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11:11:11世界の真ん中で  作者: 白い黒猫
毀れていくモノ
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綻び

 闇……そしてアラームの音。



 目を開け俺は叫びながら起き上がる。見慣れた私室にいる自分を確認出来ても、激しく動く心臓の動悸は治らない。

 一瞬前に自分の身に降りかかったアクシデントによるショックが俺を半ばパニック状態にしていた。


 サイドテーブルのスマフォが突然着信を告げ震え出し、身体がビクッと激しく震えた。

 深呼吸をしてスマフォを手に取ると、高橋の番号が表示されている。

 電話に出つつ、リビングに移動してテレビをつけニュースを確認した。

 もうすっかり見慣れた七月十一日のニュースを放送している。コレにも変化は無いようだ。

 今は七月十一日の朝六時七分。

 俺は変わらず自分の部屋で目覚めている。

 一つ一つ自分の状況を確認する事で、冷静さを取り戻す。

『佐藤さん……。さとうさん? さとうさんっ!!』

 そういう叫び声が突然響く。俺は電話に出たものの何も喋っていなかった事を思い出す。

「高橋? そうだ俺だ。佐藤だ」

 途端に小さな叫び声。その後嗚咽しているような声が聞こえる。もしかして泣いているのだろうか? 

「……大丈夫か? 高橋」

『……かった。生きて……いる……。

 身体は? 痛みは? 火傷は? お腹の穴は? 本当に無事?』

 電話から聞こえてきた高橋の言葉で、今日(昨日)の俺がどういう状態になったのか察する。俺は死んだようだ。

 大怪我を負っても元通りになり、死すらもなかった事になる。コレは良いことなのか? 悪い事なのか判断がつかない。

「悪かった。心配かけて…………元通りでピンピンしているから」

 何が起こったのかもよく分からない。しかし高橋の動揺が激しいのか、ひたすら『よかった』『もうどうなることかと』『さとうさんいきている』といった言葉をを繰り返し会話にならない。俺は謝り、宥めながら、胸の奥で何故か冷たく暗い何かが沸き起こるのを感じる。

 その冷たく感じた感情の名前はこの時の俺にはよく分かっていなかった。たはど『これはヤバい。高橋をもう毀われさせる訳にはいかない』という意味不明の想い。

 電話の向こうで、動揺から混乱した状態の高橋の言葉を聞いておくしかない状態だった。俺はそんな高橋にもう大丈夫だからと声をかけ続ける。

『鈴木の奴……許せない。……ろす……』

「高橋? 電話では何だから顔を合わせて会おう」

 俺はそう高橋に声をかけ、呟きともいうべき言葉を遮る。

 直に会って高橋のフォローが必要だ。その事しか今の俺にはなかった。


 高橋の家の最寄り駅に向かうと高橋はTシャツと半ズボンという今までになくカジュアルな格好で待っていた。

 Tシャツに書かれた英文【It’s not my day today.】はいつもなら笑える事だが今はそんな状況ではない。

 何故『今日はついてない』なんて内容の英文のTシャツを買ったのか? しかも【今日子】という名の女の子がこのTシャツを持っているという事の可笑しさをツッコムなんて出来る筈もない。

 高橋は俺の姿を見ると駆け寄り抱きついてきた。

「さとうさん、さとうさん」

 ハグというには強すぎる力で俺を抱き締め、ひたすら俺の名前だけを呼ぶ高橋。

「悪かった。この通り元気だから安心しろ。ほら何処も悪くない。心配する事は何も無いから」

 俺に抱きついている高橋の背中を撫で宥めながら俺は彼女が落ち着けるように声をかける。

 しかし朝の通勤時間の駅前。ずっとこうしている訳にもいかない。



 ふと視線を上げ目に付いた二十四時間営業のカラオケ屋に行くことにした。ここなら人の目も気にせず色々話せる。

 受付の人に少し冷たい目で見られたが仕方がない。痴話喧嘩中のカップルとでも思われたのだろう。

 高橋をソファーに座らせ適当にピザとポテトを注文する。部屋を一旦離れてドリンクバーからアイスコーヒーをとってくるついでにスズタンのTwitterを確認してみた。ここも元に戻っている。そして動きはない。

