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11:11:11世界の真ん中で  作者: 白い黒猫
毀れていくモノ
15/27

共に明日へ

 いつものように朝がきた。

 俺はテレビを付けてニュースに変化がないか確認しつつSNSをチェックする。

 鈴木のTwitterの書き込みはそのまま。昨日アイドルイベントに参加してゴキゲンなツィートを最後に動きはない。


 高橋と合流して一応通報だけしてカフェで就業時間までの時間を潰す。最近は毎回お店を変えて少しリッチなモーニンを楽しむようにしている。この様な状況だけに良い刺激と、楽しい変化が必要だからだ。

 今日来たのはホテルのカフェのモーニング。

「お待たせしました~! わっ美味しそう!」

 レストルームから高橋が、戻ってきてテーブルの上を見て感動の声を上げる。

 通報用に『気持ちが動転しながらも最低限メイクして頑張って来ました』という顔を治してきたところ。華やかで女性らしさがアップしている。

 以前は若さや幼さが目立っていたが、メイクの仕方一つで大人な女性になったように見える。

 と言っても装っているだけで、ずっと話していると若さや幼さのある言動は隠しきれていない。彼女が女性として大人に成長するより可愛いままの方がホッとするのはおかしなものだ。父親的な発想なのだろうか?

 次の日に残せないのにスマフォで写真を撮る様子は今どきの女の子で何とも可愛らしい。そして一口食べて満面の笑みを浮かべる。

「クロックムッシュは知っていましたが!クロックマダムなんて初めて!」

 高橋の前にはあるのはゴージャスな朝食。ハムとチーズにさらにベシャメルソースを挟んだフレンチトースト。その上に半熟の卵焼きにラクレットチーズがタップリかかったモノが置いてある。

 さらにフルーツの入ったヨーグルトに、パフリカなどで彩り良く盛り付けられたサラダもついている。さすがホテルのモーニングは豪華だ。

「まあムッシュに卵が乗っているだけの違いなんだけどね」

 本来カリカリの意味をもつクロックだがその要素はなくなり、プラス要素も多い。豪華過ぎてクロックマダムという基本から離れて別の料理になっている気もする。とはいえ美味しく変化しているので余計な事を言うのもおかしいだろう。

「でもそれで素敵さ倍増ですよ!」

 高橋は自分の前にあるクロックマダムをウットリとした視線で見つめる。

 俺の前にあるサンドイッチも、有り得ないくらい豪華。太い厚焼きの卵や薄切りのハムとレタスがパンに大量に挟まれている。紙に包まれてなければ食べるのも大変な感じのボリュームである。

 半熟卵の黄身をどのタイミングを悩みながらナイフとフォークを手にクロックマダムに挑んでいる高橋。その様子が可愛い。一口食べて幸せそうな顔をする高橋をツイ笑ってしまう。

 俺のサンドイッチもパンはふんわりと柔らかく具の卵の焼き具合も絶妙で美味かった。

 先に食べ終わったのでネットをチェックする。

 鈴木のTwitterには変化はない。まだ七時半超えた所なので動きがなくて当然。

 鈴木は八時より前には絶対動かない。この事の意味が分からなかったが、鈴木もループしている人物だとしたらその意味も分かった気がする。

「鈴木の起床時間は八時前後なのかな?」

 そう言うと、高橋も思い当たる節があるのか頷く。

「不思議ですよね。私達も時間を戻してループしていても、六時より前に起きる事が出来ないなんて。十一日でループしているのなら日付変わったばかりの時間に飛ぶのが普通なのに」

 そう巻きもどるのはどう頑張っても十一日の起床時間。それより前の時間には戻れない。飛ぶのは起きた瞬間だから。

 鈴木の会社の始業時間は俺たちの会社よりも遅い十時。その為起床時間も俺達より遅いのかもしれない。

 となると鈴木は八時に起床して急いで爆発物を揃えて発火装置を作成。九時から十時に決行と慌ただしい朝を過ごしていたことになる。

「そういう意味では私、六時起床で良かったです。起きたらもう午後で半日終わっていたら悲惨過ぎますよね」

 高橋の言葉に俺は笑う。起きる時間が俺たちはまだ早めで助かったと言うべきかもしれない。しかし問題が起こるのも午前中。慌しい時間を過ごさねばならないのは困った所。だからこそ、その合間でもこのように心を休める時間をつくるようにしている。

