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19.報告

 うきうきした気持ちのまま、エスターと共に面接の結果を伝えようとノアの元へ向かった。ノアの自室の扉は開いたままで、珍しく机に向かって調べ物をしていた。ここへ来てから机に向かって何かをしているところを初めて見たかもしれない。

 様々な大きさの本を開いて、さらさらと何かを書き移している。遠目に人型の絵が見えるから、医学関連の本なのかもしれない。そういえば医者だったこの人。俺が失礼しますと声を掛けると、露骨にかったるそうにしながら顔を上げる。


「ノアさん、リューさんは採用になりました。」

「はーいよーって、いないじゃん。連れてこいって言わなかったっけ。」

「おじ様、それが……。」


 リューを連れて来なかったことに不思議そうな顔をするノアへ、エスターは事情を説明する。そして、今すぐ仕事を辞めるために出て行ったと聞いた途端、苦いものでも口に入れたような顔をする。


「あー、あ~……リューちゃんはあそこで働いてるんだったな。あーあーそうだっためんどくせーなー」

「そのお屋敷なんかあるんですか。」

「あ?そうだよ。あいつらはいちいちちょっかい出してくるから好きじゃないんだ。」


 ノアが本気で嫌そうな顔をする。お屋敷の人達への印象は、リューの話を聞いたばかりだからあまり良くはない。エスターがそういう素振りを見せないから気がつかなかったが、ノアと仲が良くないのなら少し配慮するべきだったか。ここまでノアが嫌な顔をするのは予想外だった。それに、ノアと仲が悪いのだとしたらやっぱりリューを一人で行かせない方が良かったんじゃないか。


「嫌なんだよあいつら。勝手に木切るし、花植えたりするし……。」

「そうですねぇ、朝起きたら壁の色が変わっていたときはさすがに驚きました。」

「やることがいちいちズレてんだよ。

「どういうことなんだ一体……。」


 なんかそんなゲームやったことあるな。

 しかし、リューに真面目に仕事をしろと言っているイメージからはかけ離れた所業だが、お屋敷は一体どんな人たちが住んでいるんだ。この世界の常識に少しは慣れてきたような気になっていたが、まだまだこの世界というものの一部にしか触れられていないみたいだ。壁勝手に塗り替えるとか常識どうなってるんだよ。


「ところでお前さ、どうせ掃除で雇ってないんだろ。」

「バレました?」

「リューちゃんが掃除なんてできるとは思えないね。」


 思いっきり別の仕事で雇ったことをしっかり見抜かれている。俺がどさくさに紛れてここを立て直そうとしていることがバレなければいいけど。バレるにしたってまだその時じゃない。


 ただ、リューが掃除なんてできないというのはまた別の話だ。リュー自身が掃除という仕事に自信がなかったこと、俺はそれ以上に向いていることがあると思ったから掃除で雇わなかっただけで、リューが絶対に掃除ができないなんて思わない。きっとリューは任せたら任せたで真面目に取り組んでくれただろうと思う。


「そうです、森の案内役として雇いました。次の人を雇うためにもお金が必要ですから、お客さんをリューに案内してきてもらう。そして資金をじわじわ増やしていこうという魂胆です。決してリューが掃除を絶対できないと思ったから、掃除で雇わなかったわけじゃありません。」

「おじ様、リューさんにそんなこと言ったら許しませんからね。」

「はいはい……すみませんでしたね……。」


 ノアは拗ねたようにため息をつく。言わなきゃいいのに、わざわざ言うのがノアなんだろうな。唇を突き出して怒ってますよオーラを出すエスターと、それに押されるノアはなんだか本当に親子みたいで微笑ましい。


 俺も娘が欲しいなぁ……。20代になったらすぐ結婚できると思っていたのになぁ……。あ、涙でそう。


「でも、お掃除の方はまた別に探さないといけませんね。」


 エスターの呟きで、軽くトリップしていた脳が現実に引き戻される。リューを掃除で雇わなかったのだから、また新しく掃除担当の人を雇わなくてはならない。また町に張り紙をするか?あの張り紙は改良する必要があるからそのままは使えないけど。


「まぁーなんでもいいけど、リューちゃんを雇ったのに、次のやつを朝から晩まで雇う余裕はないぞ。」

「あ、その、リューさんの地図を印刷して売ろうということも話していて……。」

「じゃあ尚更金がないな。ミタカ、お前は当分無給だ。」

「無給?!おじ様、私が節約しますから無給はさすがに……。」

「残念だけど冗談じゃなくて本当にそんな余裕はないで~す。」


 前から無給とは言われていたし、ここに居候させてもらっているんだからそれくらいどうってことない。それに俺はここでまだ金を使ったことがない。3食ついて、休憩も睡眠も取れて、生活費も払っていない。今の能力からしたら十分の給料だと思う。もし給料が欲しければここの売上を上げれば良い。


「俺はそれでいいです。だからとりあえず地図を印刷させてください。まずそこからです。」

「ダリアちゃん達に頼むの?」

「はい、そのつもりですけど。」

「ああ、お前は知らないかもしれないけど、あの子達の印刷所高いよ。」

「えっそんなに?」

「直接聞いたからな、やべーぞ。」


 現代で印刷を頼む感覚で考えてしまっていた。せっかくそこに印刷業者がいるんだから!と衝動的な行動をとってしまったことは否めない。それに石がどうのっていう技術が特別な人にしか扱えないものなら価値が高くてもおかしくない。うっかりしてた。


「俺が出せる予算には上限がある。雇っていいって言った手前、俺の給料までは削るけどそれで無理なら印刷は諦めてくれよ。」


 顔はこっちを向いているが、俺ではなくエスターに向かって言っているようだ。諦めて欲しい、という言葉にはいろいろな意味が詰まっている気がする。


「もういざとなったら私達で書けばいいんですよっ!ねっ!」

「そうですね……」

「いきなり諦めることありませんよね!


 ポジティブなのはいいことだが、その方法は最後の手段にしたい。エスターの言う通り、何もすぐに全部を諦めることはない。もしだめなら他の方法を考えればいいだけだ。

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