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18.結果

 俯いたリューは、1分近く黙っていた。俺にはその沈黙が3時間くらいに感じられたし、リューはそれだけしっかり悩んでいた。はっと口を開いては閉じて、開いては閉じて、本気で迷っているのが分かった。


 得意でも、得意だから、それを仕事にするのは怖い。必要ないと言われたら、自分まで否定されてしまう。


「リューは……」


「リューは……地図は役に立つ?」

「ええ、もちろん、もちろん!」


 勢い余って椅子から立ち上がったエスターを、リューはまるで迷子の子犬のような表情で見上げる。よし、と言われたのに、本当に?本当に?と飼い主の顔色を伺っているみたいな表情。それがあまりに所在なさげで、思わず抱きしめたくなる。


「地図を作るのも?」

「ああ、いくらでも作ってくれ!」


 やりたい、やりたいけど、と目が無言で訴えかけてくる。今までの経験がリューの邪魔をしているんだろう。

 さっきのように、見て見て!と地図を広げて見せた時、お屋敷の人たちはそんな無駄なことはやめろと言った。リューが居れば地図なんて必要ないと。だから、またそう言われるんじゃないかと不安な気持ちが拭えないんだ。


 だけど嬉しい、リューにやる気が見える。本当にやりたい、という気持ちがちゃんと感じられる。これは、リューがやりたい"楽しい仕事"なんだ。

 それにリューが心配している地図だって、いらないなんてことにはならない。俺たちが使うだけじゃなく、リューにしか出来ない仕事になる。


「リュー!働くのと一緒にその地図、売らせてくれ!」

「え、い、いいけど……売るの。」

「ああ、売る!」


 よしきた。


 承諾の言葉を聞いた瞬間、くるりと体の向きを変えて、隣に座っていたダリアの肩をがしっと掴む。


「お願いします!あの地図を印刷してください!!」

「は、えぇ?突然何っは、離して!」


 困惑して顔を赤くするダリアから手を振りほどかれそうになるが、絶対承諾してもらうまで離さないぞ。それまでぼーっと何かを考えていたらしいダリアを、起こす叩きように肩を揺さぶる。


「頼む!!20、いや10、もう5枚でもいいから!」

「や、やぁ!いや!分かったから揺さぶらないで!」

「ありがとうダリア!」


 印刷して貰えるなら、地図を商品として売ることができる。そうすればリューにも金が入るし、ここにも人が来る。我ながらいい考えだ。隣で目を回しているダリアを指差しながら笑っているネリネも、承諾してくれたと見て良いな。


 俺が一人でうんうんと満足していると、ケラケラと笑っていたネリネはうーんと、とリューを見た後、地図を指差しながら言う。


「でも、それさぁ、売るのぉ?リューちゃんが案内するなら売らない方がいいんじゃなぁい?」


「売らなければ、独占できるよぉ?」


 ネリネはへらへらしながら至極真っ当な事言う。確かに地図を売らなければリューが森の案内という仕事を独占できる。お屋敷の人達が言うように地図はなくてもいい。だけど、


「そうだね、でも俺は地図を売ってもいいと思う。森はどうせ動くからどんどん地図は更新されるし、リューが正しい地図を作れることが周知されればリューの信頼が上がる。地図があればいい人はそれでいいし、案内を頼む人は誰だって信頼してる人に案内されたいと思う。だったら、リューに案内される方が“安心”だろ?」


 ネリネの言うことも間違ってはいないが、案内できる人が1人しかいない以上地図を売った方がいい。どんなに地図が普及したって、案内役がいるツアーは安心感がある。自分よりも詳しい人が先導してくれることにはいつだって価値があるんだ。リューはその“安心感”を売ることができる。


「ほほう、絶対に地図を売るとおっしゃるぅ。」

「売れない心配なんて、売れなかったときすればいい。」

「まぁね、ミタカくんの首を掛けちゃうって?」

「クビなんて!私がさせませんよっ!」


 最悪それでもいい、俺はこの地図が売れないとは思わない。


「地図、売れる……。」

「売れる、売れるよ。」

「仕事になる……。」

「ああ、もちろん。」


 その場をぽかんとした顔で見ていたリューの呟きに相槌を打つ。自分で分かるくらい今俺は満面の笑みをしている。


「な!」

「はい!!」


 エスターも負けず劣らずの笑顔を返してくれた。


「リューは、ミタカを信じる。地図売って。」

「ああ、任せろ!高値で売り捌…きはしないけど、ちゃんと売る!」

「うん……!」

「だから、ここで案内役として働いてくれる?」

「やりたい!やる!」


 リューが納得して頷いてくれたのが何より嬉しい。やりましたね!と満面の笑みを浮かべるエスターと、手を取り合って喜びを分かち合う。


「じゃあまた細かい契約とかは後で決めるってことでいいですか?」

「何でもいい。リューは今すぐお屋敷を辞めてくる。」


 ああそうだった。まだ働いてるんだっけ。

 正直なところあまり行って欲しくない。今までの話を聞いていると、決して良い扱いはされていないようだし、また自信をなくされたら……。

 でも、仕事はしっかりきっちり辞めないといけない。なぁなぁで辞めてしまうと、後で自分の心にわだかまりを残すことになる。だから辞める時はきっぱり辞めた方がいい。


「私も一緒に行きましょうか?」

「いい、いらない。」


 エスターの提案を断って、持っていた地図をダリアへ手渡す。これはダリアに預ける、そう言うとその場の誰が引き止める隙もなく、リューは颯爽とロビーから出て言った。


 やっぱりリューはすごい人だ。いくら内定が出たからってその足で今の仕事を辞めに行くバイタリティを見習いたい。あれだけの行動力があるから地図なんて作れるんだろうな。


「なんだか、とても疲れました……。」

「わかる……。」


 リューが出て行ってシーンとしたロビーで、エスターが脱力して机に突っ伏す。それにつられて俺も机の上にでろっと伸びる。なんだかこの感じは久しぶりだ。仕事した感がある。

 でも、メンタルが強そうとか、文句言わなさそうとかいう理由だけで人選んでいた時より、楽しかった。絶対この仕事に向いていないと思いながら採用してる時より、圧倒的な満足感があった。


 リューは今みたいに突然出て行っちゃったり、ポスターを無断で剥がしたり、ちょいちょい行動的過ぎるところがある。それは俺たちがサポートしなければならない。でも、きっとそれを補って余りあるくらいの良いところがある。そしてきっとそれを生かすことができる。


「ミタカさん!おじ様に報告しに行きましょう!」

「そうだね。」


 スキップでもしそうなくらい晴れやかな気持ちで、ノアの元へと向かった。

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