八時超えても鈴木のTwitterには変化はなし。彼がそもそも今この世界に残っているのかも謎のまま。


 二人で時間を少しズラし出勤して、八時半から変わらぬ朝礼が始まる。朝の書類仕事をこなしつつ周りの人と雑談を楽しむ。

 九時超えたが鈴木の動きはなく、事件も事故もモンドでは起こっていないようだった。その事に安心して良い筈なのに不安も覚える。

 九時半過ぎに高橋に声をかけて共に外勤に出た。

 車に乗り二人きりになると、高橋はフーと溜息をつく。俺の視線に気付き、誤魔化すようにヘラリと笑う。

「佐藤さんと一緒の時だけ、普通の私に戻れた感じでホっとして」

「……そうか?」

「なんか他の人の前だと、舞台で劇をずっとさせられている感覚で。会話ではなく次言うべき台詞はなんだっけ? みたいな事を常に考えていて疲れちゃうの」

 俺のぼやけた返事に高橋はそう説明してくる。その言葉に納得して俺は頷く。

 会社はとくに多くの人がいる中での状態。それだけいる人がいつも同じ言葉を口にする。

 その為、自分が違う言葉を話すと台詞を間違えたような感覚を陥るのだ。

 もう三十回以上体験して分かった事はコチラが少し違った事をしても、元の流れに何となく戻っていく。それが分かってきたから気にする事はない筈。

 奇行をしなければ大丈夫なのだが、無難にやり過ごす為に決まった言葉だけを返すようになっている。

 その状況は確かに劇っぽい。

「いっそここで鍛えて、将来大女優に転身するとか?」

 俺の言葉に高橋は吹き出す。

「一緒にオーディション受けに行きますか」

 苦笑して俺は首を横に振る。

「俺はサラリーマンでいいよ。人前で何かをするとかいうのは苦手だしね」

「そうなんですか? チームリーダーとしてバリバリ活躍しているではないですか!」

「仕事だからね」

「佐藤さんはスゴイです。ホントにカッコイイですし」

 このまま会話を続けるのも恥ずかしいので、俺は『もう、いくぞ!』と話を切って出発することにした。

 遠巻きにモンドも通り過ぎるが異常はない。鈴木のTwitterにも変化はない。


 メビウスライフさんのあるビルの一階にあるカフェで時間調整をする。十一時になるが今日も鈴木天史の動きはなかったようだ。雲が立ちこみ辺りは暗くなる。激しい雨が降るというより落ちるように地面を叩く。突然鳴り響く雷。ここまでも全くいつもと同じ。

 高橋と共にネットを見張った。

「事件は起こってないようです。ゲリラ豪雨についてのコメントのみ」

 俺は頷き壁にかかっている時計に目を向ける。

 空気が震えてビルが揺れた。俺と高橋は見詰め合いながら喫茶店の中の騒めきとビリビリと窓が揺れる音を静かに聞き続ける。


 いつものメンバーがTwitter上で竜巻についての話題を始め、動画も公開されていく。ここまではいつもと同じ流れだった。

 高橋が画面を見て眉を寄せる。動画の中でまた青い車が舞っていた。


『竜巻の中に飛んでいるのはまさか車?』

 写真には今日(昨日)と同じコメントがついている。

 写真を引き伸ばしてみた。中に誰がのっているのかまで見える筈もないが、昨日と飛んでいる位置が違うのだけ分かる。

 ニュースの方でも【都内で竜巻発生。乗用車一台が巻き込まれた模様。周囲の状況は不明】同じ内容の情報を流してきた。


 高橋は黙ったまま俺を見つめてきたが何か返せる言葉がある筈もない。結論から言うと、車に乗っていたのは鈴木天史だった。


 今日(昨日)違う事は二点ある。

「今回は助手席には彼の会社の同僚が乗っていたようだ。今後ひよりという二十代の女の子だ」

 高橋の驚いたように見開かれた目にゆっくりと怒りが混み上がっていくのを感じる。高橋の日々高まる鈴木という男に対する嫌悪感。いや、彼女はかなり早い段階から鈴木を毛嫌いしていた。俺には鈴木に関わるな! 関係ない! と言いつつ、実は高橋の方が意識している事に何となく気がついてきた。

「下衆野郎……」

 高橋は剣呑な言葉をつぶやいた。

 ニュースでは、同僚の女の子がたまたま向かう方向が同じだからと、鈴木が誘い出かけていたという。そして二人はタイミング悪く竜巻に巻き込まれたとされていた。


 仕事終わり再び高橋と今日の事態を検証する。

 時間と共に鈴木天史と今後ひよりの情報がニュースやネットに晒されていた。

 被害者鈴木は心優しき人格者として報道され、今後ひよりも活発で気配り上手な素敵な女の子となっている。

 会社や友人を名乗る人がインタビューに答えたり、コメントよせたりしていた。

 二人のSNSアカウントも晒され。二人とも同情という名の晒しにあっている。

 今後ひよりは、Twitter等の様子からいかにも今どきの若い女の子という感じ。タピオカドリンクなど食べ物の写真、友達と楽しそうにしている写真、お気に入りの服の写真。そしてペットの写真をアップしていて人生を楽しんでいる様子だった。