 改めて二人で向き合う。感情を出し切った事と、クーラーの効いた暗い空間で高橋も落ち着いてきたようだ。

 コーヒーを持ってきた俺に恥ずかしそうに謝ってくる。俺は顔を横に振りアイスコーヒーを渡し、テーブルを挟んだ正面に座る。そして高橋の様子を見る。

「ごめんなさい。取り乱しちゃった。

 でも佐藤さんの元気な姿を見てホッとして……」

「悪かった。見苦しい所を見せて」

 そう言っている時に、料理が運ばれてきて不自然な沈黙が降りる。

「いえ、佐藤さんは何も。私の方こそ恥ずかしい姿を晒しちゃった」

 カラオケ屋の店員が去って三十秒。沈黙に耐えきれず会話の続きを始める。化粧もしていないのだろう。いつもより更に幼く見えた。

 虚ろだった目に光が戻り正気に戻ったようだ。

「何があった? 俺にとっては突然の事で何が何だか分からないんだ」

 そう聞いてみる。

「…………粉塵爆発だって」

「粉塵爆発?」

 俺はエレベーター内が真っ白くなって、鈴木も同様になっていた事を思い出す。

「アイツ、エレベーターに小麦粉を持ち込んで爆発を起こしたの」

 高橋の言葉がいつもより幼い口調となっている事は気が付いていた。しかしあえて指摘はしないでおく。

今日(昨日)の鈴木天史、リュックに小麦粉の袋と電池式の小型扇風機と自作の時限式発火装置を持っていたんだって」

 俺は頷く。時限式という事は自爆テロではなかったのか? とは言え粉塵爆発があそこまで破壊力があるとは驚きである。

「でも素人が作った装置だから。誤作動して早く爆発したようだって警察の方は言ってた」

「鈴木は、どうなった?」

  高橋の表情が目に見えて暗く恐ろしい顔になる。怒っているとかいうのとは違った、もっと暗く深い感情を抱えた表情。

「………アイツはもう少し長く生きていた……。

 佐藤さんよりも長く長く苦しみ……イイキミ……。

 何が【死にたくない】よ! そんな言葉だけをひたすら繰り返して……佐藤さんをあんな目に合わせておいて……何が死にたくないよ……』

 またブツブツと自分の世界に入り出した高橋。

 今日(昨日)の俺の様子はかなり悲惨だったようだ。今日(一昨日)に続けて激しいショックと恐怖を与えてしまった。

 コレは非常に不味かった俺は強く反省する。高橋をあまり不安定な状態にさせてはいけない。そんな言葉が心に浮かんでくる。

「高橋?」

 高橋は俺の言葉にハッとしたように顔を上げる。

「はい!」

「お前は……大丈夫だったのか? 昨日、怪我とかしてないか?」

 高橋は何故か俺の言葉に嬉しそうな泣きそうな顔をする。

「私は無事でした。

 あっ。警察の人に佐藤さんとの関係を聞かれたので……仕事の事で相談に乗ってもらうために待ち合わせしていたと説明しておきました! 不自然では無いですよね?」

 鈴木の事から離れた為か口調がいつものように戻った事にホッとする。

「ああ。ありがとう。

 しかし本当にすまなかった。お前は怖かったし心細かっただろ? 大変だったよな」

 高橋は俺の言葉に首を横に振り、はにかんだように笑う。

「いえ、佐藤さんの方が大変だったのに。

 でも、もうあんなに危険な真似はしないでください。もう死なないでください!」

 『もう死なないで』言葉として変だが、今は頷くしかない。

「しかし、まさかあんなタイミングでもう何が起こるなんて思わなかったから。

 あいつ小麦粉で真っ白で思わずツッコみたくなる格好していたから」

「アイツに声掛けたんですか?」 

 高橋が言葉を遮るように聞いてくる。

「……声をかけたのと爆発がほぼ同時だったから……」

 高橋はフーと溜息をつく。チラリと壁の時計を見ると七時四十六分。鈴木の同行も気になる所。

「佐藤さん、もうアイツの事で悩んだり、動いたりするのやめませんか?」

 高橋は俺の方を真っ直ぐ見てそんな事を言ってくる。

「え?」

「鈴木の事です。アイツが何しようと私たちには関係ない」

「しかし!

