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34.営業活動

「じゃあ、行って来ますね!」

「はい、いってらっしゃいませ!」


 俺とリューとダリアの3人で地図を売りに行くことになった。お客さんは一人だけだし、ネリネが俺の分働いてくれるらしい。


「私が行く意味はあるの……。」

「そりゃあ印刷について詳しいこと分かんないしさ!」

「そう……。」


 ダリアの顔色が悪い。リハビリのつもりで連れてきたけど、大丈夫だろうか。


「ダリア、行こう。」

「ふえ……。」


 リューはダリアの腕を掴んで優しく誘導する。しかし、この状態のダリアを一人で引っ張って行くネリネはすごいな……。


-


 しばらく森の中を進んで行くと、やがて宿屋が見えなくなる。天気はいいし風も気持ち良いけど、やっぱり少し緊張するな。


「う、ええ、嫌だわ……森は前から好きじゃなかったけど、やっぱり……。」

「前から森嫌い、だった?」

「嫌い、というより苦手なの。」


 元々森が好きじゃなかったのか。俺が考えていたより重症なのかもしれない。


「ひえっ!や、だって!変な人に騙されるもの!」


 木を揺らして飛び立つ鳥に、声を上げて反応する。


「騙される?」

「前にこの森で迷った時、たまたま会った人が嘘の出口教えてきたの!私は子供だったのに!……またはぐれたら!その時に森が動いたら……!」


 なんて極悪な。

 そいつは何の為にそんな事をしたんだ。それはトラウマになってもおかしくない。そして更にこの間の変動にも巻き込まれたのか。なんというか、とことんついてないな。


「手っ!手繋いでよぉ!!」

「分かったよ、はい。」

「リューも!」

「うん。」


 ダリアはお化け屋敷の中を歩くように目を瞑っている。森へ入った時は、サヴィの時の様にショック療法でもいいんじゃないかと思っていたけど、また事情が変わってきた。ここはもっと穏やかな手段じゃないといけないかもしれない。


 俺とリューの手をもはや抱き締めるようにして歩くダリアを真ん中に、3人で歩く。本人は怯えているけど、こうしているとまるで家族みた……


「見て、鳥。」

「ちょ、あんま引っ張らないで。」

「手離さないでくれる?!」

「ごめ……。」

「鳥!」

「離れないでよぉ!」


 いや小学校の引率の先生だな……。


 興味に素直で、好き勝手歩いて行ってしまうリューと、全く前を見ていないダリアは、放っておくとあらぬ方向へ行ってしまう。二人とも力加減に容赦がないから腕が痛い。

 仕方なく俺が先頭に立って歩く。なんか、こういうの向こうの世界で見たことある気がするな、まるで幼稚園のお散歩風景……助けてエスター先生!俺一人じゃ厳しいです!


「う、ぐすっ……。」

「泣くなよ、リューがいるから大丈夫だって。」

「泣いてないわっ!」

「鳥、美味しそう。」

「食べるの?」


 先が思いやられる……。


-


「リュー!こんにちは!元気?」

「うん。」

「今日もお客さん探してるの?」

「うん。」

「そちらは宿屋の方かしら?」

「うん。」


 町へ入るなり次々と声を掛けられる。

 リューは俺が思っていたよりも有名人になっているようだ。本人はうん、としか返事をしないけど、それでも皆にこやかに挨拶をしてくる。

 そして、お店の前を通るたびに、果物や野菜など様々な物を渡されている。最近、宿に帰ってくたとき、行きより荷物が増えていることが多いなとは思ってはいたけど、周囲の人からこれだけ可愛がられているなら納得だ。


「変な人について行っちゃだめだよ。」

「ついていかない。興味ない。」

「興味が持ってもついて行っちゃだめよ。」

「逃げられる、安心。」


 纏っているふんいきからつい忘れがちだが、リューは小さな女の子だ。放置しておいたらよからぬ人間に力づくで連れていかれてしまうかもしれない。腕を掴まれる前に森に逃げ込めとは言ってあるけど、この光景を見ていると護衛の人間が欲しくなってくる。


「リューちゃん!今日は一人じゃないんだね。」

「うん、今日は地図売る。」

「地図!前に言ってたやつだ!」


 中年の女性がリューに近寄ってきて頭を撫でる。地図を作っていることも知っているようで、興味深そうに覗き込んでくる。俺もおずおずと前に出て、小さくお辞儀しながら挨拶をする。