 それだけに突然それが途切れてしまったということで、悲劇のヒロインとなっている。

 俺はそれらのサイトを見て溜息をつく。この子は今日の零時を超えるとどうなるのか? 鈴木や俺のように復活できるのか?


 もう一つの違いは鈴木たちの乗っていた車の進行方向

 テレビ局による再現VTRや模型による説明を見て俺は顔を顰めるしかない。昨日の鈴木は北からモンドに侵入していた。今日は南から北へと何故か進路をとっていた。


「……何故鈴木は助手席に女の子を乗せたの?」

 高橋はつぶやく。


オワラセタカッタカラ


ヒトツノジッケンダ。シッパイダッタミタイダケドナ


トモニスゴスアイカタガ、オレモホシカッタ


 そんな言葉が俺の中に浮かんでは消える。

 俺は気が付いてしまったその答えを、高橋に告げるべきか悩む。余計に高橋を不快にして不安がらせるだけだ。


 今回鈴木が俺達の三人が巻き込まれた時とは異なり逆の南から北に向かって車を走らせていた。

 鈴木はあの時の自分の行動を再現したのでは無い。あの時南から北へと移動していたのは俺達だ。

 となると助手席の女の子の意味は? 高橋を意識した配置となる。

 コチラの行動をなぞったとなると、鈴木はあの日モンド交差点にいた俺達の事を思い出したという事になる。

 その意味する事は? 


 単に対向車線を走っていた車の存在を思い出しただけなのか?

 

 それとも……自分の他にループをしている人物がいることに気がついての事なのか? 


 それによって今後ひよりを連れてきた意味は大きく変わる。

 今後ひよりのTwitter画面を見つめる。

【今日はなんかついてない。寝過ごしたせいで乗った電車はすし詰めにキッつい香水ババアと体臭おっさんのWパンチのスメハラ地獄……お気に入りのキーホルダー何処かに無くすし、もう最悪!】

 そんなコメントを残している。そしてそれに友達と思われる人から労りの言葉をかけられ、【お昼に何か美味しいモノ食べて元気をチャージするのさ!】と返している。そのコメントが九時少し前。それを最後に途切れている。

 最初の『ツイていない』の発言に異様な数のイイネが着いている事に苦笑するしかない。

 亡くなった人の最期のツイートにイイネを送る事の意味が分からない。

 この雰囲気から今後ひよりという女性が俺達と同じ繰り返しの一日を過ごしているようにも感じなかった。となると鈴木に強引に巻き込まれただけとなる。


 終わらせたかったから


 一つの実験だ。失敗だったようだけど


 共に過ごす相方が、俺も欲しかった


 先程浮かんだ鈴木の言葉。

 このどの理由であれ今後ひよりにとっては迷惑な行為で、鈴木の自己中心的で勝手な行動でしかない。彼の行動に怒りしか感じない。

 しかしどう鈴木に働きかける? もし俺達の事を覚えていたなら下手に接触して高橋に危険が及ぶのは避けたい。俺は悩む。


 隣をみると高橋がジッとニュース動画を見入っている。

 今後ひよりの母親が動揺し半ばパニック状態で病院へと駆け込む姿。泣きながらマスコミの質問に答える様子を静かに見つめている高橋。

「この最悪ともいえるリピート現象。

 一つだけ良い事はこのように嘆き悲しんだ筈の私の母の苦悩が無かった事にされた事ですね。父に続き私まで事故で無くすなんて悲劇を回避できてよかった」

 高橋の父親は高校の時に亡くなり、それから母親が苦労して子供二人を守ってきたという。

 高橋は毎月実家に仕送りをしている為に切り詰めた生活をしている。

 ボーナスは弟の大学進学費用に充てる予定だと前に言っていた。苦労人でシッカリした子なのだ。

 高橋の為だけではなく、彼女の家族の為にも元に戻る道を見つけないといけない。そう心に強く誓う。

「そうだな。お蔭で俺達は生きている。

 だから一緒に明日に行こう」

 俺の言葉に高橋は泣きそうな顔で笑って頷いた。



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