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16.面接

「じゃあ、名前と自己紹介をどうぞ。」

「リューは、リュー。働きたい。」

「は、はい、リューさん、よろしくお願いします。」

「よろしく。」


 自己紹介それだけ?と声に出そうになったがここはぐっと堪えた。この世界ではもしかしたらこれが自己紹介なのかもしれない。

 そして、いきなり相手がストレスを感じるようなことを言うのはだめだ、萎縮して何も喋らなくなってしまう可能性がある。今ストレスチェックは必要ない。


「リューさん、無理に緊張しなくていいですからね。」

「うん。」


 表情はかなり強張っている。ガッチガチに緊張しちゃってるな……。


-


 面接はロビーで行うことになった。入り口の目の前で面接というのもどうかと思ったが、椅子を対面で並べて距離を取れる場所がここしかなかったので、ここで行う事になった。

 ずらっと並べられた椅子には、エスターと俺、それになぜかダリアとネリネが座っている。


 一応経営者であるノアだが、面接は面倒だから決定したら連れて来いと居なくなってしまった。ノアが居なくとも4対1の紛うことなき圧迫面接だが、正直目の前に一人で座っているリューの方が圧が凄い。凄まじい緊張感で、まるで俺達が面接されているみたいだ。


「リューさん、もっと肩の力抜いて……。」

「リューを雇うのか、雇わないのか?」

「少し質問させて貰っても良いですかね?」

「……うん。」


「今日も森を通ってここまで来たんですよね?」

「うん。」

「今日の森の様子はどうでしたか?」

「穏やか、いい天気だから。」

「じゃあ、また鳥とかも見れました?」

「ああ、いた。」


 いつも通りの会話だけど、少しはアイスブレイクになっているだろうか……。


「ねぇ」


 ダリアが口を開く。


「あなた、宿屋ってどんなものだと思う?」

「宿はないと大変。」

「大変って随分大雑把ね。」


「え~じゃあじゃあ、リューちゃんはどんな鳥が好きぃ?私は白いのぉ!」

「森の一番大きな木に、巣を作っている白い鳥が、好き。」

「そっかぁ、私も見たーい!」


「リューさん、どうしてここで働きたいと思って下さったのですか?」

「ああ、楽しそうだった。」

「そ、そうですか。」

「エスターは楽しい?」

「はい、仕事が多くて大変ですけれど、毎日楽しんで仕事をしていますよ。」

「そうか。」


 ダリアに続いて、それぞれが質問をするがあまり芳しくない。エスターはもはや面接されてしまっている。困ったように笑っているが、聞きたいのはそういう事じゃないっていう顔をしている。


 もしかするとこの世界にはこういう形式の面接はないんだろうか。質問が途絶えて、シーンとした空間でリューと目が会う。強張るリューの顔が、こういうのは苦手なんだ!と訴えてくる。緊張のし過ぎで手が震えている。リューは本当にここで働きたいんだろうか。



「……リューさんは、どうしてわざわざ町からその紙を持ってきたんでしたっけ?」

「リューは、何にもできないから、他の人が来たらいらない。だから、他の人が来たら、来ないように……。」


 リューは他の人がここへ来たら、自分はいらなくなると思っている。ここへ来たばかりでそこまで信用されていない俺はともかく、リューと仲の良いエスターがそんなことをすると思っているのだろうか。エスターは俺にだって仕事を教えてくれるのだから、もし何も出来なくても、働きたいという意思があれば見捨てたりしないだろう。


「何にもできない?なぜそう思われるのですか?」

「リューは、何やってもだめ。だめ、だから……。」


 リューが突然自分を卑下し始めた。普通の面接だったらこの時点で不採用になってしまう。自分は何もできませんなんて言われて採用する人は滅多にいない。少なくとも俺は不採用にする。エスターはどう感じただろう。


