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41.世界

 リューと話したことで少し心を落ち着かせることができた。何かあらぬ誤解を生んでしまった気がしなくもないが、事実ではないので気にしないようにしよう。


 再びククとじゃれ合うという重要な作業に戻ったリューを置いて、裏口から建物の中へ入る。扉をくぐった瞬間、どこからか大きな音が聞こえた。決して近くではない、響き渡るその音が一瞬何の音かと考えて、人の声だと気がつく。一体誰が……


「やあ!!!!!!!!!」


 ロビーの方へ歩き出すと、どんどん音量が大きくなってくる。サヴィの叫び声にも負けないくらいの大声だ。


「エスター!!!!!!来たぞ!!!!!!!!」


 扉越しの俺でもはっきりと聞き取れる。朝の時間に壁を貫通してくる選挙カーの演説みたいな声量だ。


「エスターーーー!!!!!!!!」


 怒っているようには感じないけど、単純にうるさい。


「エーーーーースターーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 なかなかうるせぇ!

 ゆっくりロビーの扉を開けると、そこに待ち受けていたのは、俺の予想とは大分かけ離れたものだった。


「ヘルメット……。」


 驚きのあまり開いた口が塞がらない。

 かなりの背の高い成人男性と思われる人間の頭には、緑色のラインが入ったフルフェイスのヘルメットが乗っていた。


「君は誰だ?!??!?!?!ああ!!!!ミラが言ってたやつだな!!!!!!」


 妖怪フルフェイスヘルメット。

 妖怪は俺を見るなり指を突き付けて叫ぶ。なんだ一体こいつは。室内で、フルフェイスのヘルメットを被ったままの男が叫んでいる。そのあまりに異様な光景に、思わず周囲をキョロキョロと見まわしてしまう。誰か、まともな人……。


「君が飛んで来たやつか!!!!!!!!」


 一体こいつは何なんだと思いつつも、正直なところ、一目見た時にこいつの正体は直ぐに分かった。この世界でこんな格好をしていて、エスターの知り合いなんて思い浮かぶのは一人しかいない。こいつは間違いなくあのシャッターの家、あの違和感に満ちた家を留守にしていた……


「私はニール!!!!!!」


 ごめん、ミラ、お前の絵は完璧だったよ。


「あら!ニールさん!!」


 そのインパクトに押され、呆然とその場に立ち尽くしていると、背後の扉からエスターが現れた。

 その威容な姿を目にしても、俺と違って全く動揺している様子はない。さっきの部屋の扉を開いたときの方が明らかに動揺していたな……。


「今日はどうなさったんですか?」

「会いに来たんだよ!!!!!!ミタカくんに!!!!!!!」

「え、俺?」


 本当に声がデカい。ヘルメット越しとは思えない声の大きさだ。まさかあのヘルメット内側にマイクでも入っているのか?


「あら、では今お茶をお持ちしますね。」

「ありがとう!!!!!!!いつも気が利くな!!!!!!!」


 もうちょっと……あともうちょっとだけ音量を下げてほしい……。

 しかし、俺は聞きたいことがあるけど、こいつはなぜわざわざ俺に会いに来たんだ?地図の噂でも聞いてきたんだろうか。


「何でわざわざ俺に会いに?」

「だって、あなたが知りたいって言っていなかった?」

「ミラ!」


 ニールのデカい体に隠れていて見えなかったが、ミラも一緒に来ていたのか。こちらへ来てすぐの時に会ったきりだったからとても久しぶりだ。


「久しぶりですね。」

「ええ、久しぶり。リュウはいないの?」

「リューなら外に……」

「あらそう。」


 俺にさっぱり興味がないのは相変わらずのようだ。リューが外に居ると聞くなり、その足でそのまま外へ出て行ってしまった。以前会った時にもリューを気にしていたけど、リューと仲がいいんだろうか。


「ああ!!!!すまないね!!!!!ミラはああいうやつなんだ!!!!!!!」

「ああいえ……それで今日はどうして?」


 ソファーに座って本題に入る。俺は飛んで行った人について聞きたいことがあるけど、この人にも俺に聞きたいことがあるのか?


「君飛んできたんだろう?!?!!私は他の世界のものを集めてるんだよ!!!!!!」

「はぁ……」

「だから何か持っていないかと思ってね!!!!!!!!」


 そういうことか、あんな変な家に住んでいるだけあって、他の世界に興味があるらしい。なるほど、変人だ。


「すみませんけど、何もないんですよね。全部置いてきてしまって……。」

「なんだって??!?!?!!じゃあ機械ごと飛んできていたりはしないのか……。」

「なんかすみません。」

「いや構わないよ!!!!!!もし何か持っていたらぜひ買い取らせてくれ!!!!!!!」

「分かりました。」


 エスターが預けてくれたスーツが帰ってきたら売ってもいいかな。向こうに戻ってももう着ないだろうと思うし。


「俺からも聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「なんだね!!!!!」

「隣の世界を飛ぶ方法、知ってますか。」


 この男は何か知っているだろうか。俺があの部屋で見つけた日記よりも重要な情報を。


「隣?」


 ニールは俺の考えていたところとは違う所に反応した。なぜそこに反応するんだ。


「俺が来たところですよ。」

「まさか行く先を指定して飛ぼうとしているのか????」

「え」

「知らなかったのか!!!世界はたくさんあるんだぞ!!!!!!」


 隣に繋がっているんじゃなかったのか?だから、俺はここに飛ばされてきたんじゃないというのか。


「世界は横に繋がってるって」

「隣にもあるが上にもある!!!!!蜘蛛の巣を見たことはないのか????あんな感じだぞ!!!!!」


 蜘蛛の巣。

 ニールは一つの世界から、放射状に様々な世界に繋がってると言う。それはつまり、もう一度あの湖に飛び込んだとしても、違う世界に飛んでしまうという可能性があるということだ。


「隣の世界からはまた無数の世界に繋がってる!!!!噂によると、遠ざかるほど価値観やら何やらが違うらしいぞ!!!!!!!」


 じゃあ、もしここから一度違う世界に飛んでしまったら、もうここに戻ってくることすらできないかもしれないということなのか。


「君は飛んできたのに更に飛んでいこうというのか????おっさんといい飛んできた人は皆そう言うな!!!!!!!」


 これは、エスターにはとてもじゃないが伝えられない。お兄さんにはもう二度と会えないかもしれないなんて。

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