 アイツがとんでもない事を仕出かすのを知っていて放っておけと?!」

 高橋はそんな俺を何故か悲しそうに見つめてくる。

「それが? アイツが何しようと今日の十二時を超えたらリセットされ何もなかった事にされる。止める必要があるんですか?」

 この言葉が先程までの支離滅裂な事を言っていた動揺していた時の高橋なら良かった。様子から一転、冷静で真面目な顔でそんな事を言ってくる高橋に俺は唖然とする。

「リセットされなかったら? その時死んだ者はそのままになる。

 止めたのに何もしなかった事で惨事が起る。その事に後悔とかしないのか?」

 俺は高橋に訴えるように話す。

「迎えられた明日に、佐藤さんの姿が無いことの方が嫌です」

 高橋は立ち上がり、俺の隣に座る。そして俺の手を握り逆に訴えるように見上げてくる。

「もう今日(昨日)のような想い懲り懲りなんです!」

 それだけ、目の前で俺か死んでいったことはショックが大きかったようだ。知らない人の死より、知っている人の死の方がインパクトも大きく悲しいものだから。

「私っ……佐藤さんの事か……」」

 高橋はそこまで言いかけて言葉を止める。

「高橋。悪かったお前を不安にさせたこと」

 俺は子供をあやす様に高橋のの頭を撫でる。すると高橋は俺に抱きついてくる。その身体が震えている。

 その弱々しい高橋を抱きしめ背中をさする。

「だからもっと安全な手を考えよう……アイツを止める」

 俺の言葉に高橋の身体がビクリと動く。

「どうやって?」

 離れて、不安げな目て見上げてくる高橋に俺は考えた。



 俺たちがとった行動は、警察に任せるという方法だった。

 もちろん『鈴木天史という男がモンドでテロを必ず行うから止めてくれ!』とだけ言っても怪しいだけ。

 そこで昨晩、高橋が偶然街を歩いている時に鈴木が犯罪を予兆させる言葉を言っていたのを聞いていた事にする。その事に危機感と恐怖を感じた高橋が俺に相談してきたので、共に警察に来て通報したという物語を作っておいた。

 この手は成功して、ガス缶と時限型発火装置を持ってモンド周辺を彷徨い、警戒にあたっていた鈴木は職質を受け捕まった。

 次の今日も、更に次の今日も、その手で鈴木を止める事に成功する。鈴木は警官の動きを先読みして逃げようとするが、逆にそのことより行動が、パトロール中の警察官に不信さを持たせ捕まりが早くなっていた。



 俺達の警察での演技もより磨きかかかり、より説得力のある通報を行い、そのまま会社に行き仕事をする。

 鈴木の凶行は止められてはいるが、新しい発見も気付きもない日々が続く無駄に繰り返される一日を続けるだけとなった。

 分かるのは、鈴木は自分の自由意志で行動出来ている事。

 それ以外の人は俺たちに干渉されなければその行動を変える事はないし、夜中の十二時を跨いでその記憶を持つことはない。


 鈴木の行動パターンも見えてくる。

 ネットで何か行動を起こすのは必ず八時以降。それより前にアカウントを消す、怪しい言葉をつぶやくといった事はしない。

 モンドに現れるのは九時前後。

 逮捕されたニュースで分かったのだが、鈴木は荒川区に住んでおり、準備をして到着するのがその時間となるようだ。


 警察の動きの裏での攻防は三十回を超えていく。

 そのあたりで鈴木はモンドの破壊活動を行わない時もチラホラ出始める。こうなると我慢比べである。何も起こらなかろうと俺たちは警察に通報というルーティーンを繰り返した。

 

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