「こんにちは、初めまして、ミタカと申します。」

「あら!噂の飛んできた人だね!」

「そこまで知れ渡ってるんですか?」

「何かいろいろやってるって噂になってるよ。あそこの宿屋を立て直そうとしてるんだろ?」


 しまった。一応ノアには気が付かれないようにしているつもりではあったけど、露骨過ぎたかもしれない。正直なところ、ノアが俺の言ったことを本当に信じているかは怪しい。だけど、大々的に立て直そうと思っているなんて吹聴していると思われたら追い出されてしまいそうだ。ここは曖昧な返事をしておこう。


「そ、そうですかね?」

「私も今度遊びに行くよ。お嬢ちゃんは元気?」

「エスターですか、バリバリ働いてます。」

「無理してないといいけどねぇ。」


 ここは村社会に限りなく近いけれど、人が飛んでくるという不可避の現象のおかげで、俺も受け入れてもらえている。エスター達が信頼されているおかげもあるだろう。本当にありがたい。


「それで?地図は売ってくれないの?」

「もちろん売る。ありがと。」

「あ、ありがとうございます!」


 代金と引き換えに、リューが鞄に沢山刺さっている地図ぁら一つ抜き出して渡す。女性がくるくると地図を開くと、驚いたように目を見開く。そして一瞬俺に目配せをすると、まぁ!大げさなリアクションを取った。


「これは!とても良い地図ね!!すばらしいわ!!!!」

「うお」


 声がでかい。周囲の人が振り向くくらいの声量だ。


「なんだなんだ。」

「地図?」


 町を行く人々は立ち止まり、遠目にこちらを観察している。この平和な町で何が起こったのかと、野次馬のようにわらわら人が集まってくる。


「ねぇ!これはすごいわね!!」


 わざとらしい大声で、ダリアへと話しかける。バトンを渡すように顎でくいっと、次の台詞を促した。


「そうね!!そうよ!!!私達が刷ったんだから当たり前でしょう!!!」

「え、ええ!自信作ですから!」


 その意図を汲み取ってサラッと乗っかってくるダリアは流石慣れていな。かなり芝居がかっていてわざとらしいけど、どんどん人は集まってくる。どれどれ、と女性のが持っている地図を覗き込んでは、これは凄い!と口々に言う。

 宣伝効果は十分だ。とりあえず誰かに見てもらうという、最初の壁を突破できたのだから今回の目標はもう達成したと言っていいだろう。


-


「ミタカ、ミタカ」


 しばらくすると、地図を売りさばいていたリューが、ちょんと俺の袖を引っ張ってくる。


「どうしたの?」

「地図、なくなった。」

「うっそ、マジ?」

「本当に?!やった!!やったわ!!やったあー!!」


 人が集まり始めてから、1時間も経たないうちに、持ってきた地図が全てなくなった。ダリアは多めに刷ってきたと言っていたのに、まさか全部なくなるなんて!ダリアも両手を上げて喜んでいるし、リューも無表情だけど嬉しそうに独創的なダンスを踊っている。上手くいって本当に良かった。


「ありがとうございました。」


 最初の流れを作ってくれた女性に、小声でお礼を言う。周囲にまだお客さんがいるから、こっそりだ。


「当たり前だろ、あんな素晴らしい地図、作ったからには売らなきゃリューが可哀想でしょ。」

「いやさすが、自分達だけだったら完売できなかったかもしれないですし。」

「私がここで何年商売やってると思ってるのさ。」

「はい、頼もしい限りです。」


 地図の初回販売は大成功だ。技術にも人にも恵まれて、これだけ上手くいくと何か悪いことが起きるんじゃないかなんて考えてしまう。




「ミタカ」


 いつのまにか側へ近寄ってきていたリューが、じっとこちらの目を見つめてくる。


「何?」

「地図、本当に売れた。」


 その事実を噛みしめるように、落ち着いた声で言う。その声はほんの少しだけ上ずっていて、リューの高揚感が伝わってくる。


「ありがとう。」


 嬉しい、と目を細めてふわっと笑う。

 その柔らかい笑顔に、あの時ちゃんと話を聞いておいて本当によかったと思う。


「だろ?」


 俺はこの笑顔が見たかったんだ!

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