言葉に日廻永遠は苦笑する。いつから俺はこんなに外国の人と普通に会話出来るようになったのだろう。

 脳裏に七人の乗客とここで色々話している光景が浮かんでくる。彼らが知りたがっている個人的な情報を調べたり、愚痴聞いたり、こっちが愚痴ったり。ここでの英会話の実地訓練が俺の英語でのコミュニケーション能力を上げた。その事に気が付く。

 二人のキャビンアテンダントとフランス人の外交官とアメリカ海軍の男とイギリス人の俳優。

 飛行機の乗客についての記憶が蘇ってくる。

 飛行機の中である空間にいる人のみ、乗客のみが繰り返す一日を認識している。

 ファーストクラスエリアにいた八人の乗客と担当のキャビンアテンダント二人。

 今回紹介されたメンバーは六人。記憶の中にいた俳優をしていた男が消えていた。

 ……いやさらにその前に、イタリア人のアパレルの会社のCEOの男がいた。しかしいつの間にか消えていた。永遠に聞くと悲しそうな顔で毀れたから廃除したといっていた。だから今回もそうなのだろう。

 少しずつ蘇る記憶。しかし肝心な事は分からない。何故俺は彼らの事を忘れているのか?

 更に【毀れた】その言葉の意味する事を考えると恐ろしい。

 脳裏に鈴木と高橋の姿が浮かび、ソレを払うように頭をふった。





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