27. こんちわ!
リューは初仕事を終えると、日が沈んだ頃に帰ってきた。俺達がククの可愛さにメロメロになっている間に、しっかり仕事をこなしてきたようだ。ダリアとネリネを送り届けるという重大な使命を無事果たせたようでよかった。
取り立てて心配はしていなかったけど、こうやってちゃんと帰ってきてくれると安心する。
そう、ちゃんと無事に帰って来てくれるだけで……
「ただいま」
「おっ!リューお疲れさ……ま?!」
リューは無事に帰ってきた。
「こんちわー!」
知らない男を連れて。
「なぁっ……。」
男はニコニコとやたら溢れんばかりの笑顔見せつけてくる。青年と言えるくらいの年齢で、小綺麗な恰好をしている。しかし、上から下までがっちりと着込み、両手に手袋までして、出ているところは顔くらいしかない。怪しい。
「おま、お前……」
お客さんかもしれないという考えが一瞬頭を過ぎるが、その男がリューの肩を抱いているのを見てその考えはどこかへ吹っ飛んだ。
「リュ、リュー!!!誰だその男!!!俺は認めないぞ!!!!!!」
「いや、ミタカさん、待ってください!もしかしたらお客様、いや遭難者かもしれませんよ!」
「ワンワンワン!!!!!」
「リューに触らないで。」
「ええ、冷たっ。」
「ワンワンワンワン!!!!!!」
「うわぁ犬だっ、いてぇ!」
「誰だお前はっ!!!!」
初対面の相手に人差し指を突き付ける。俺、随分アグレッシブになったなぁ。
突然大声を出した俺に反応して、ククも元気に吠えまくっている。その場を走り回っているので羽が飛び散っている。そして、ぐるるるる…と唸り男の足に勢いよく噛みついた。先ほどまで穏やかだったククのこの様子から見るに、こいつはやはり怪しい人間に違いない。
「エスター!もしそうじゃなかったらどうするんだ!!あいつ肩抱いてるぞ!!!信じて送り出したリューが!!!!」
「もしもの時は私が湖に沈めますから!!!」
「それは勘弁してほしいっすね。」
「はぁ?キレそう。」
その余裕綽々な態度が気にくわない。誰だよお前、うちの大事なリューに気安く触るな。これが娘がどこの誰とも知れない男を連れてきた時の気持ちなんだろうか。つい大人げない態度をとってしまう。
「名を名乗れ。」
「サヴィです。」
「さびぃ???何お前?????」
「とっとりあえずお茶を入れますね。」
エスターもお茶を入れる手が細かく震えている。サヴィと名乗るこの男が現れたことで、先ほどまで平和だった宿屋のロビーに緊張感が走っている。そんな中嵐を連れてきたリューは、自分は関係無いと言わんばかりに涼しい顔でそっぽを向いている。昨日の子犬みたいなリューはどこへ行ったんだ。
「リュ、リューさん?こちらは?」
エスターは緊迫した表情でお茶を差し出す。そして、それをすっと優雅な動作で受け取ったリューは、男を一瞥すると、口を開いた。
「サヴィ、無職。」
「はっ……」
エスターは眩暈に襲われたかのようにふらっと揺れると、床に崩れ落ちる。
「む、無職」
「エスターさん!やっぱりこいつだめです!!」
「僕、ここに来たくて仕事辞めてきたんすよ。」
「はわ…………」
「しっかりしてください!エスターさん!」
白目を剥いているエスターの肩を掴んで揺さぶる。まぁこれだけ世間を知らなさそうなリューが男を連れてきて、しかも無職なんて言われたらそうなるのもわかるけど。
「僕ここで働きたいんっすよね~」
「働く?」
「そうそう、仕事から逃げてきたんすよ。」
唐突な働きたいという言葉に少し面食らう。まさか就職希望でリューに連れられてきたのか。いや、町の方向とダリアとネリネが帰った方向は真逆だ。こいつはいつどこでそれを知ったんだ。
すると、その言葉を聞いて、リューはワンピースの傍らに置いていたカバンをごそごそと漁る。そして蝋で封がされた綺麗な封筒を取り出した。そして、俺に向かって片手で突き出してくる。
「ミタカ、ネリネから。」
「ネリネから?」
「そういえば、お嬢が紹介状書いてくれるって言ってた!」
「紹介状。」
ネリネが紹介状を書いたらしい。気になることは山のようにあるが、とりあえず渡された手紙を開く。
そこにはとても綺麗な文字と、非常に丁寧な言葉遣いでこのようなことが書いてあった。
『拝啓、貴社ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、先日訪問させて頂いた折、新しい人材を募集されているとのことお伺い致しましたので、弊社のお荷物であるサヴィをご紹介させていただきます。
優秀であることは間違いなく、弊社でもその能力の高さを持て余すほどでした。少々変わったところもございますが、必ずや貴社で活躍できる人材であると確信しております。
つきましては、サヴィを同封致しましたので、ご査収の程お願い申し上げます。
敬具
記
・サヴィ 1体
以上』
現代的に意訳するとこんなところだろうか。ものすごく丁寧に、いらない人材を押し付けます。と書いてある。想像していたものとは大分違うんだけど……。
ネリネは一体なにを考えているのかさっぱり分からない。脳内で手紙を読み上げたネリネが、後はよろしくぅ!と言って逃げ去っていく様子が浮かんだ。大体紹介状にお荷物って書いちゃだめだろ。
何気なく紙を裏返すと、
『リューちゃんに帰りも仕事させちゃってごめんね!お金は渡したからね!』
と書いてあった。リューは普通にサヴィ案内するおつかいを受けていただけのようだ。よかった。
「ネリネさんですか?私こういうものはてっきりダリアさんが書くものかと……」
「確かにそれはそれかもね。それ以上に内容からネリネが滲み出てるけど。」
このどこかふざけた感じはネリネ特有だ。ダリアにこの手紙は書けないと思う。
「お嬢はちゃんと僕のこと紹介してくれてます?!」
「えっ、ああ、まぁ……。」
「お嬢が僕のためにそこまでしてくれるなんて嬉しいすね~」
丁寧ではある。内容はあれだけど。
でもどうして、ネリネは突然人を紹介して来たんだろう。人を紹介してくれるのは本当にありがたいけど、お荷物なんて自分で書いちゃうような人をわざわざ紹介してくるなんて何を考えているのか分からなくて少し怖い。
当の本人は、お嬢もついに僕を認めてくれたな……と嬉しそうに一人で呟いている。
エスターもネリネからの手紙とサヴィを交互に見ては首を傾げているし、こいつがよく分からないやつであることには変わりない。
「まぁ……働くかはどうかは一端保留にして、とりあえず夕食にしましょうか……。」
そして混沌とした空気の中、妙な面子での夕食が始まった。




