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15.絶対来るよ

 求人票を出して3日、誰かが訪ねてくることは無かった。

 宿には相変わらずダリアとネリネが居座っているし、誰も来ないからエスターはずっと忙しいままだ。夜になると俺には仕事の終わりを告げるが、自分はいつまでも仕事をしている。エスターに手伝うと言っても仕事ではありませんよ、と言って手伝わせてはくれない。


 しかも、ダリアとネリネが未だにここに残っている理由は、最初に採用された人を見てみたいかららしい。ちゃんと宿泊費を払ってくれているからいいが、いつまでここにいるつもりなんだろう。


 そして、俺としては結果的にエスターの仕事を増やしてしまったことになる。このまま誰も来なかったら……それだけは勘弁して欲しい。


「ねーえー今日も来ないのかなぁ~」

「俺に聞かないでくれ。」

「でもしょうがないよね、この森の中までわざわざ来ようなんて思う人少ないからぁ……。」

「ネリネはもう誰も来ないと思うか?」

「うーん、どうだろうねぇ、ネリネちゃん的直感だとそろそろ来ると思うんだけどぉ。」


 昼過ぎのロビーでソファーの上に伸びきったネリネは、頭に両手を当てながらううむと唸る。

 直感か、もう新しい求人票を作り直そうかと思っていたけどもう少し待ってみようかな。

 昼食とその後の時間は、エスターも同じテーブルについているおかげで、少しだけのんびりした時間を過ごすことが出来る。どうやらこの世界では全員がテーブルにつかないと食事が始まらないらしい。とてもいい文化だ。


「誰も来ないんじゃねーの。」

「おじ様、それは分かりませんよ。現にお二人は気に入ってくださっていますし。」

「それは、ここまで来なきゃ分からないだろ。」

「あら、ノアは自信がないのね、私は絶対来ると思うけれど。」


 この二人はここ2日間同じ会話を繰り返している。どちらかと言えばノアの方が一般的な意見だと思うが、ダリアとネリネはどうしてこんなに来ると信じられるのだろう。何か俺が知らないことでもあるんだろうか。


 そんなことをボーっと考えていたとき、ギィと音を立てて正面玄関の扉が開いた。


「!!!!いらっしゃいませ!!」

「い、いらっしゃいませ。」


 椅子から跳ねるように立ち上がったエスターが元気のいい挨拶をする。それに続いて俺も挨拶をしながら勢いよく頭を下げた。あっ頭は下げなくていいんだっけ。


 どんな人が来ているのか、男か女か、見た目は人間か、ドキドキワクワクしながら恐る恐る顔を上げると、そこには小柄なグレーの髪の少女が立っていた。


「なんだ、リューかぁ……。」


 思わず緊張が解けて、本音と共にため息をついてしまう。


「なんだとは何よ。」

「そうだぞぉ!」

「リューに紙を貼って貰ったの忘れたの?」

「ミタカのくせに生意気だぞぉ!」


 どうやら、この双子はリューと1日町にお出かけしたことで、俺よりリューの方が高感度が高くなってしまったらしい。当たり前に責められてるけど、俺は悪くな……俺が悪かったよ!


「リューさんそれは……。」

「エスター、あの」


 エスターはリューが手に握り締めているものを見つめながら問いかける。リューが握り締めていたものは、くるくると丸められた紙だった。


 この紙はあれだ、町へ行く3人に託した従業員募集の紙だ。ああそうか、リューが持っていたのか、それなら誰も来ないだろう。町に貼ってないんだから。


「リューさん、どうしてそれがここにあるのですか。」


 エスターは落ち着いた声で問いかける。エスターは本当に、どうしてそれがここにあるのか知りたいようだった。怒りとかそういったものは一切感じさせない穏やかな声で喋る。


 そもそもリューは、町から戻ってきたときちゃんと貼ってきたと言った。あれは嘘だったのだろうか。


「リューは……」

「リューさん、どうして持って帰って来たんですか?何か不備が見つかった?」


 リューが理由もなくそんなことをやるとは思えない。リューだって宿屋で皆が楽しそうに誰か来ないかと、話しているのを見ていたんだから悪意があったとは思いたくない。



「リューは、」



「うん」



「リューは、働きたい。」



 一度深呼吸してから、リューは言った。


「そ、そうでしたか!それなら早く言ってくだされば良かったのに。」

「やっぱかぁ〜」

「それならやっぱり剥がさなくても良かったと思うけどね。」

「で、でも他の人来たら、リューいらない。」

「そんなことありませんよ!何人来てくださっても嬉しいです!」

「待ってたよ!ずっと待ってたもんねぇ!ねぇミタカ?」


 明らかに落ち込んだ様子を見せるリューに、周囲は気にすることないと声をかける。それに俺だって謝られるよりマシだ。


 しかし、空気の読めない男が正論を吐く。


「まぁ何人もは雇えないな。」

「おじ様っ!」


 確かに新たな人を雇えば俺が無給になるんだから、何人も雇うことはできない。しかし、多少リューが罪悪感を感じているようなのだからもっと気遣って上げてもいいのに。


「じゃあ……とりあえず面接しよっか。」

「……うん!」


 俺の言葉に頷くまで若干の間があったが、何か気になることでもあるんだろうか。正直俺の方が引っかかるものがある。若くて十代、どれだけ歳をとっていても二十代前半に見えるエスターよりも、リューは年下に見える。

 周囲はノアを含めた全員が、働きたいと言っているリューを止めることをしないから、きっとこの世界でこれくらいの子が働くのはおかしな事ではないのだろうか。俺の頭には児童労働という文字が浮かんでいるけど……。


「がんばる。」


「働く。」


 やたら気合いを入れているリューが、もし気になることがあるのなら、面接の時にちゃんと聞いておかなければならない。本人がわざわざ3日も考えて募集の紙を持ってきているのだから、こっちが何も考えずにはい採用!って言ったらそれはそれで失礼だろうし。


「どういう形式がいいかな……」


 最後に面接したのが遠い昔に感じる。スーツもないし、履歴書もない。チェックリストもないし、無茶な要求をしてくる上司もいない。それにこんな小さい子を面接したことなんて無いから少し考えないと。いざ応募者が来ると心配事が出てくるあたり、俺は小心者だな。


「私も、出来ることは何でもお手伝いします!」


 そう思いながらも、エスターの言葉を聞いて彼女が手伝ってくれるならなんとかなるかもな、と随分楽観的な自分に思わず笑いが出た。

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