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26.目撃者

 宿の中に入れろとうるさいテルトリのために、渋々3人で建物の中へ入ると、何事かうーんと考えていたエスターが、思い出したように突然あっ!と大きな声を出した。


「そうだ!そういえばテルトリさんは、お兄様が飛んで行ったところを目撃されていましたよね!」

「ああ、そんなこともあったな。」

「ミタカさん!」

「ちょっとそれ、詳しく聞かせてください!」


 ここに来て衝撃の事実が飛び込んで来た。

 エスターの兄は俺とは違い、飛んで行ったところを目撃されていたらしい。ファンタジー的な発想で、人に見られていたらダメとか、そういうこともあるかもと思っていたけど、そうでもないらしい。俺が池に入ったときは見渡す限り人は居なかったから、側に人が居る居ないは関係ないのかもしれない。

 改めて思い出してみると、俺って一人で勝手に池に飛び込んで勝手に溺れたんだな……万が一目撃されていたら……多少ネットニュースくらいにはなってるかもしれない。疲れたサラリーマン、入水自殺か?の見出しで。


「面倒だなーあんま覚えてないし。」

「そこをなんとか!」


 テルトリはここぞという時に渋りだす。折角いい情報が手に入りそうなのに、ここで逃すわけにはいかない。


「うーん。」

「テルトリさん。今いい金儲けの話があるんですけど。」

「えっ。」

「聞きたいですか?」


 目を見てにやりと笑うと、俺の意図を汲み取ったのか、しょうがねぇなぁとため息を吐く。


「ああ、えっと、まずなんだっけ?」

「お兄様が飛んでいった時のことです。」

「ああ、そうだった。」


 わざとらしくエスターに確認を取ると、当時の様子を語り出した。そこそこ前だからあんま覚えてないぞ、と前置きをして。



「俺は夜中に、ククを連れて森の中を散歩してたんだよ。日が沈んですぐとかじゃないぞ、マジの真夜中な。ククの散歩をしてたんだけど、そしたら、森の中をうろつく人影が見えたからこっそりついていったわけ。こんな時間に迷ってるってことは遭難してる可能性が高いし、遭難してるところに颯爽と現れれば、金集れるかと思ってさ!


 そう、それでしばらく後ろをこっそりついて回ってたんだけど、ちょっと明るいとこでよく見たらエスターの兄貴だったんだよ。

 まぁ適当なくらいには仲良かったから?普通に金せびろうと思って、おーいって言って近づいて言ったらさぁ!あいつ湖に落ちて!本当あの時はビビり倒したわ。俺の声で湖に落ちたんじゃないかと思って!このままじゃ俺のせいになると思ったね。


 これで責められたらたまんねーからわざわざ人呼びに行ったんだよ。俺は泳げねーからノア呼びに行ったわけ。朝までノアと俺で湖つつき回したけどついにあいつ見つからなかったんだよな。湖潜っても見つからねぇし、あいつは隣の世界へ飛んで行ったっていう話になったんだよ。あの時森動いててクッソ大変だったな~。ククちゃんの鼻がいいから俺は迷いませんけどねぇ~!」


 ところどころに混ざってくるクズエピソードに意識を持っていかれるが、やはりエスターの兄があの湖から飛んで行ったのは間違いないようだ。


「私も覚えてます。元々ボロボロなのに、更にボロボロになったテルトリさんが現れて、“兄貴が死ぬぞ!”って言っていたの……」

「ククがいて良かったなぁ、いなかったら目撃することもなかったしなぁ、いや、良くはないけど……。」

「あの、話はそれで終わりですか?」

「ああ、どうだ、すごいエピソードだろう。」


 確かにその時の状況を知ることはできたが、正直少しもの足りない。もう少し詳しくその時の周囲のことが知りたい。もっと、こう、湖の底に穴が開いていたとか……。


「他に何か変わったことはなかったんですか?森で何かいつもと違うこととか……。」

「あー……うーん……あっ!いつもより森の動きが激しかったな!揺れがでかかった!」

「それはどんな風に?」

「ドカンッ!!!っていう感じだ。」


 テルトリが勢いよく机を叩く。床に伏せていたククが、びっくりして跳ね上がった。

 俺はその揺れ方を知っている。俺がこの世界へ来た時に森で感じた地震、あれはまさにそういう揺れ方をだった。地震大国である日本出身で、多少の地震には慣れている俺でも記憶に残るような揺れ方だ。尋常ではないと感じていたけど、それはこの世界でも変わらないようだ。さすがにあのレベルの大きさの揺れが頻繁に起きているわけではないらしい。


「それ!俺が来た時と同じです。俺がここへ来た時、同じように強く揺れて……。」


 エスターが思いっきり頭をぶつけて気絶したんだった。

 真剣な表情でサヴィの話を聞く少女に目をやる。あの時は本当に死んでしまったんじゃないかとヒヤヒヤした。こうしていると生きていてくれて本当に良かったと思う。


「では、隣の世界へ繋がる時は大きな揺れが起きるということでしょうか。」

「そうかもしれない。」


 異世界へ繋がるときにはこの森は大きく揺れる。

 ここの世界へ来てから初めて、隣の世界へ飛ぶことについて情報を得られたような気がする。以前から感じていたことだが、ここの世界の人々は飛んでくる人に寛容だ。飛んできた人に対して引っ越してきた隣人くらいの距離感で接してくる。そして、だからこそ、わざわざ聞かなければこういうことを教えてくれないのだ。戻ろうなんて考える人が少ないのかもしれないけど。


「そう言われてみれば、俺がこの世界へ来た時も森が動いてた気がしてきたな。昔過ぎてあんま覚えてないけど。」

「じゃあやっぱり……。」

「まぁ、俺はそれ以外の情報はないな。なぜなら俺は馬鹿だから忘れた!」

「そうですか。」


 エスターも若干扱いが雑な気がするのは気のせいだろうか。


「じゃあ俺はククちゃんと一緒に晩飯までそこのソファーで寝るから、用意出来たら起こして。」

「それでしたら、一回で起きなかったら夕飯は無しになりますね。」

「えっ」

「サヴィさんはサボってますから。」

「働きたくなーい!」


 そこそこ冷たいエスターに、テルトリは、ククを抱きしめて、起こしてくれよ、信じてるぜ、お前は起こしてくれるよなと泣きつく。犬に泣きつくホームレスという絵面は、かなり限界感を醸し出している。そもそも仮にも猟師の肩書があるなら、寝てないで猟をしてきてほしい。


「今度一度湖にも行ってみたいな。」

「そうですね、あれから一度も湖には近づいていませんから、また何か落とし物が見つかるかもしれませんしね。」

「こたろうの写真見れたのは本当にうれしいよ。」

「羽が無い犬なんて初めてみました。世の中には不思議なことがいっぱいです。」

「俺からしても驚きでいっぱいだよ。」


「ていうか、金儲けの話は?」

「時が来たらな。」


 ちゃんと覚えていたか。この解散する雰囲気に流されて忘れてくれるかと思ったのに。

 ただ嘘を吐いたつもりはない。ちゃんとこいつに合う仕事が見つかったら任せるつもりで言った。見つかったらな!

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