28.優秀?
夕食の席を囲んだのは、エスター、俺、ノア、リュー、テルトリ、そして問題のサヴィの6人だ。
一気に男女比が逆転して部屋の中が非常に狭く感じる。不快とまでは言わないが、華やかさがない。昨日までは海外の落ち着いたレストランのような雰囲気があったが、一変して今の雰囲気は控えめに言ってもRPGの酒場だ。
「で?どうしてサヴィはリューさんと一緒に来たんだ?」
じろりとサヴィに目を向けて、どういった経緯でここまでリューと一緒に来たのか問い詰める。
「たまたま、会ったから押し付けられた。」
「リューさんそれはないすよ!任されたって言ってください!」
宿を出てから、特に問題が起きることもなくリュー達3人は森を抜けることができたらしい。そして、どうせなら休んでいけば、と言われ二人が住んでいる家までついていった。そしてそこで仕事中のサヴィに出会い、ダリアとネリネの二人から
”宿屋で働かせて貰った方がいいんじゃない?ちょうどリューもここにいるし”
”私達にサヴィは使いこなせないからねぇ!”
と言われてここへ来た、ということらしい。サヴィ……ここで働くという名目で体よく追い出されてない?
「お前、クビになったの?」
「違いますよ、お嬢が私達には使いこなせなーい!って嘆いてたから!あれ、もしかして僕、優秀過ぎた……?」
サヴィは目を見開いて口に手を当て、真実に気づいてしまった……!というような顔をしているが、それは勘違いだと思う。
「へぇ……良かったなぁミタカ、お前の求めてた人材じゃないか??」
「ノアさん……冗談はよしてください……」
「じゃあ不採用か?」
早くもポンコツオーラが漏れ出している様子サヴィに、ノアはとても嬉しそうだ。半笑いでノアは煽ってくるが、いくらこいつが怪しいからって、いきなり不採用にはしない。しかし、採用にもしない。
エスターの友人であるリューだって面接をしたのだから、紹介状1枚で採用にはできない。しっかりと何ができるのか見極めてから採用したい。へらへらとしながらも嘘は吐かないネリネに、間違いなく優秀だと言わしめるこいつは今まで一体どんな仕事をしてきたんだろう。
会ったばかりで履歴書もないからリューと違って何ができるのか、どんなことが得意なのかもさっぱり分からない。今回こそ履歴書を作って書かせてみるか?それとも、面接はなしでとりあえず仕事をさせてみるか……。
「いきなり不採用にはしませんよ、採用にもしませんけど。」
「ええ?!じゃあ僕無職すか?!」
「私も……ネリネさんがご紹介してくださったのですから、きっと素敵な方だろうとは思うのですが、やはり何も知らな過ぎて……。」
そりゃあそうだ。ノアはポンコツを雇いたがっているが、エスターは本気で力になってくれる人を探している。この宿のことを一番真面目に考えているのはエスターだ。
「そうですね、で、ちょっと考えたんですけど、明日からとりあえず働いて貰いませんか?」
「僕働けるんすか!」
「優秀って言われても今まで何してたとか分からないから、とりあえず働いて貰ってみて、その働きぶりを見て考えようかなって。」
「リューの、後輩。」
試用期間ってやつだ。紹介状に優秀と書かれるくらいだから、優秀なんだろう。だけど、わざわざお荷物と書かれるくらいなのだからそれだけの何かがあるんだろうということもわかる。きっと一筋縄ではいかない。
「お前は何の仕事やってたんだ?あの印刷屋で働いてなら金持ってるだろ、あの双子ちゃんのならさぁ!」
「そうっす。基本はお嬢二人の身の回りのお世話とかさせてもらってたんすけど、他にも結構いろいろやってたんすよ。あと金は普通に無いす。」
「はぁ~……そこは嘘でもあるって言えよ!夢がないよ夢が。」
「後輩、お茶。」
サヴィは金は持ってないのか。あの二人のところで働いていたなら、お金を持っていないのは違和感がある。以外と金遣いが荒いとか、そういうことだろうか。
「仕事って、例えばどんな?」
「えっとー、掃除、洗濯、料理、書類整理、あとぉー、あと、なんかいろいろっす!」
思ったよりもいろいろな仕事をしていたみたいだ。全部こなしてくれるのなら願ったり叶ったりだが、何でもできると言われると、逆に心配になってくる。じゃあ何でここに来たんだ?
「サヴィさんは様々なお仕事をなさっていたのですね。それにして書類整理まで?」
「お嬢達は僕に何でも任せてくれてたんで!リューさん、これお茶です。」
「ん」
その話を聞いてますます分からなくなった。やっぱり、どうしてここに送り出したんだ?
「てかテルトリさん、あんまり近寄らないでくれます?汚いんで。」
サヴィがいきなり喧嘩を売り始める。あまりにも唐突だったので、お茶を貰ったリューも目を丸くしている。
「は?お前失礼なやつだな、うちの可愛い可愛いククを見て同じこと言ってみろよ。」
「ククちゃんはまぁ……手袋越しなら……。」
こいつは食事の時でも手袋をしたままだ。首や足も隠れているし、目立つ傷跡でもあるんだろうか。多少気にはなるけど初対面だし、手袋は外さないのかと聞くのも少し馴れ馴れしすぎるだろう。
「大体なんだよその手袋、食事中くらい外せや。」
俺のそんな気遣いもテルトリの一言に意味がなくなる。無礼なんだか便利なんだか……。
「テルトリさん、それは少し失礼ではありませんか?」
「でもさぁ、エスターちゃんはいいの?手袋したままで?」
「ええ、美味しく召し上がっていただければ。」
「外せないんすよ、さーせんね!」
ギスギスした空間に眩暈がする。昨日までの穏やかな空間が恋しい……。
俺が悲し気な表情をしていたからかは分からないが、足元にククがすり寄ってくる。足に纏わりついてくるククは本当に可愛らしい。今の俺を癒してくれるのはお前のもふもふだけだよ……。
「というかリューはどうだった?初仕事だったし、緊張しなかった?」
「問題ない。ダリアが泣いてたけど、ちゃんと運んだ。手を繋いで引っ張った。」
「な、泣いたの。」
「うん。」
ダリアは恐怖や不安のあまり泣いていたらしい。あれだけ顔を青くして嫌がっていたのだから、それくらいしてもおかしくはない。しかし、リューに手を引かれているダリアなんて想像できない。ダリアは人の手を引いて、前へ引っ張っていくタイプに見えるから。
「ダリアさん、本当に森が苦手になってしまわれたのですね……。」
「怖い怖いって言ってた。」
そういえばダリアからの相談を聞き損ねてしまっているんだった。もしそれがこのことなら帰る前に聞けなかったのは、悪いことをしてしまった。次に会った時には必ず聞こう。