 ここは今までの世界ではないし、目の前で小さく手を震わせている子も、あの世界の人間ではない。だからもう少し話を聞いてみなくてはいけないという思いもある。


「リューさんは、何にもできないって言うならどうしてここで働こうと思ってくれたの?」

「りゅ、リューは役立たず。だけど、楽しそうだったから……」

「楽しそうかぁ、なるほどぉ?ネリネちゃんは仕事したくないから偉いと思うなぁ~」

「楽しい、仕事がしたい……。」


 ネリネの仕事をしたくないという気持ちも、どうせやるなら楽しい仕事がしたいというその気持ちは痛いほど分かる。けれど、楽しく働きたいというだけでは理由にならない。楽しいかどうか、それは自分で決めることだ。


 というかリューは今どこかで働いているらしい。この世界には履歴書というシステムがないから、相手が教えてくれない限り分からなかった。いくら突発とはいえ、適当にそれっぽいものを準備しておくべきだったか。


「リューさんは本当に自分が何にもできないと思うの?掃除も洗濯も料理も。」

「全部、だめって言われた。」

「誰に?」

「今、働く、働いてる家。」

「お手伝いさんやってるの?」


 リューはこくりと頷いた。リューは出会いが出会いだったから妖精さんみたいな感覚があったが、ちゃんと社会人だった。えらい。

 この歳(?)で働いているなんて本当に偉いと思う。決していい扱いを受けているわけではないみたいだけど。


「リューさん、今募集しているのはお掃除をして下さる方なんです。リューさんは仕事としてお掃除ができますか?」

「分からない、前は出来なかった……。」


 エスターの顔が曇った。分からない、という正直過ぎる言葉にどう反応したらいいのか困っているようだ。彼女は今の宿屋の仕事が、自分一人のやる気だけでは終わらないことを誰よりもよく分かっている。


 毎日毎日、自分一人だけやる気があっても、教えた人間にやる気がなければ直ぐにここから居なくなってしまう。そして、もしそれでリューが辞めれば、リューはもう二度とここには来なくなってしまうと思っている。


 万が一にもないだろうと思っていたが、リューがこのままだとエスターによって不採用になることもありそうだ。


「それじゃあ……」

「うん。」

「じゃあリューさんの得意なことは何かある?」

「得意、得意?」

「リューさんが、自信を持ってできることは何がある?」

「……。」

「あなたが上手なことよ。」

「んぅ……。」


 ダリアが助け舟を出してくれているが、答えられずに唸っている。リューが得意としていることは俺でも分かる。既に何度も助けられた。

 だけど、本人はそれが得意なことだとは思っていないみたいだ。得意なことほど極めているとは思えないっていうあれなんだろうか。床を見つめながらスカートを強く握り締めて、喋らなくなってしまったリューに違う質問を投げかける。



「じゃあ好きなものとか好きなことを教えて。」



 この質問は最後の手段だ。好きなことや好きなものを答えられなかったら、不採用にするかもしれない。


 好きなものや好きなことはその人の核だ。それがない人に仕事は続けていくことは難しい。エスターもそれを感じているようで、ゴクリと喉が鳴る音が聞こえた。



「リューは、」



「リューは、森が好き。森は動く。それだけじゃない、動くと新しくなる。新しいから地図が変わる。地図を作る時走るのも好き。頭の中で、並び替えて収める。森は気になるものを追いかけても怒らない。あっそうだ、地図見る?できたばっかり!」


 一言目を発すると、矢継ぎ早に次の言葉が出てきた。良いことを思いついたと言わんばかりにハッとして、目をきらきらさせながら出来たばかりの地図を取り出して見せてくれる。


 その場の 凍っていた空気が溶けていく、良かった……ちゃんと答えてくれるって信じてた。


「リューさんは、森が好きなんだね。」

「ええ、ええ!そうおっしゃると思っていました!」

「昨日持ってたやつぅ?」

「私もちゃんと見たいわ。」


4人でリューが広げた地図を覗き込んだ。

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