24.テルトリ
エスターの言った通り、猟師は宿屋のすぐ近くにいた。
というより玄関を出たらすぐ目の前にいた。ぼさぼさに伸びた長い髪の毛を一つに括っていて、羽織っているジャケットの袖口もぼろぼろになっている。いかにも浮浪者といった井出達だ。しかし、服全体が汚れているわけではないので妙な清潔感がある。
そのホームレ……漁師は俺が出てくるのを待ち構えていたかのように、俺の姿を目にすると腰を低くしながら擦り寄って来た。
「お兄さん……俺金無いんだよ……。地図も無くしちゃってさぁ……一泊でいいからここに泊まりたいんだよぉ……。頼むよ……ちょっとでいいから恵んでくれないか?」
「いやそれはちょっと、お金持ってないですし……。」
「でも、ここに泊まったってことは一文無しではないだろ?」
「俺ここの従業員ですよ。」
「えっ」
俺は悪くないのに気まずい雰囲気が流れる。
「従業員……?」
「あの、俺はミタカと申します。最近来たばっかで……」
「あっもしかしてエスターちゃんの言ってた新人っ?!」
「はい、多分。」
「新入りは何でもできる美形の大男って聞いてたんだけどなぁ。」
「それは俺も初めて聞いたわ……。」
エスター、随分と盛って話をしているみたいだ。彼女は褒めて伸ばすスタンスみたいだけど、俺はただでさえエスターの仕事を減らせなくて悩んでるのに、そんな風に言われると少し困ってしまう。まさか、他の人にもこういう紹介の仕方をしているんだろうか。
「あ、テルトリさん!」
建物の陰から大きな袋を抱えたエスターが現れる。またそんな重そうなもの持って……。
「エスターちゃーん。こいつが新人?もっとすごいやつかと思ってたけど。」
「ミタカさんはすごい方ですよ、サボりませんし、何でもやってくれます!」
「それは言い過ぎだよ。」
「そうですか?私はそう感じていますよ?」
話している最中に、エスターの手からサッと袋を奪い取る。袋はずっしりと重く、中身はつやつやしたリンゴだった。10㎏近くあるんじゃないかこれ。
「全然美形でもないし!エスターちゃんが取られたかと思ったよ。」
「そうですか?私はかっこいいと思いますけど……。」
「そういうのいいですから。」
美少女は自分の顔面を棚に上げてキョトンとして首を傾げる。お世辞を言っているようには見えない。俺の美的感覚がおかしいだけで、実はこの世界では俺は美形の可能性が……?
「えっかっこよくないですか?」
「いやぁ、大げさに言っても……、普通でしょ。」
男は呆れた顔をする。やはりまたエスターの優しさがまた発揮されているだけのようだ。こういう褒め方をするのがエスターの褒め方なのかもしれないけど、事実にそぐわないことを言うのはちょっと止めてほしい、ただただ俺が恥ずかしいだけだ。
「えっ私はすごくかっこいいと思います。」
「エスターちゃんマジで言ってる?」
「確かに目立つ方ではありませんけど、ここへ来た時から私を背負ってくださいましたし、仕事も文句ひとつ言わずに毎日頑張ってくれますし、それに顔立ちだって普通に……」
「あの……もう……」
過剰な誉め言葉に耐えられなくなって止めに入る。
「えっ……」
その声にエスターは口を開けたまま固まる。
そして一秒置いて、顔を真っ赤に染めた。あわあわを唇を震わせると、それを隠すように両手で顔を覆った。
「や、やだ……。」
耳まで真っ赤にして、震える声で呟く。普段あれだけ人を誉めまくっているのに、今回のはダメらしい。本当は俺が赤面したいくらいだが、ここまで分かりやすく照れられてしまうともはや微笑ましい。
突然顔を真っ赤にして照れまくるエスターに、男はため息をつく。俺になんとも言えない哀れみのような視線を向けてくるが、俺は今最高に気分がいいからなんとも思わない。エスターが!俺のこと!かっこいいってよ!!にやけてしまわないように、顔の筋肉を必死に押さえつける。
「お客さんが居るっていうから金たかりに来たのに、なんで惚気られてんだろうなぁ。」
「お、お客様はもうお帰りになりましたっ……。」
「一歩遅かったか……!」
こいつクズだわ。
どうやらダリアとネリネに金を集るつもりだったようだ。確かにあの二人は金を持っていたけど、あの二人に金を集っているこいつの光景は悲惨すぎるのであまり想像したくない。
「そ、そうだ。ミタカさん、こちら猟師のテルトリさんです。」
「どうも、猟師という名の乞食テルトリです。よろしくどうぞ。」
「ええどうも、俺はミタカです。」
「さっき聞いたなぁ、飛んできたんだっけ?実はね、俺もなんだわ。」
「マジで?!」
結論から言うと、テルトリは飛んできた人だった。
だけど、俺と同じ世界から来たわけではなく、また違う他の世界から来たということだった。飛んできた人に会うのは初めてだが、どちらかと言うとこちらの世界観に近いところから来たらしい。俺の世界の話をしてもほとんど通じず、スマホやコンピューターの類は存在しない世界らしかった。むしろ、こいつの世界には魔法があるらしい。隣の世界、結構ファンタジーだな。
「テルトリさんがこちらへ来たのはかなり昔でしたよね。」
「ああ、もう10年以上前だな。」
「そんなに……。」
つまりこの人は10年以上ここに居るということだ。俺はまだ帰もことを諦めていないけど、この人にはもう自分の世界へ帰りたいっていう意思はないんだろうか。
「まぁ、オレの世界はかなり終わりかけだったし、ここに来れて良かったけどな。」
「終わりかけ?」
「やばい病気が蔓延して町が無くなった。オレは幸運にも生き残ったけど!」
「それはなんていうか……。」
「別にもう終わったことだからな。」
なんてことないように笑っているが、それ以上にここへ飛んで来た背景が想像以上に重い。上司にキレて携帯ぶん投げてうっかりここへ来た俺とは違う。これだけ馬鹿そうな雰囲気を装っているのももしかしてわざとだったりするんだろうか……。
「でも、その後拾ってくれた家の金食いつぶしたり、その後働いたところで奥さん寝とってみたりいろいろしたけど今が一番楽しいしな!借金取りも来ねぇし!」
やっぱこいつクズだわ。




